第十五章:沈黙の夜と、一筋の光
匿名アンケートの結果公表という「公開処刑」が終わり、合宿所には重苦しい沈黙が立ち込めていた。かつての和気あいあいとした空気は霧散し、候補者たちは互いに目を合わせることなく、自分の内側に閉じこもっていた。
陽葵は、当落線上の四十八位という危うい順位のまま、深夜の自習室にいた。昼間の言葉、仲間たちからの「不快」「過去の切り売り」という評価が、冷たいナイフのように心に刺さったまま抜けない。
「……やっぱり、私は皆から嫌われてるんだな」
誰もいないスタジオで、陽葵は一人、ボロボロのマフラータオルを握りしめ、鏡のない壁に向かってステップを踏み始めた。空腹で力が入らない足、執拗に追いかけてくる赤外線カメラの視線。すべてを忘れられるのは、体を動かしている時だけだった。
その時、自習室のドアが静かに開き、聖良が入ってきた。一位を独走する彼女の顔には、いつもの余裕はなく、焦燥の色が浮かんでいた。
「……ねえ、陽葵。あんた、どうしてそんなに平気な顔をして踊れるの?」
聖良の声は震えていた。彼女もまた、匿名アンケートで「中身がない」「親の七光り」と叩かれ、完璧だったはずのプライドにひびが入っていたのだ。
「平気じゃないよ。……死ぬほど怖くて、今も泣きそう」
陽葵は動きを止めず、荒い息をつきながら答えた。
「でも、私はこれしかないから。三年前の私は、嫌われることさえ許されない、透明な存在だった。……誰かに『不快だ』って言ってもらえるくらい、私は、誰かの視界の中に立てるようになったんだ」
その言葉に、聖良は言葉を失った。どん底から這い上がってきた陽葵にとって、アンケートの罵倒さえも、自分が「ここに存在している」という証明に過ぎなかった。
配信を見守る視聴者たちのコメントが、深夜の静寂を塗り替えていく。陽葵の順位は、四十八位から、四十七位、四十六位へと、亀のような歩みで、けれど着実に上昇を続けていた。
夜明けは近い。最終的に二十人に絞られるという、過酷な「振るい」の時が刻一刻と迫っていた。




