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死にたくないので婚約ご遠慮します  作者: 夏笆


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16/59

三、婚約式 8、



「ちょっと!いい気になって、花なんて飛ばしているんじゃないわよ!それに、そんな目でフォー様を見ないで!(けが)れるじゃないの!この、政略横取(せいりゃくよこど)りっ子!」


 せ、政略横取りっ子って一体・・・。

 それに、私が花を飛ばしている!?

 それって、ヒロインの特権なんじゃ。

 私、もしかして、領域侵犯してしまっているのかしら。


「アイリーン?もしかして、また何か面白いことを考えている?いや、僕にとっては面白くないことなのか?」

 アンドレアに予想外のことを叫ばれ、もしやヒロインの領域を侵してしまっているのかと、不安に陥るアイリーンを、ブラッドフォードが何とも言えない目で見つめる。

「フォー様も!どうしてそんな、政略横取りっ子を気にかけるんですか!フォー様は、あたくしのことだけ!気にかけていればいいんです!」

「うわあ、話聞いてねえ」

 叫ぶアンドレアに、アシュトンが呆れたような声を出し、それに各人が頷いた。

「だがまあ。最初は俺らも心配したよな」

「そうだね。ぼくたちの年齢で婚約することも珍しいし」

「まあ。すべてが杞憂に終わったがな」

 アシュトン、クリス、モーリスが、そういえばそうだったとでも言いたげな目で、ブラッドフォードを見やる。

 それに対し、照れくさそうに笑っているブラッドフォード。


 す、素敵!

 ブラッドフォード様と、皆様の友情絵図!

 物語開始前だからこその、至福。

 ありがとうございます!


「アーサーズ公爵子息は、ご友人に恵まれていらっしゃるのですね」

 『ヒロインと出会う前の特権だわ』と認識しつつ、アイリーンはブラッドフォードに心からの笑みを浮かべた。

「ありがとう。僕も、そう思う。でも、アイリーン。今のちょっと、違ったよね?」

「え?何がですか?」

 友情について『そう思う』なら、何が違うのかと、首を傾げるアイリーンに、ブラッドフォードは『自分で考えてごらん』と言わぬばかり、意味深な笑みを返すばかり。

「アイリーン嬢も苦労するな。いや、この場合は、ブラッドフォードが苦労しているのか?」

 呟くアシュトンに同意するよう、クリスとモーリスも楽しそうにブラッドフォードをつついている。

 そして、そんな姿を見れば、アイリーンの口元は再び緩んでしまう。


 わあ。

 こんなに素敵なブラッドフォードと皆様を見られるなんて、私、よっぽど徳を積んだに違いないわ。


「ちょっと!あたくしを無視しないでよ!政略横取りっ子のくせに!」

「っ!アイリーン!」

 その時、痺れを切らしたようにアンドレアが扇をアイリーンに向かって振り上げるも、素早く動いたブラッドフォードによって阻まれた。


 ・・・・・ブラッドフォード様、格好いい。


「ギャレット侯爵令嬢を、例の部屋へ」

 難なくアンドレアの手首を掴み、攻撃を阻止したブラッドフォードを、アイリーンがきらきら輝く瞳で見つめていると、アーサーズ公爵の凛とした声が響いて、公爵家の女性騎士が、アンドレアを連れ出して行く。

「ちょっと!何するのよ!モーリス様!アシュトン様!あたくしを助けなさい!未来の王子妃なのよ!あなたたちの主じゃないの!」

 最後まで意味不明な叫びを残してアンドレアが消えた後、アーサーズ公爵夫妻とドレイク伯爵夫妻が周りに謝罪し、宴は何事も無かったかのように再開された。

「アイリーン。怪我は無い?避けるときに、首を捻ったとか」

 そして、両家の両親と共にブラッドフォードと並んで頭を下げたアイリーンは、そう尋ねられて、くすりと笑ってしまう。


 『首を捻ったとか』って、ブラッドフォード様、可愛い!

 そこは、足なのではないの?


「大丈夫です。アーサーズ公爵子息が、護ってくださいましたから」

 そう答えれば照れたように笑い『なら、よかった』と言いつつ、心配そうにアイリーンを見るブラッドフォードに、本当に大丈夫だと言っていると、両家の両親がふたりに向き合った。

「アイリーン嬢。助けに入るのが遅くなって、ごめんなさいね」

「アーサーズ公爵夫妻は、ギャレット侯爵夫妻に対していてくださったのよ、アイリーン」

 アーサーズ公爵夫人シンシアの詫びに、ドレイク伯爵夫人レイラがすかさずアイリーンに状況の説明をする。

「ありがとうございます」

「おっねえしゃまっ、いたい、ない?」

 その時、それまでドレイク伯爵に抱かれていたカイルが、床に下ろしてもらうなりとことこと近づいて、心配そうにアイリーンを見上げた。

「大丈夫よ、カイル」

「おっにいしゃまっ、あいがと」

 すると今度はブラッドフォードに向かい、カイルが深々と頭を下げる。

 頭が重くてよろけそうになるのを、アイリーンが支えているのが、また可愛いとは、ブラッドフォードをはじめとする周りの評価。

「ん?何がだ?」

「おっねえしゃまっ、こあい、ちと、から・・んと、まもってくえて」

 アイリーンと並んでしゃがみ、カイルの目を覗き込んだブラッドフォードに、カイルが拙いながらも懸命に礼の言葉を口にした。

「凄いな。あの意味不明な奴より、この子の方が賢いんじゃないのか?」

「ねえねえ。俺はアシュトン。俺達も、君のお姉さまを守ったよ?ブラッドフォードの友達なんだ」

 感心したように言うモーリスにアシュトンも同意し、カイルにそんな自己紹介をする。

「あ。あいがと、ごじゃましゅ」

 そんなふたりに、カイルが慌ててお辞儀をし、周りの空気は一気に和やかになった。

「妙な事に巻き込まれて疲れただろう。ブラッドフォード。アイリーン嬢と少しゆっくりしてきなさい」

「そうね。それがいいわ。この場は、わたくしたちにお任せなさい」

 アーサーズ公爵夫妻に促され、ドレイク伯爵夫妻にも笑みを向けられて、ブラッドフォードとアイリーンは、用意されているテーブル席へと向かう。

「クリス殿下、モーリス、アシュトン。どういう、つもりだ?」

 そんなふたりに、当然のように付いて来る三人に、ブラッドフォードが『付いて来るな』と言外に言うも、三人は笑うばかり。

「いやだって。『フォー』の真実、聞かないと」

 『何だかあの時、目くばせ目混ぜ、してたよねえ』と飄々と言うアシュトンに、アイリーンは『流石攻略対象』と、改めて思った。


 


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