四、ゲームと現実 6、
「いい匂いだね。これが、ごはん」
「ほんっといい匂い!これが本当に、あの他領に馬鹿にされまくる、飼料にしかならない安価な米か!?」
「ああ。こんな料理、見たことない」
アイリーン会心の出来の、炊き立てつやつやごはんを前に、クリス、アシュトン、モーリスの三人は、固まったまま、白く輝くごはんと、そこから立ち上る湯気から目を離せない。
「白いごはんは、色々なおかずに合うんですよ。この巻物なんかもごはんを使っているのですが、まずはそのまま、白いごはんを食べてみてください。その後、こちらもご一緒にどうぞ」
そう言って、自身手作りのしぐれ煮やふりかけを用意しつつ、アイリーンは笑顔で薦めた。
「おいしい」
「うまっ」
「うん。いい味だ」
「本当だ。凄くおいしいね、アイリーン嬢」
初めてごはんを食べる四人は、それぞれ目を見開いて、感嘆の声をあげる。
「よかったです。そうしましたら、ごはんのお供も・・・あ、こちらをお使いくだしい」
言いつつ、それぞれに取り皿を用意して、アイリーンは四人を見守った。
「・・・っ。この、しぐれ煮というの、いいな」
「へえ。モーリスが、そんな風に言うの初めて聞いたかも・・あ、ほんとだ!美味しい!」
見た目には仏頂面のままに言うモーリスにアシュトンが驚きの目を向け、それほどなのかと試してみて、こちらは見た目に分かりやすく美味しさを体現する。
「ぼくは、この魚のほぐし身も好きだな」
「アイリーン。これって、あの海老の尻尾で作ったという、ふりかけだよね?すっごく美味しいんだけど!」
一方で、クリスは魚のほぐし身に興味を覚え、ブラッドフォードは、驚きのあまり大きな声を出した。
それもそのはず。
初めてアイリーンに、このふりかけの材料を聞いたとき『ええええ。先に取り除いた物とはいえ、海老の尻尾でおかずを作るの?本気?』と、半信半疑でいたのだから。
「ふふ。驚きましたか?」
「ああ、驚いた!確かにアイリーンは、自信満々だったけれども」
目を丸くするブラッドフォード様、可愛い!
しかも、海老の尻尾を使ったふりかけを食べているとか。
庶民派ブラッドフォード様も、最高!
「ブラッドフォード様は、あれでおかずが作れるとか、信じていませんでしたものね。でもこれは、正真正銘、料理長に言って取っておいてもらった海老の尻尾です。海老の殻で出汁を取った、お味噌汁やスープも美味しいですよ」
「捨てる部位で作る料理か。これなら、貧民街でも・・・。ねえ、アイリーン嬢。今度、これの使用について、ぼくと相談しよう」
アイリーンが『どんなブラッドフォード様も、可愛くて素敵』と、うふふしながら話していると、クリスが真面目な顔でそう切り出した。
「え?ええと、相談とは何をでしょうか?」
「アイリーン嬢の知識を、国として正式に登録して活用したいということだよ」
「評価していただいて、ありがとうございます殿下。ですが、知識というほどのものでもありませんので、い・・っ・・わっかりました。それでしたら、そのお話し合いのときには、両親とブラッドフォード様も同席でお願いします」
あやうく『そんな相談などしなくとも、今ここで利用法を説明します!』と言いかけたアイリーンは、ブラッドフォードの目が『それじゃ駄目だよ、アイリーン』と言っているのを確認して、改めて話し合いの場を設ける約束をするに留める。
「ねえ、アイリーン嬢。俺、不思議なんだけどさ。ゲームに、コロッポルって名前、出て来なかったの?」
「それは、オレも思った。神鳥という事実も、説明は無かったのか?」
よほど気に入ったのだろう。
もぐもぐと食べ進めながらアシュトンが問えば、同じく手を止めないままにモーリスにも続けて問われ、アイリーンは、目玉をくるりと動かした。
「名前は出て来ていましたし、説明もあったと思うんですけど覚えていません」
「え。アイリーン。キーズ辺境伯領のバッタの大量発生は、そのゲームのイベントなのだろう?前世のアイリーンもクリアしたと、言っていたじゃないか。それなのに、覚えていないのか?」
心底不思議そうなブラッドフォードに言われ、アイリーンはきっぱりと頷く。
「だって、ブラッドフォード様のイベントじゃないですから」
「うぇ!ちょっと、アイリーン嬢。それって俺。は、どうでもいいってこと!?」
わざとらしく悲壮な声を出すアシュトンに、アイリーンは、へへへと笑った。
「大丈夫ですよ。概略は覚えていますから、きちんと対策してくだされば回避できる・・はずです。あ、そろそろ、フォーをお出ししましょうか!お腹、未だ大丈夫ですよね!?」
『女の子の私が、未だいけるのですから』と嘯いて、アイリーンは再び席を立つと、そそくさといなくなる。
「いや、未だお腹に余裕はあるけどさあ。あれ、明らかに逃げたよね?」
「はは。そうだね。でも、仕方ないんじゃないのかな。アイリーン嬢は、ブラッドフォードの婚約者なわけだし」
「オレもそう思う。故に内容を忘れたとて、無理からぬことだろう」
不満そうにアシュトンが言うも、クリスはおっとりとそう言い、その言葉に、然もありなんとモーリスも頷いた。
「それより、いよいよフォーだね」
「それより、って!ひどい、クリス!」
「フォー。オレも、楽しみだ」
「ええええ。モーリスまで!」
既に、興味はフォーに移ってしまっているクリスとモーリス。
そして、大仰に嘆いてみせるも、その実、然程気にしていないアシュトン。
「そうか。僕のイベントじゃないから、か」
そして、残されたもうひとりであるブラッドフォードは、かつてないほどに上機嫌で、アイリーンの言葉を反芻していた。




