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死にたくないので婚約ご遠慮します  作者: 夏笆


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13/59

三、婚約式 5、



「んなっ!?誰ですの、いきなり失礼な・・って、アシュトン様!」

 不快さ全開で振り返ったアンドレアは、そこに居た人物を見た途端、その表情を笑みに変えた。

「ああ、ほらそういうところ。名前、許可もしていなのに勝手に呼ばれるの嫌なんだよな。遠慮してくれる?」

 しかし、アンドレアを睥睨するアシュトンの瞳は、先ほどの飄々とした声からは想像もできないくらいに冷たい。

 その姿は、ゲームのなかで『ドレイク伯爵令嬢。ベティが可愛いからと嫉妬し、嫌がらせをするなど貴族令嬢の隅にも置けない行為。恥を知れ』と、アイリーンに怯え震えるヒロイン、ベティ・コーツ男爵令嬢をその背に庇い、アイリーンと対峙する場面を思い出させたほど。


 さ、流石、攻略対象。

 御年十二歳にして、この迫力。

 ブラッドフォード様といい、このアシュトン・キーズ辺境伯子息といい、貴族子息として、もう完成されているわよね。


「そんな。アシュトン様。あたしくは、アンドレア・ギャレットですのよ?あたくしに名を呼ばれれば、殿方は喜ぶのが普通でしょう?それに、あたくしとアシュトン様の仲なのに」

「一、二回会っただけの、顔見知り程度の相手というだけの存在が、何を言う。それにどうやら、貴様と俺では普通の概念が違うようだな。気色の悪い」

 『ともかく、名を呼ばないでくれ』と言って、アシュトンは更に冷たい光をその目に宿した。

「そんな・・そんな言い方、酷いですわ。アシュトン様」

「不快だから、名を呼ぶなと言っている。それで?そちらの普通とやらには、婚約式という祝いの場で、その主役を貶めることも含まれているのか。随分愚かだな」

 『忠告三度目だ』とカウントし、アシュトンはアンドレアを追い詰める。

「っ・・・あ、あたくしはただ、その子に自分がどれだけ愚かなことをしたのか、教えてあげていただけですわ。このあたくしを差し置いてフォー様の婚約者に収まるなど、許されることではありませんもの」

「どれだけ愚かなことを、って。それもそのまま、貴様のことだろう。周りを見てみろ」


 キーズ辺境伯子息、容赦ない。

 それにしても、ブラッドフォード様とご一緒ではなかったのかしら。

 ・・・え?

 周りを見ろ?


 侍従に呼ばれて行ったブラッドフォードが、遅れて到着予定のクリス王子達を迎えに行ったことは分かっているアイリーンだが、そこで合流するのだろうと思っていたアシュトンが、ひとり現れたことは予想外だった。

 ならば、ブラッドフォードはどうしたのかと思っていたアイリーンは、アシュトンの言葉のままに周りを見て固まった。


 え?

 さっき、アーサーズ公爵夫妻や、ブラッドフォード様を探そうとしたときは、みなさん、ご自分達の会話に夢中になっていたのに。

 なに、この状況。


「ご立派でしたわよ、ドレイク伯爵令嬢」

「ええ。初手の見事な切り返しからの、決して退かない強さ」

「更には挑発にも乗らずに、無言での応対。見事でしたわ。淑女教育が、良くできていましてよ」

『いつのまにか注目を集めていた、しかも何だか私を見るみんなの目が優しい』と狼狽えるアイリーンにかかる、ご婦人方からの賞賛の声。

「・・・・・」


 ええと。

私、そんなに褒めてもらえるようなことは、何もしていないような。


内心、怯えまくりの蛙で、しかも最初の方はフォーのことを考えていたアイリーンは、複雑な気持ちになった。

「はは。『褒められるようなことは、何も』って顔をしている。君は、謙虚なんだね。それなのに、公爵家や生家の威厳を守り切る強さも持ち合わせている。ブラッドフォードが気に入るわけだ・・っと、失礼。初めまして、アイリーン・ドレイク伯爵令嬢。俺の名は、アシュトン・キーズ。キーズ辺境伯家の嫡男で、ブラッドフォードの友人だ」

「はじめまして。アイリーン・ドレイクでございます。キーズ辺境伯子息。アーサーズ公爵子息より、お噂はかねがね伺っております。そして、お助けくださいましたこと、感謝申しあげます」

きちんと初対面の挨拶をされ、アイリーンも淑女の礼を返す。

「アイリーン!」

 そこへ、慌てた様子のブラッドフォードが駆け込んで来た。

「アーサーズ公爵子息!」

「ごめん。アイリーン。ひとりにしたから」

 息を切らし、ひと目で全力で来たことが分かるブラッドフォードを見て、アイリーンは、安堵に肩の力が抜けるのを感じる。

「大丈夫です。キーズ辺境伯子息が、助けてくださいましたから。それに、アーサーズ公爵子息も、こうして急ぎ駆けて来てくださったことが、とても嬉しいです」

「ああ。僕は、入口付近でギャレット侯爵夫妻につかまってしまってね。祝辞を述べられれば、無視するわけにもいかないし。苦肉の策で、アシュトンに先に行ってもらったのだけれど・・・アイリーン」

「はい。何でしょう?アーサーズ公爵子息」

「君・・僕よりアシュトンを気に入った、なんてことは、無いよね?」

「は?」

 視線を鋭くして放たれたブラッドフォードの言葉に、アイリーンは抜けた以外何とも表現できない声を出した。



~・~・~・~・~・~・

ありがとうございます。


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