四、ゲームと現実 3、
「ようこそ、我がアーサーズ公爵邸へ。本日は、両親ともに不在のため、自分達のみのお出迎えとなりますこと、お許しください」
そして迎えたゲーム知識披露の日。
ブラッドフォードは、きちんと貴族としての挨拶をしたものの、とてつもなく不機嫌だった。
何となれば、ゲーム知識の披露はともかく、最初の試食はふたりきりで行う予定が、この三人も同席することになってしまったのだから。
しかし『米を、人が食すとは斬新な発想だ、是非とも食べてみたい』と、米の提供元であるキーズ辺境伯夫妻に言われ『今は未だ、味の保証ができないと婚約者が言っている』と、やんわり断りを入れれば『それならば、同年代の息子が先んじて参加させてもらうことで、米の提供について手を打とう』と決断されてしまえば、米を融通して欲しいブラッドフォードは、それ以上反論することも出来なかった。
『すまない、アイリーン。僕の力不足で』
『い、いいえ。お米が欲しいと言ったのは私ですから、入手できることに感謝しています・・・でも、緊張します』
しょんぼりと肩を落として言うブラッドフォードに、引き攣りながらそう答えたアイリーン。
『アイリーンとふたりで試食会・・楽しみにしていたのに』
『はい。それもですが、お三方に私のなんちゃってごはんを供するのかと思うと・・いえ、決してブラッドフォード様なら、失敗してもいいと思っていたわけではないのですが』
言っている途中でアイリーンは、自分の手料理を、ブラッドフォードなら楽な気持ちで食べてもらえるという事実に気づいて、そんな自分に驚いた。
これ。
私ってば、推しであるブラッドフォード様に、気安く接しているってことよね。
でも、ブラッドフォード様なら、たとえ失敗でも改良策とか言ってくれそう。
それに。
ブラッドフォード様も嫌そうでないから、いいか。
なんだかんだ、ブラッドフォードとの距離が近づいていると思い出しつつ、アイリーンもブラッドフォードの隣で貴族の淑女らしく控えていると、クリスが公の場では見せない砕けた様子で、ブラッドフォードの肩を叩いた。
「凄いな、ブラッドフォード。少しも歓迎されている気がしない」
苦虫を噛み潰したような表情で、出迎えの言葉を述べたブラッドフォードに、クリスが楽しそうに笑いながら言い、クリスも嫌そうにしながらも、クリスの腕を受け入れている。
あああ!
王子殿下とブラッドフォード様の、交友場面!
見たい!
けど、顔をあげたら不敬!
貴族の礼をとっているため顔を伏せているアイリーンは、その場面を間近で見る好機なのにと身悶えする。
「いいよ、楽にして。ドレイク伯爵令嬢、今日は世話になるね」
「精一杯、おもてなしさせていただきます」
王子であるクリスに直接声をかけられ、アイリーンは少し腰と目線を落として、貴族令嬢の模範のような言葉を返した。
しかしてその内面は、ブラッドフォードとクリスが、肩をぶつけ合うようにしている場面を、ぎりぎり見られたことで狂喜乱舞している。
ああ、神様。
ありがとうございます。
わたくし、アイリーン・ドレイクは、これからも清く正しく、ブラッドフォード様の萌えを探求してまいります!
「殿下。アイリーンは、米を入手してから、前もって色々準備してくれたんです。それら料理の幾つかはもう完成していて、味見させてもらうところだったのに。時間、予定より早かったですよね?」
「はは。可愛い婚約者の手料理を独占出来ないブラッドフォードの不服は分かるけれどね。ぼくは今日、本当に楽しみにして来たんだ。フォーとは何なのか、それを説明するために予備知識が要ると言われたときも驚いたし、興味をそそられたけど。それ以上だよね。家畜の飼料を人が食べるなんて」
時間云々の話を否定することなく、エメラルドと称される瞳を輝かせてクリスが言えば、アシュトンもそれに続く。
「そう、それ!うちの親も興味津々で、米の需要を伸ばす絶好の機会かもしれないから、出来れば持ち帰りさせてもらえって言われて来てるんで、よろしくな。それから、クリス。あの時のブラッドフォードとアイリーン嬢の瞳の動き、見逃さなかった俺に感謝していいんだぞ?」
「何を言う。騎士のはしくれなのだから、それくらい出来て当然だろう」
そして、褒めて褒めてと言わぬばかり、クリスに迫るアシュトンに、モーリスが呆れたような声をかけた。
「ああ、もう。いいから行くぞ」
そんな様子もいつものことと、ブラッドフォードはアイリーンを促し、歩き出す。
「皆様、こちらへどうぞ」
アーサーズ公爵邸ではあるが、今日はもてなす側であるアイリーンは、緊張しつつも使用人たちに目くばせし、クリス達を用意の部屋へと案内した。
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