第六章:デジタル・コロッセオ
一次審査の合格通知から数日後、陽葵のもとに二次審査の全貌が届いた。それは、現代のアイドル・サバイバルを象徴するような、残酷なシステムだった。
『二次審査:公式プラットフォーム【Re:BURN】への動画投稿、および一般視聴者によるネット投票』
陽葵が専用のアプリを開くと、そこにはすでに五百人を超える通過者たちの顔が並んでいた。全国から集まった、磨けば光る原石たち。その一人一人が、自分の人生を賭けてカメラの前に立っている。
「五百人……。この中から、さらに絞られるんだ」
陽葵は、自分のエントリー動画がプラットフォームにアップロードされるのを見守った。 タイトルは『八十キロだった私から、あなたへ』。
動画が公開された瞬間、スマートフォンの通知が止まらなくなった。 ――「え、この顔で元デブ? 加工すごそう」 ――「嘘松乙。どうせ話題作りでしょ」 ――「でも、この『自分磨きノート』の量……ガチじゃない?」
ネットの海は、想像以上に冷たく、そして鋭かった。匿名の人々が、陽葵の過去を「詐欺」や「整形」と決めつけ、心ない言葉を投げつけてくる。画面を見るたびに、胃のあたりが焼け付くように痛んだ。
「ひまり、コメント欄なんて見るんじゃないわよ!」
結菜が部屋に駆け込んできた。彼女は自分のスマホで、必死に陽葵の動画を拡散していた。
「見てなさい。あんたの努力を裏付ける証拠、私が全部SNSにぶち撒けてやるから」 「結菜……」 「あんたがこの三年間、どれだけ血の滲むような思いでその体を作ってきたか。私以上に知ってる人間はいないんだからね!」
結菜は言葉通り、陽葵と一緒に公園で走り込んだ夜の写真や、文字で真っ黒になったノートの断片を、陽葵への熱い応援メッセージと共に投稿し続けた。
最初は冷笑に包まれていたコメント欄に、少しずつ変化が現れ始める。 ――「このノート、本当に三年前から毎日書いてる……」 ――「ただの美人と、死ぬ気で美人になった人は、目の力が違うわ」
票数は、亀のような歩みではあったが、着実に、一票ずつ積み上がっていった。 陽葵は、ボロボロのマフラータオルを強く握りしめた。
「笑われてもいい。信じてもらえなくてもいい。私は、私の足跡を信じる」
五百人を超えるライバルたち。その波に飲まれそうになりながらも、陽葵は初めて、自分の「過去」という武器を手に、デジタルの戦場へと足を踏み入れた。




