四、ゲームと現実 5、
「動物保護法か。何だか、もの凄い話し合いになったね。それに、ドレイク伯爵令嬢が、キーズ辺境伯領のコロッポル乱獲を言い当てたのにも驚いた。ぼくは、少しも気づいていなかったから」
「ああ。しかし、鳥の乱獲は知っていたのに、コロッポルを知らないというのが、また」
動物保護法に関する話し合いが一段落し、アイリーンが『ごはんは、炊き立てが一番なのです』と、うきうきした様子で炊飯のために席を立った後。
父である国王に発案するという任務を負ったクリスが、纏めた草案を、どこか楽しそうに見ながら言えば、モーリスも厳しい表情を少し和ませて、アイリーンが出て行った扉を見た。
「俺、アイリーン嬢が『この世界はゲーム・・ええと、演劇のようなものの世界で』なんて言い出した時は、何言ってんだかと思ったけど」
「アシュトン、完全にアイリーンを馬鹿にしていただろう?忘れないからな」
「うっ。だけど、仕方なくないか?あんな突飛な」
ブラッドフォードにじろりと睨まれ、うっ、と詰まるも、あの内容ではと言うアシュトンに、クリスもモーリスも同意する。
「ぼくも、アシュトンと同じかな。フォーという食べ物を知っているのは、前世の記憶があるからだって言われても、そもそもぼくにはフォーの知識が無いから、実は遠い他国のもので、という事実があるかもしれないと思ってしまったんだよね」
「クリスは王子なんだから、そうやって色々な角度から考え、疑いを持つのはいいことだと思う」
クリスが言い難そうに音にした言葉を、ブラッドフォードは正しい判断だと、全面的に肯定した。
「ちょっ。ブラッドフォード!俺の時と、扱いが違い過ぎないか!?」
「当然だろう。クリスは、曖昧な笑みを浮かべていただけだけど、アシュトンは小馬鹿にしていたんだから」
「そ、そんなこと言ったら、モーリスなんて完全にっ」
再びブラッドフォードにじろりと睨まれ、アシュトンは慌てて矛先を変えるべく、モーリスを指す。
「ああ。オレは不快だったからな。そのような、幾人もの令息と恋に落ちるような尻軽をオレが選ぶなど、戯言もいい加減にしろと思っていた」
「モーリス、賛成だ。僕も、そこは思う」
「思うんだ!?アイリーン嬢を、全面的に信じているわけじゃないのか」
ブラッドフォードの発言に、アシュトンが興味津々と身を乗り出した。
そんなアシュトンに、クリスがくすりと笑う。
「違うと思うよ、アシュトン。ブラッドフォードは、自分がアイリーン嬢を捨てて他の令嬢を選ぶという内容が、そしてそれをアイリーン嬢が、確定している未来と信じていることが気に入らないんだよ。ね?ブラッドフォード」
「クリスの言う通りだよ。どうしてアイリーンという婚約者がいるのに、他の令嬢を選び、アイリーンを捨てないといけないんだ。しかもアイリーンは、それを当然と思っているとか。意味が分からない」
アイリーンが記憶しているというゲームのストーリーに、嘘偽りは無いのだろうけれど、それをアイリーンが信じていることが気に入らないのだと、眉間にしわを寄せ言うブラッドフォードに、モーリスが深く息を吐く。
「それに、ここに居る四人共がヒロインとやらのベティ・コーツ男爵令嬢の虜となり、その令嬢が誰を選んでも、彼女への純愛を捧げるために終生独身を貫くなど、正気の沙汰とも思えない」
「本当だよねえ。それって、俺やモーリス、ブラッドフォードは貴族嫡男の役目を、クリスは、王子としての責務を放棄するってことだもんね。有り得ないよ」
ブラッドフォード以外、未だ婚約者のいない三人だけれど、貴族院を卒業すれば、当然のこと何処かの貴族家、もしくは他国の王家と縁を結び、血筋を残していくことになる。
「だけどまあ。何か仕掛けられても面倒だからね。対策はしておこうか」
「薬物や精神誘導の類だな。そんな愚行は犯させないよう、父にも言って手配しておく」
どこかのんびりとしたなかにも緊張感のあるクリスの言葉にモーリスが頷いたとき、アシュトンが、くんくんと鼻を鳴らした。
「ねえ。なんか、凄くいい匂いがするんだけど」
「ああ。アイリーンが、支度を整えて運んで来たんだろう」
それまでの不機嫌さを吹き飛ばしたかのように、機嫌よく言ったブラッドフォードが席を立ち、扉が叩かれた瞬間に是と返事をする。
「お待たせいたしました。こちら、用意しましたお料理になります」
「お疲れ、アイリーン。ごはんは、上手く炊けた?」
「はい!大成功です、ブラッドフォード様」
そして、自らワゴンを押して現れたアイリーンは、ブラッドフォードを見て、弾けるような笑みを浮かべた。




