三、婚約式 8、
「ちょっと!いい気になって、花なんて飛ばしているんじゃないわよ!それに、そんな目でフォー様を見ないで!汚れるじゃないの!この、政略横取りっ子!」
せ、政略横取りっ子って一体・・・。
それに、私が花を飛ばしている!?
それって、ヒロインの特権なんじゃ。
私、もしかして、領域侵犯してしまっているのかしら。
「アイリーン?もしかして、また何か面白いことを考えている?いや、僕にとっては面白くないことなのか?」
アンドレアに予想外のことを叫ばれ、もしやヒロインの領域を侵してしまっているのかと、不安に陥るアイリーンを、ブラッドフォードが何とも言えない目で見つめる。
「フォー様も!どうしてそんな、政略横取りっ子を気にかけるんですか!フォー様は、あたくしのことだけ!気にかけていればいいんです!」
「うわあ、話聞いてねえ」
叫ぶアンドレアに、アシュトンが呆れたような声を出し、それに各人が頷いた。
「だがまあ。最初は俺らも心配したよな」
「そうだね。ぼくたちの年齢で婚約することも珍しいし」
「まあ。すべてが杞憂に終わったがな」
アシュトン、クリス、モーリスが、そういえばそうだったとでも言いたげな目で、ブラッドフォードを見やる。
それに対し、照れくさそうに笑っているブラッドフォード。
す、素敵!
ブラッドフォード様と、皆様の友情絵図!
物語開始前だからこその、至福。
ありがとうございます!
「アーサーズ公爵子息は、ご友人に恵まれていらっしゃるのですね」
『ヒロインと出会う前の特権だわ』と認識しつつ、アイリーンはブラッドフォードに心からの笑みを浮かべた。
「ありがとう。僕も、そう思う。でも、アイリーン。今のちょっと、違ったよね?」
「え?何がですか?」
友情について『そう思う』なら、何が違うのかと、首を傾げるアイリーンに、ブラッドフォードは『自分で考えてごらん』と言わぬばかり、意味深な笑みを返すばかり。
「アイリーン嬢も苦労するな。いや、この場合は、ブラッドフォードが苦労しているのか?」
呟くアシュトンに同意するよう、クリスとモーリスも楽しそうにブラッドフォードをつついている。
そして、そんな姿を見れば、アイリーンの口元は再び緩んでしまう。
わあ。
こんなに素敵なブラッドフォードと皆様を見られるなんて、私、よっぽど徳を積んだに違いないわ。
「ちょっと!あたくしを無視しないでよ!政略横取りっ子のくせに!」
「っ!アイリーン!」
その時、痺れを切らしたようにアンドレアが扇をアイリーンに向かって振り上げるも、素早く動いたブラッドフォードによって阻まれた。
・・・・・ブラッドフォード様、格好いい。
「ギャレット侯爵令嬢を、例の部屋へ」
難なくアンドレアの手首を掴み、攻撃を阻止したブラッドフォードを、アイリーンがきらきら輝く瞳で見つめていると、アーサーズ公爵の凛とした声が響いて、公爵家の女性騎士が、アンドレアを連れ出して行く。
「ちょっと!何するのよ!モーリス様!アシュトン様!あたくしを助けなさい!未来の王子妃なのよ!あなたたちの主じゃないの!」
最後まで意味不明な叫びを残してアンドレアが消えた後、アーサーズ公爵夫妻とドレイク伯爵夫妻が周りに謝罪し、宴は何事も無かったかのように再開された。
「アイリーン。怪我は無い?避けるときに、首を捻ったとか」
そして、両家の両親と共にブラッドフォードと並んで頭を下げたアイリーンは、そう尋ねられて、くすりと笑ってしまう。
『首を捻ったとか』って、ブラッドフォード様、可愛い!
そこは、足なのではないの?
「大丈夫です。アーサーズ公爵子息が、護ってくださいましたから」
そう答えれば照れたように笑い『なら、よかった』と言いつつ、心配そうにアイリーンを見るブラッドフォードに、本当に大丈夫だと言っていると、両家の両親がふたりに向き合った。
「アイリーン嬢。助けに入るのが遅くなって、ごめんなさいね」
「アーサーズ公爵夫妻は、ギャレット侯爵夫妻に対していてくださったのよ、アイリーン」
アーサーズ公爵夫人シンシアの詫びに、ドレイク伯爵夫人レイラがすかさずアイリーンに状況の説明をする。
「ありがとうございます」
「おっねえしゃまっ、いたい、ない?」
その時、それまでドレイク伯爵に抱かれていたカイルが、床に下ろしてもらうなりとことこと近づいて、心配そうにアイリーンを見上げた。
「大丈夫よ、カイル」
「おっにいしゃまっ、あいがと」
すると今度はブラッドフォードに向かい、カイルが深々と頭を下げる。
頭が重くてよろけそうになるのを、アイリーンが支えているのが、また可愛いとは、ブラッドフォードをはじめとする周りの評価。
「ん?何がだ?」
「おっねえしゃまっ、こあい、ちと、から・・んと、まもってくえて」
アイリーンと並んでしゃがみ、カイルの目を覗き込んだブラッドフォードに、カイルが拙いながらも懸命に礼の言葉を口にした。
「凄いな。あの意味不明な奴より、この子の方が賢いんじゃないのか?」
「ねえねえ。俺はアシュトン。俺達も、君のお姉さまを守ったよ?ブラッドフォードの友達なんだ」
感心したように言うモーリスにアシュトンも同意し、カイルにそんな自己紹介をする。
「あ。あいがと、ごじゃましゅ」
そんなふたりに、カイルが慌ててお辞儀をし、周りの空気は一気に和やかになった。
「妙な事に巻き込まれて疲れただろう。ブラッドフォード。アイリーン嬢と少しゆっくりしてきなさい」
「そうね。それがいいわ。この場は、わたくしたちにお任せなさい」
アーサーズ公爵夫妻に促され、ドレイク伯爵夫妻にも笑みを向けられて、ブラッドフォードとアイリーンは、用意されているテーブル席へと向かう。
「クリス殿下、モーリス、アシュトン。どういう、つもりだ?」
そんなふたりに、当然のように付いて来る三人に、ブラッドフォードが『付いて来るな』と言外に言うも、三人は笑うばかり。
「いやだって。『フォー』の真実、聞かないと」
『何だかあの時、目くばせ目混ぜ、してたよねえ』と飄々と言うアシュトンに、アイリーンは『流石攻略対象』と、改めて思った。




