第八章:選別の終わりと、新たな幕開け
二次審査の締め切りまで、残り一時間。 プラットフォーム【Re:BURN】のランキングボードは、一分一秒ごとに激しく入れ替わっていた。五百人を超えていた候補者たちは、この一週間で無慈悲に選別され、上位五十名だけが次のステージである「合宿」へと進むことができる。
陽葵の順位は、四十八位。 まさに当落線上の、薄氷を踏むような位置にいた。
「ひまり、最後まで諦めないで! 今、SNSで最後の追い込みかけてるから!」
結菜は、指が腫れ上がるほどスマートフォンを操作し、陽葵の「三年の軌跡」を世界に訴え続けていた。陽葵自身も、自室から最後のリクエスト配信を行っていた。
「私は、自分が嫌いでした。今でも、鏡を見るのが怖くなる時があります」
カメラの向こうにいる見知らぬ数万人の視聴者に向かって、陽葵は震える声で言葉を紡ぐ。
「でも、この三年間、私は一日も自分を裏切らなかったことだけは胸を張れます。……私を、あの光の中に連れて行ってください」
画面には「頑張れ」「応援してる」「ノートの量に引いたけど、本気なのは伝わった」というコメントが滝のように流れ落ちていく。
そして、運命の午前零時。 カウントダウンが終了し、画面が一度暗転した。
表示された最終順位。 『第三十九位:陽葵』
「……っ、やった……! 通ったよ、ひまり!」
結菜が叫びながら陽葵に飛びついた。陽葵は崩れ落ちるように椅子に座り込み、顔を覆った。 合格した。誰かに「中身が空っぽ」だと言われた自分を、ネットの向こうの誰かが、そして何より親友が、その「中身」ごと認めてくれたのだ。
喜びも束の間、合格通知のメールには、次なる審査の過酷な内容が記されていた。
『合格おめでとうございます。三次審査は「24時間生配信・山中合宿」。明日、指定の場所に集合してください。持ち込み可能な私物は制限されます』
陽葵は、一冊目の『自分磨きノート』と、ボロボロのマフラータオルを愛おしそうに撫でた。
「結菜。私、行ってくるね」 「当たり前でしょ。あんたが伝説になるのを、私は特等席で見てるんだから」
翌朝。陽葵は、まだ朝霧の残る集合場所へと向かった。 そこには、自分と同じように修羅場を潜り抜けてきた、精鋭たちの姿があった。 偽物のシンデレラが、ついに「本物」の怪物たちが集う檻の中へと足を踏み入れる。そこは、夢が叶う場所ではなく、剥き出しの執念がぶつかり合う、戦場だった。




