三、婚約式 3、
ああ、ほんっとうに可愛かった!
ブラッドフォード様の目が、きゅるん、って!
きゅるん、ってなっていたわ!
婚約式の相談を終え、共に昼餐を摂るべく別室に移動しながら、アイリーンは、先ほど間近で見たブラッドフォードの愛らしい瞳を思い出し、内心で悶えていた。
それに、ご両親・・公爵ご夫妻のご鞭撻も、悔しさ交じりなんでしょうけど、ちゃんと聞いていて。
しかも。
その、きゅるん、の原因が私から未だ名前で呼んでもらっていないから、なんていう、これまた可愛い理由で。
ああ、私、ブラッドフォード様萌え日記が書けそうじゃないの!
「アイリーン。何を考えているの?」
『思い出すたび、身悶えできる』と、繰り返し可愛いブラッドフォードを思い返していたアイリーンは、そのブラッドフォードのぶすっとした声に現実へと引き戻された。
「あ、いえ。先ほどのアーサーズ公爵子息のきゅるんが、とてつもない破壊力だったなと思いまして」
「・・・・・楽しそうで、何よりだけど。ここが何処で、何をしているところだか、分かっている?」
『僕のきゅるん、ってなに。まあ、アイリーンが嫌じゃないならいいけど』と、耳を赤くしつつ問うブラッドフォードに、アイリーンは、もちろんと頷きを返す。
「はい。これから昼餐までの間、少しゆっくりしましょうというお話でしたよね」
実際は、寛ぎと身支度を整え直す時間なのだろうと思いつつアイリーンが答えれば、ブラッドフォードが、握っているアイリーンの手をそっと揺らした。
「分かっているなら、良かった。それでね、アイリーン。この廊下は、小規模なお茶会なんかをするサロンに通じているんだ。これから、そこに行くんだよ。それで、さっき僕達が婚約式の相談をした部屋は、主に仕事の話をする時に使われている」
「そうなのですね。アーサーズ公爵邸はとても広いので、簡単に迷子になれそうです」
本気で心配するアイリーンに、ブラッドフォードは優しい笑みを浮かべる。
「大丈夫だよ。僕と手を繋いでいれば」
そう言うと、ブラッドフォードはなぜかとても幸せそうな瞳でアイリーンを見た。
「アーサーズ公爵子息?何か、良いことでも思い出しましたか?」
「うん。思い出したっていうか、思い至った、かな。これから、この屋敷の色々な所をアイリーンに案内できるんだなと思ったら、とても楽しみになったんだ」
正式に婚約者となり、互いに行き来する立場になったればこそだと言うブラッドフォードに、アイリーンも頷きを返す。
「それは、私も楽しみです」
「色んな場所で、お茶もしようね。まずは、そうだな。ガゼボなんかもいいな」
共に廊下を歩きながら、ブラッドフォードは自分の部屋のことや庭で気に入りの場所のことなど、明るい声で話し出した。
「アイリーンは、この屋敷の何処を気に入るかな?婚約中もたくさん遊びに来れば、一緒に住むようになるころには、きっと屋敷にもなじんでいるよ」
「・・・その頃には、アーサーズ公爵子息をお名前で呼んでいるでしょうか?」
ブラッドフォードと共に、この屋敷に住む。
それは、婚姻した後ということになるのだろうけれど、そんな未来が本当に来るのかあやしむアイリーンは、話題を変えるようにそう言った。
「呼んでいるよ。それどころか、愛称で呼ぶようになっているよ」
「あ、愛称」
これまたハードルが上がったと、アイリーンは目を見開いて隣のブラッドフォードを見つめてしまう。
「ふふ、可愛い。大丈夫。無理強いはしないから。ゆっくり、僕と歩いて行こう」
「はい。アーサーズ公爵子息」
『僕とゆっくり歩いて行こう』
ブラッドフォードのその言葉が、アイリーンの胸に、強く響いた。
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