第七章:本気の熱、伝播する
ネット投票の開始から三日が経過した。 画面に並ぶ五百人以上の候補者たちは、それぞれがSNSを駆使して自らを売り込んでいた。圧倒的なビジュアルを武器にする者、華やかなダンス動画で魅せる者。その激しい競争の中で、陽葵の順位は中位層に沈んだまま停滞していた。
「……やっぱり、私の『過去』なんて、ただの汚れ物なのかな」
スマートフォンの青白い光が、暗い部屋で陽葵の顔を照らす。コメント欄には、依然として「話題作りの嘘つき」という心ない言葉が散見されていた。
「何言ってるの。あんたの価値を決めるのは、そんな匿名の誰かじゃないでしょ」
隣でキーボードを叩いていた結菜が、鋭い声を上げた。彼女は寝る間も惜しんで、SNS上に陽葵の「真実」を投稿し続けていた。
結菜がアップしたのは、中学時代の陽葵が、雨の降る公園で泥だらけになりながらステップを練習している、色あせた一本の動画だった。それは、かつて陽葵が「醜いから消して」と懇願した、執念の記録。
「ちょっと、結菜! あの動画は……!」 「隠してちゃ届かない。あんたが『空っぽ』じゃないって証明するのは、この泥臭い時間だけでしょ」
その投稿を境に、風向きが変わり始めた。 華やかな自撮り動画ばかりが並ぶプラットフォームの中で、陽葵の泥にまみれた姿は、異質なほどの熱量を放っていた。
――「この子、本当にあの日から一日も休んでないんだ」 ――「最初は嘘だと思ってたけど、ノートの文字が後半になるほど必死すぎて泣ける」
結菜がSNSで発信し続けた「陽葵の努力を裏付ける証言」は、冷やかし半分だった視聴者たちの心を、少しずつ、けれど確実に動かしていった。「本気かもしれない」という空気は波紋のように広がり、陽葵の投票カウンターは加速度を増して回り始める。
「見て、ひまり! 順位が上がってる!」
百位、八十位、五十位――。 数字が跳ね上がるたびに、陽葵の胸に熱い塊が込み上げてくる。 それは、三年間自分が否定し続けてきた「八十キロの自分」が、今の自分を救ってくれているような、不思議な感覚だった。
「……ありがとう、結菜。私、もっと向き合うよ。あの日、響さんに指をさしてもらった時の自分に」
二次審査の締め切りまで、あと数日。 陽葵は、ボロボロのマフラータオルを首にかけ、再び鏡の前に立った。 もはや彼女は、過去を隠す「偽物のシンデレラ」ではない。自分の足跡を武器に変え、光のステージを奪いに行く一人の「戦士」へと変わりつつあった。




