一、桃色注意報 3、
「それで?アイリーン嬢。君が見た夢に出て来るという、節操無し女・・男爵令嬢の名前は?」
唐突に話題を変換されたアイリーンは、何を考えるより前に、ゲームでの愛らしい彼女を思い出しつつ、その名前を答える。
「ベティ・コーツ男爵令嬢です。桃色の髪と瞳が可愛い・・・」
「僕達が、その女に会うのは、いつ?」
「十五歳です。貴族院で、運命の出会いを」
「手玉に取る相手は、複数だと言ったよね?誰だか分かる?」
「あ、はい。まず、当然の如くブラッドフォード・アーサーズ公爵子息、あなた様ですね。それからクリス第二王子殿下、モーリス・フレミング侯爵子息、アシュトン・キーズ辺境伯子息のお三方。アーサーズ公爵子息を入れて、四名の方々です」
「ふううん。みんな、既に俺の知り合いなんだけど」
面白くなさそうに言ったブラッドフォードの言葉に、またもアイリーンは瞳を輝かせた。
「やっぱりですか!?皆様、ご幼少のみぎりよりのお仲間で、しかも全員優秀で見目麗しく素敵な方ばかりですよねえ」
「随分、うっとりするんだね?まるで、見て来たようだ」
「だって、素敵なスチルがたくさんあったんですよ!頭脳派のフレミング侯爵子息モーリス様のチェス対決の時のスチルとか、剣の腕ならだれにも負けないキーズ辺境伯子息アシュトン様の剣裁きとか!ああ、でも一番素敵だったのは、やっぱりブラッドフォード様が馬上で弓を射る場面。アップになっても耐えうる麗しくも凛々しいご尊顔と、馬上にも関わらず正確に弓を射る体幹の素晴らしさ・・・思い出しただけで、ごはん三杯はいけます」
「へえ。悪くないね。他の奴もいるのが気に食わないけど。で?その俺は、今からすると未来の俺ってこと?」
「そうですね。貴族院に入学してから・・・っ!」
そこで漸くはっと気づいて口を押えるも、時すでに遅し。
アイリーンは、蛇に睨まれた蛙の心境で、悪戯が成功したかのような笑みを浮かべるブラッドフォードを見た。
「ねえ、アイリーン。今の話から察するに、アイリーンは僕を嫌いじゃないよね?」
「・・・・・はい」
「良かった。僕も、君とならやっていけると確信した。ということで、婚約しても問題ないね。これから、よろしく」
「は?・・え」
前世、ブラッドフォードはアイリーンの推しだった。
なので、当然嫌いではないどころか、ずっと見つめていたい対象である。
だがしかし、だからといって婚約者になりたいかと言われると、それは恐れ多いとしか答えられない。
たとえ生身同士で向き合う状況になったとはいえ、優秀さや、容姿、人望。
どれを取ってもとても同じ土俵に立てるとは思えない、というのがアイリーンの正直な感想だった。
「君にとってもいい話だと思うんだけどな。考えてもごらんよ。今の僕は、残念ながら馬上で弓を射るなんてことはできない。でも、未来の僕はできる。ということは、アイリーン。君は、僕がそれを可能にしていく姿を、誰よりも近くで見ることができるんだ。いわば、特等席だよ?」
しかし、恐れ多いという言葉を口にするより早く、ブラッドフォードはアイリーンにとって、とてつもなく魅力的な誘いをかけて来た。
それに、アイリーンの心は、ぐらぐら揺れる。
「特等席・・確かに」
「だろう?じゃあ、決まりだね。あ、当然、僕も君を誰より近くで見守る特等席、独占させてもらうからね」
「え」
「何か、不満?僕じゃあ、やっぱり嫌なの?」
「違います!私を見守る特等席の価値と、アーサーズ公爵子息を見守る特等席の価値が同等の扱いというのは、どうなのかと思いまして」
ゲームのなかでのブラッドフォード、ということを抜きにしても、公爵子息で文武両道を地で行くブラッドフォードと自分では、それこそ月とすっぽん。
同等であるなど有り得ないと、アイリーンは苦い顔になった。
「なんだ。それは、僕のなかでは等価値だから、何も問題ないよ。そんなことより」
「そんなことより?」
そんなことではないだろう、と思うアイリーンに、ブラッドフォードは意味深な笑みを浮かべてみせる。
「うん。君が夢だと言っているもの。本当は、何なの?予知夢にしては、スチルとかいう、聞きなれない言葉があったんだけど。それも『げ』から始まる言葉に通じるものがあるのかな?」
「・・・・・・」
「言いたくない?もしくは、言えない?何か、国家機密に関するような秘密なのかな?」
「こっ!?」
何やら重大事件の匂いがと呟くブラッドフォードに、アイリーンは懸命に首を横に振った。
「あはは。今の叫び方、その仕草も可愛いね。目を見開くのも、可愛い」
「冗談はおやめください」
「冗談じゃないよ」
「揶揄うというのも」
「本当のことしか、言っていないよ?で?教えてくれる?もちろん秘密は守るし、僕は、いい共犯者になれると思うんだ」
にっこり。
そんな音がしそうな笑顔で迫るブラッドフォードに、アイリーンは全力で白旗を振った。
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