四、ゲームと現実 4、
「・・・ふうん。この世界が、ゲーム・・演劇のようなものの世界、ねえ」
「俺達も登場人物かあ」
「オレが、そのような下心満載の、馬鹿な女に惹かれると?本気か?」
アイリーンが、自分には前世の記憶があること、殊にここがゲームの世界であることを説明すると、クリスとアシュトンは微妙な顔で、モーリスは、酷く不機嫌な顔でアイリーンを見返した。
「すぐに信じていただけるとは思っていませんが、キーズ辺境伯領では、鳥の乱獲が問題になっていると聞きました。それを今すぐ何とかしないと、バッタが大量に発生して稲が全滅します」
「え?な、なに?どういうこと?」
ゲームではヒロインとなるベティ・コーツ男爵令嬢に、ここに居る皆が骨抜きにさえるのだという概略だけを説明され、若干馬鹿にしたような表情を浮かべていたアシュトンが、目をぱちくりとさせてアイリーンを見る。
「バッタの大量発生を引きおこすのは、天敵となる鳥がいないことも条件となります。そして、近く大嵐が起こって地面が露出する場所ができると思うので、そこも、露出したままにせず、早急に」
「ちょっと待て!その乱獲の話、どこで」
中腰になり言いかけたアシュトンは、はっとしたようにブラッドフォード達に視線を走らせた。
「アシュトン。そんなに焦らずとも、ここでの話は他言無用と最初に約束しただろう?」
「そ、それは。アイリーン嬢の話のことだと、思って」
「大丈夫だよ、アシュトン。ぼくもモーリスも、勝手に話したりしないから」
動揺を隠せない様子のアシュトンに、クリスがやわらかな言葉をかければ、即座にモーリスも頷き、先ほどより真剣な眼差しをアイリーンに向ける。
「アシュトン。それほど動揺するということは、乱獲されているのは、コロッポルか?」
真顔になったアシュトンにブラッドフォードが問えば、アシュトンは、小さく息を吐いてから頷きを返した。
「コロッポル。そうか、それでキーズ辺境伯は秘密裡に処理しようとしたんだね?」
「それは。致し方ないな」
「え?コロボックルさん?いえ、あの。私はかわいい小人さんではなくて、鳥の話をしているのですが」
一気に深刻になった空気のなか、話題を振ったのは自分のはずなのに、いつのまにか、ひとり話に付いていけなくなったアイリーンが言えば、隣に座るブラッドフォードが不思議そうに首を捻る。
「アイリーンは、コロッポルを知らない?広げた羽や、姿形の美しさに加え、その肉を食せば長命になると言われているほどに美味なんだけど」
「分かりません。コロボックルさんなら、知っているんですけれど」
『コロボックルさんの親戚の鳥・・ではないですよね』と、迷路に迷い込んだような発言をするアイリーンの肩を、ブラッドフォードは、ぽんぽんと優しく叩く。
「コロボックルさんか。それも興味あるから後で教えてほしいけど、今は取り合えずコロッポルのことを説明するね」
「はい。お願いします」
既に、頭のなかでコロボックルが走り回り、さといもの葉で遊んでいる図が広がっていたアイリーンは、その図を頭の隅に追いやってブラッドフォードの話を聞いた。
「・・・つまり、コロッポルという美味しいうえに美しい鳥は、キーズ辺境伯領の神鳥として大切に保護されて来たということですね」
「そうだよ。キーズ辺境伯領は、建国以来続いて来た家なんだけど、初代国王と共に戦った辺境伯家の始祖は、コロッポルの導きにより彼の地を平定し、国家の礎を築いたと我が家の史書にある、とても大切な鳥なんだ」
「その鳥を、乱獲」
「うん。時代の流れもあるだろうし、うちの領は、余り豊かではないというのが大きいんだろうとは解析している」
キーズ辺境伯領は、この国の主食である小麦を栽培するに向かず、飼料となる米を生産しているものの、領民の暮らしは他領に比べて貧しいと、アシュトンは顔を曇らせる。
「でも、キーズ辺境伯領が国境を護ってくださっているから、私達は安心して・・あ。それも、辺境伯領の領民の方には、負担ということでしょうか」
「そうだね。強い騎士団を有しているから、安全面ではさほどではないにしても、もし国境を越えられたら、一番に被害を受けるのも自分達だと理解しているからね」
「なるほどです。なら、お米の価値をあげましょう!大丈夫です。お米のポテンシャルを信じてください。何と言っても、ごはんは絶品ですし、くず米も粉にしてフォーにしたり、ケーキにしたりすればいいんですから、需要はどんどん広がりますよ!」
希望は無限大と瞳を煌めかせて、アイリーンは、拳をぐっと握った。
「アシュトン。アイリーンは、米の生産を依頼するにあたって、専属契約をしたいと言っているんだ。これは、収穫量の増減によって価格を決めるというもので、最低収入を保障するものでもある」
「・・・つまり、米での収入を増やして、間接的にコロッポルの乱獲を防ぐということか」
呟くように言ったアシュトンに、ブラッドフォードが頷きを返す。
「もちろん、それだけでは足りないと思う。だから、今まで以上に見回りを増やすとか、厳しい罰則を考えることも視野に入れた政策が必要だろうな」
「父上が、何と言うか」
神鳥同様、領民のことも大切に思う辺境伯は、乱獲の背景にある生活苦のこともあり、余り厳しい罰則は好まないのだと、アシュトンは苦悩の表情を浮かべた。
「そのようなことを言っていて、神鳥が絶滅してしまってからでは遅いだろう、とは思うが、辺境伯の気持ちも分からないではない」
「王子殿下。国として、コロッポルを保護する法令を出すことはできませんか?その際、コロッポルだけ特別にするのではなく、他の領の、大切にしている動物も対象にするなどすれば、反発も少ないのではありませんか?」
動物保護を国の法令とする。
そのアイリーンの発案に、ブラッドフォードはじめ、その場の全員が目を見張った。
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