第十二章:レオタードの洗礼
合宿二日目の朝、スタジオに集められた候補者たちの前に、響が冷徹な足取りで現れた。壁のモニターには、深夜も動き続けていたリアルタイムランキングが映し出されている。
陽葵の順位は、四十五位。 五十人中三十人が脱落するこの合宿において、それは崖っぷちの死守ラインですらなかった。
「最初の課題を与えるわ。テーマは『自己プロデュース・ダンス』。ただし、衣装は全員、支給されたレオタードのみ。メイクも禁止。鏡のない部屋で、自分の『体』と『感覚』だけで勝負しなさい」
その宣告に、スタジオは凍りついた。着飾ることで欠点を隠し、鏡を見て安心を得てきた少女たちにとって、それは最も残酷な「曝け出し」だった。
レオタード一枚になった陽葵の体には、かつて八十キロだった頃の名残はない。だが、鏡がない不安が、彼女の脳裏に「醜かったあの頃の幻影」を呼び覚まそうとする。
「ひまり、震えてるわよ。メッキが剥がれるのがそんなに怖いの?」
隣で完璧なラインを誇る聖良が、嘲笑うように囁いた。 だが、レッスンが始まると、状況は一変した。鏡がないことに混乱し、ステップを乱す候補者たちが続出する中、陽葵だけは迷いなく地を蹴った。
――鏡なんていらない。 彼女は三年間、深夜の暗い公園で、自分の影だけを頼りに踊り続けてきたのだ。鏡の中の自分を見る勇気がなかったあの絶望の夜が、今、彼女の筋肉に刻まれた正確なリズムとなって、暗闇の中で光を放ち始めた。
陽葵のダンスは決して華麗ではなかったが、何かを必死に掴み取ろうとする執念が、配信画面を埋め尽くす視聴者たちの目を釘付けにしていった。
「……面白い。魔法が解けた後のシンデレラの方が、よほどいい顔をするじゃない」
モニター越しにその姿を見つめる響の瞳に、初めて微かな期待が宿った。深夜、疲れ果てて部屋に戻り『自分磨きノート』を開いた陽葵は、自分の順位が静かに、けれど確実に動き始めていることに、まだ気づいていなかった。
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