第五章:鏡を割る勇気
親友・結菜の言葉が、陽葵の胸の中で静かに、けれど熱く燃え続けていた。 三年間ひた隠しにしてきた「八十キロだった過去」を隠そうとすればするほど、今の自分が薄っぺらな偽物に見えてしまう。審査員に「空っぽ」だと見抜かれたのは、外見ではなく、自分の過去を愛せないその卑屈な心だったのかもしれない。
そんな折、運命を変える通知が届く。かつての憧れである伝説のアイドル・響による、前代未聞の公開オーディション告知だった。
「ひまり、これよ! 24時間配信オーディション。あんたがどれだけ泥臭く努力してきたか、世界に見せつけてやりなさいよ!」
結菜は興奮気味に、自分のスマートフォンのカメラを陽葵に向けた。 ドレッサーの前には、中学時代の薄汚れた『自分磨きノート』と、あの日ドームで買ったボロボロのマフラータオルが置かれている。
「……うん。撮って。ありのままの私を」
カメラのレンズが、陽葵の瞳を射抜く。 これまでのオーディションでは、いかに今の自分が美しく完璧であるかを見せようとしてきた。けれど、今回は違う。
「私の名前は、陽葵です。……三年前、私は体重が八十キロを超えていました」
初めてカメラの前で、その数字を口にした。喉の奥が震え、視界が涙で滲む。 結菜は何も言わず、ただ力強くカメラを回し続けた。
「自分を愛せという言葉を信じて、死ぬ気で自分を変えてきました。でも、痩せても、綺麗だと言われても、私はずっと自分が大嫌いなままでした」
ノートのページをめくる。そこには、泣きながら書き殴った「痩せたい」「食べたい」「死にたい」という、綺麗事ではない執念が詰まっていた。陽葵はその一ページをカメラに向け、言葉を絞り出した。
「私は、魔法で変わったシンデレラじゃありません。泥を這って、ガラスの靴を履き潰す覚悟でここまで来た、ただの泥臭い人間です。……そんな私でも、誰かに希望を届けられるアイドルになれるのか、証明させてください」
話し終えた瞬間、陽葵は膝から崩れ落ちた。 隠したかった醜い自分をさらけ出した今、不思議と心は軽くなっていた。
「……最高だよ、ひまり。あんたの中身、世界に届くはず」
結菜が震える指で「送信」ボタンを押した。 それは、偽物のシンデレラが自らの足跡で光の真ん中へと駆け上がる、逆襲の序曲だった。




