第十一章:檻のルールと怪物たちの集い
山中の合宿所。陽葵が足を踏み入れたそこは、夢の園ではなく、数百台のカメラが二十四時間死角なく候補者を監視し続ける、巨大な「檻」だった。
エントランスのモニターには、冷徹な合宿の全容が映し出されている。 「最終日までに、五十人を二十人にまで絞り込む。基準は、視聴者によるリアルタイム投票のみ。下位の者は、その場で即刻、この山を降りてもらうわ」
伝説のスター・響の声がスピーカーから無機質に響く。それは、現代のデジタル・コロッセオにおける、死刑宣告にも似たルール説明だった。
陽葵の心拍数が跳ね上がる中、廊下の向こうから圧倒的なオーラを放つ少女が歩いてきた。 「あんたが、あの『元デブ』の陽葵? 動画、見たわよ」
一次審査一位通過の聖良だ。彼女は完璧に手入れされた指先で、陽葵の胸元にあるボロボロのマフラータオルを軽く弾いた。 「話題性だけでここまで残れたみたいだけど、ここは本物の『輝き』だけが生き残る場所。あんたみたいな偽物のメッキが剥がれるのを、楽しみにしてるわ」
その瞳には、陽葵をライバルとも認めない、底冷えするような選民意識が宿っていた。聖良の背後には、ダンスの天才・凛など、すでに固定ファンを抱える強力なライバルたちが、陽葵を品定めするように見つめている。
深夜、相部屋のベッドの中で、陽葵は震える指で『自分磨きノート』を開いた。 配信画面には、すでに「話題作り枠は早く落ちろ」「聖良様と並ぶのは失礼」という、棘のあるコメントが流れ続けている。
「……怖くないわけない。でも、ここで逃げたら、私は一生『八十キロの自分』に呪われたままになる」
赤外線カメラの赤い光が、暗闇の中で陽葵の剥き出しの執念をじっと見つめていた。最終日に残る二十人の枠。当落線上にいる陽葵にとって、それは文字通り、命を削って掴み取るしかない「ガラスの靴」への、過酷すぎる戦いの始まりだった。




