五、三位一体 1、
「今回の絵も、素晴らしいです。ブラッドフォード様」
アイリーンは、自分が考えた、カイルのための子供向け、なんちゃって冒険譚の数々の絵を見て、その出来栄えに感嘆の声をあげ、素晴らしすぎると、ときめきのため息を吐く。
「ありがとう、アイリーン。とても面白かったから、僕も場面場面の絵を描くのが、とても楽しかったんだ」
「それは良かったです。ブラッドフォード様も、なんちゃって冒険譚を気に入ってくださったのですね」
『推しにそんな風に言われて、被推し冥利に尽きる』と、アイリーンは、ほくほく笑顔になった。
そして、迷う。
あれ?
被推しっていう言い方で、合っている?
それとも、推し活者?
うーん。
私の場合は、ブラッドフォード様を推す者?
「この冒険譚、カイルもきっと気に入るよ」
「ああ。それは、私もそう思います。特にこの、ドラゴンの絵なんて夢中になって真似すると言い出すかもしれないと思っています」
うっとりと絵を見つめるアイリーンに、ブラッドフォードは苦笑を漏らす。
「僕は、なんちゃっては要らないよって言いたかったんだけど。でも、一緒に絵を描くのも楽しそうだから、その時は、アイリーンも一緒に描こうね」
「うぐっ。私は、その時は見学希望で」
「まあ、それもいいかもね。で。次は、どんな絵本を作ろうか」
『絵を描くのは・・トラウマが・・』と、本気で胸を押さえるアイリーンを可愛いと見つめ、ブラッドフォードは次回作についての話を始めた。
「それなんですけれど。ブラッドフォード様。次の絵も楽しみですけれど、私はこれを、もっとたくさんの人に見てもらいたいです。できれば、使用人の子供たちや孤児院の子供たちにも配れるようにしたいんです」
アイリーンとブラッドフォードが作る飛び出す絵本の完成度は高いけれど、如何せんふたりだけで作っているので、各話について一冊ずつしか本を作ることが出来ない現状を打破したいと、アイリーンはブラッドフォードに相談を持ち掛けた。
「もっとたくさんの人に、もっと安価でか。事業としてはそれが理想だし、僕もそう出来ればと思うけれど、そうたくさん同じ絵を描くのは難しいかな。アイリーンだって、文字をたくさん書くの大変だろう?」
「そうですね。文字の方は、他の人に書き写してもらう方法も取れるでしょうが、絵は、ブラッドフォード様が描いてこそ、ですので!」
そこは譲れないと、自分の描いた絵を絶賛するアイリーンに、ブラッドフォードはくすぐったいような気持ちを覚える。
「ありがとう、アイリーン。僕もアイリーンが考えた話を一番に読めて、挿絵を描けることが嬉しいよ。そしてそれを、アイリーンが飛び出すように細工してくれるのも嬉しい」
「あ、ありがとうございます、ブラッドフォード様」
互いに褒め合い、照れ合うふたりを、侍女と護衛が温かい眼差しで見つめるなか、気を取り直したように、ブラッドフォードが、こほんと小さく咳払いした。
「う、うん。でもね、アイリーン。現実問題として、使用人が手に入れられるくらいの価格にすることや、ましてや慰問で孤児院に渡せるほど安価にするのも難しいよ?」
「はい。今のままでは、絶対に無理ですよね。そこでです、ブラッドフォード様。絵本の量産を試みる、というのはいかがでしょうか?もちろん、ブラッドフォード様の絵を損なうことなく、です」
その、ブラッドフォードとしては思いもかけない提案に、彼は幾度も目をぱちぱちと瞬かせてしまう。
「え?絵本を量産?文字や絵を、書き写すという方法ではなく、一作の絵本をはじめからくさん作るということ?」
絵本は、オリジナルの一冊。
複数冊作成するにしても、オリジナルから写本を作る。
そう思っていたブラッドフォードは、青天の霹靂とアイリーンを見つめる。
「はい。一作の本を、より多くのひとへです。それには、三位一体が不可欠なのですが、これが出来るようになれば、絵本の量産は元より、小さい子に文字や言葉を教えるときにも、とてもいい教材が出来ると思うのです」
「うん、アイリーン。ゆっくり話そうか」
アイリーン発想の絵本や飛び出す絵本は、既にドレイク伯爵が権利を確保しているし、自分ももちろん知っているが、三位一体とは一体何かと、ブラッドフォードは改めて脳内でメモを取る準備を進めた。




