四、ゲームと現実 1、
「ブラッドフォード、そしてアイリーン嬢。今日は、お招きありがとう」
「お招き、っていうか、押しかけみたいだけどな」
「最終的に、招待されたのだから問題無い」
クリスを筆頭に、アシュトン、モーリスがそう続き、アーサーズ公爵邸のエントランスで三人を出迎えたアイリーンは、緊張に顔を引き攣らせる。
ただでさえ、アーサーズ公爵邸でもてなす側にまわらねばならない立場となり、それだけでも緊張するというのに、今日集まったのは、アイリーンのゲームの知識を詳らかにするためなのだから。
ああ。
殿下もキーズ辺境伯子息も、笑顔なのに圧が凄くて、フレミング侯爵子息は、声そのままのお堅い表情。
そして何より。
ブラッドフォード様の仏頂面!
『仕方なく招きました』って顔に書いてあるけど、それがまた可愛い!
可愛いけど、これからの事を思うと胃が痛い!
『アイリーン。クリス殿下とアシュトン、それにモーリスは、信用が置けると断言できる。それに、これからのことを思えば、彼らにもアイリーンが言うゲームのことを知っておいてもらった方がいいと思うんだけど。アイリーンは、嫌かな?』
あの婚約式の日。
『フォーについて、ここで説明するには時間が足りないし、人目が有りすぎる。なぜなら、前提条件を知らなければ、説明したところで意味が分からないし、その前提条件をここで言うことはできないのだから』と、煙に巻くように三人に告げたブラッドフォードは、逆に『ならば後日、その前提条件から教えてくれるのだね』と笑顔のクリスに返され、沈黙した。
そして、その沈黙が彼らを拒絶するものではなく、情報を共有すべきだという結論に達したからだと察したアイリーンは、三人が帰った後、案の定そう切り出したブラッドフォードに確認の意味で尋ねた。
『アーサーズ公爵子息だけが、ゲームの知識を持った状態で貴族院に入学すれば、有利な立場でストーリーを進められますけれど、よろしいのですか?・・・っっ・・いたっ!』
心底から、そう心配して助言したのに、なぜか頭をぺちりと叩かれて、アイリーンは理不尽だとブラッドフォードを睨む。
『ああ、ごめんね、アイリーン。その『有利に進められる』という意味を、僕がはき違えているかもしれないから、ちゃんと教えてくれる?それと、呼び方』
『もう。それなら、きちんと言葉でそうおっしゃってくれればいいのに。いいですか?ゲームは、攻略対象が四人なのです。攻略という言葉の通り、ヒロインに選ばれることになるのですけれど、その内容を知っていれば先回りしてヒロインの気を引く・・・って何するんですか!暴力反対!』
言いかけたところで再び、今度は先ほどより強く頭をぺちりと叩かれ、アイリーンは両手で頭を押さえ、涙目になってブラッドフォードをじとりと見た。
『だって。アイリーンが酷いことを言うから。僕だって言いたい。言葉の暴力反対、って』
『意味が分かりません』
『ああ!そうか!』
ふい、とそっぽを向いたアイリーンの横顔を見つめながら、その頬をつついていたブラッドフォードが、急に明るい声を出し、アイリーンは何事かと横眼でちらりとそちらを見やる。
『うん、分かったよアイリーン。ごめんね。やっぱり僕は、意味を違えていたんだね。今アイリーンが言ったのはつまり、僕とだけゲームの知識を共有していたい、ってことだったんだね。なんだ、それなら僕と同じだよ』
『え?そうではな・・・い、こともない、です』
『ね?』と強めに圧をかけられ、アイリーンは屈服した。
『うん。そうだよね。僕も、僕とアイリーンだけの秘密にしておきたかったけれど
彼らはとても頼りになるから』
ブラッドフォードに言われ、アイリーンもその心情を吐露する。
『私も不安ではあります。皆さま、あーさー・・ブラッドフォード様が信頼なさるご友人ですけれど、私は会ったばかりの方たちですので』
『ん?でも、それを言ったら、僕も初めて会った日に聞いたよね。まあ、結構無理に聞き出した自覚はあるけど。それとも、もしかしてあれが全部じゃない?』
苦笑するブラッドフォードに問われ、アイリーンは、ふるふると首を横に振る。
『いいえ。ブラッドフォード様には、ゲームの全容をお伝えしました。あ、そうですよ。何も最初から全部伝えることは無いのではないですか?都度、ブラッドフォード様にお伝えしますから、お三方に伝えるかどうか、ブラッドフォード様の方で判断していただくというのはどうでしょうか?』
『アイリーンは、それでいいの?』
目を丸くするブラッドフォードに、アイリーンは『もちろん』と、むしろどうして驚くのかとの意味を込めて頷いた。
『はい。それでいいです。というか、それがいいです』
『僕に、ゆだねるって言っているんだよ?』
『はい。そう言っています。頼ってしまって、申し訳ないですが』
困ったようにアイリーンが首を傾げた瞬間、ブラッドフォードが嬉しそうに笑い、その瞳を輝かせた。
『ううん!そんなことない。凄く嬉しいよ、アイリーン。ああ、そうなると』
『そうなると?』
『ふたりだけの秘密、の一部だけでも、みんなと共有するのが悔しい』
『では、やめますか?フォーの話はするとして、前世とかゲーム云々とは言わず、本で見たとか』
言いながら『そんなことで、胡麻化されてはくれないだろうな』と、アイリーンは一癖も二癖もありそうな三人を思い浮かべる。
『いや。無駄な抵抗はよそう。それに』
『それに?』
『貴族院に入ってから、アイリーンは窮地に立たされるんだろう?なら、その軽薄女からアイリーンを護る盾は多い方がいい。もちろん、僕が一番に護るけれど』
『そのためにも、下手に誤魔化すより、協力してもらった方がいい』と、言い切るブラッドフォードは凛々しく、アイリーンは思わず息を呑んで見つめた。
凄い。
なんていうか・・迫力。
『ああ、でも!アイリーンの記憶も、全部独り占めしたい!』
『え』
呼吸するのも憚られるような覇気を発していたブラッドフォードが、一転、駄々っ子のように唇を尖らせ、頬を膨らませるのを見て、アイリーンは呆けたように口を開けてしまう。
うわああ!
な、なにこの可愛い生き物!
連れて帰りたい!
『アーサーズ公爵子息!ブラッドフォード様!私と一緒に暮らしませんか!?それでもって、あーん、ってさせてください!』
脳内大沸騰するほどときめいたアイリーンは、結果、とんでもない、そんな言葉を口走った。




