和解と混乱と恋敵と
「じゃあ、僕らの後をずっと付けてきてたってこと?」
「…………ハイ」
早乙女さんがしゅんと首を縦に振る。彼女をかばうようにりつ姉が僕を遮った。
「さっちゃんがひーくんと――その、変な感じになった後、ご飯いらないって連絡があったのがショックだったみたいで。だからあんまり責めないであげてください」
ジジジ……と焼き過ぎた肉の脂がパチパチ弾ける音が鳴る。僕はそれを口に放り込む。焼けすぎていて少しだけ苦かった。
「ごめんなさい」
早乙女さんはしょんぼりしたままで、そう呟いた。
正直なところ、僕もそこまで別に怒っているわけではない。これまでの恩のことを考えれば全然釣り合ってないし、程度はあれど僕のことを気にかけてくれているのは嬉しい。
でも、だとしても、それで彩華さんがショックを受けているなら、ちゃんと怒らなきゃいけない。それとこれとは話が別だ。
僕は彩華さんの様子を伺おうと彼女を見た。
「わ、私の方こそ、すみませんっ」
意外にも彩華さんは怒ることなく、それどころかこっちもしゅーんと縮こまっていた。僕とりつ姉が同時に「え」と声を出す。
「だ、だって、私……」
彼女は言いよどんだあと、再び縮こまった。
「彩華さんは、怒ってないんだね?」
「はい。……というかむしろ、その、申し訳ないというか……」
「じゃあ――」
その時、愉快な音と共に隣の卓に猫型ロボットが肉を運んでくる。りつ姉がそれを受け取りに慌てて席を立つ。残された早乙女さんと彩華さんは二人とも上目遣いで見つめ合っていて、正直言って逃げ出したい気分だ。
「と、とりあえず4人集まったんだし、お肉を楽しもうよ。店員さんに卓合わせられないか相談するね」
二人とも無言で頷く。タブレットで呼び出しボタンを押すと、早乙女さんはいそいそとカルビを並べ始めた。どうやらしゅんとした時ですら彼女の料理への情熱は止められないらしい。
チリチリとカルビの脂が網の上を滴って、火の勢いが上がる。りつ姉が肉の皿を運び終わったと同時に店員さんが卓に来て、僕らの席を合わせたいと伝えると、快く了承してくれた。
「お、美味しそうですね。さすがさっちゃんが奉行してるだけありますね」
りつ姉はぎこちなさそうに言う。早乙女さんは「うん」と小さく呟くと、焼けた肉をそれぞれの方に移している。僕はなんだかおかしくなって少し笑ってしまった。
「うん、おいしいよ。早乙女さんありがとうね」
「あ、うん……///」
しおらしい早乙女さんはあんまり慣れていないし、なんだかこっちも気恥ずかしくなってくる。僕はなんだか居心地が悪くなって、残っていたビールを一気に飲み干した。
「平坂くん!?」
ビールののど越しが一気に胃へと落ちていく。驚く3人を交互に見てから、僕は早乙女さんをまっすぐに見た。早乙女さん思わず姿勢を正した。
「早乙女さん、まずはちゃんと彩華さん謝ってくれてありがとう。僕もちゃんと早乙女さんに言うべきだった、ごめんなさい」
「いやいやいや、ボクこそ跡をつけるような真似して……ごめん。良くないのは分かってたんだけど……」
「さっちゃんはひーくんのことが心配だったんです。急にご飯要らないって出ていったから、家出でもするんじゃないかと思ったようで」
早乙女さんは少し目を丸くしたが、ブンブンと縦に首を振った。
「そんなことで……心配し過ぎというか、過保護だよぉ」
「あはは、ゴメンゴメン……」
はぁーとため息が出る。りつ姉が「まぁ食べましょ食べましょ」と食べごろになったハラミを僕の取り皿に乗せた。少しだけ話題を切り上げようとしているようにも感じたけど、気にし過ぎだろうか?
それでもやっぱり、早乙女さんが焼いてくれるだけで、ただのハラミが特上の黒毛和牛のような味わいになる(食べたことないけど)。脂の少ない部位のはずなのにしっとりとした舌触りで、凝縮した肉のうま味と柔らかな舌触りが口の中を満たす。お米もかき込みたくなる。
「そっか……自宅だと焼き肉できないもんね」
米をかき込む僕の姿を見て、申し訳なさそうに早乙女さんが呟く。
「こんど初春荘で焼き肉するのはどうでしょう?七輪を使えばお庭でもできますよね?」
「いいね。他の神にもあいさつしたいし、初春荘パーティしよう!」
「えへへ……りっちゃんも平坂くんもありがとうね」
そうして、なんだかんだあったけど、平穏に焼き肉をして僕たちは過ごした。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
帰り道、初春荘が見えたあたりで、私達はひーくんと別れました。――というのも、姫柊彩華に話したいことがあったからです。
「ねえ、姫柊さん」
「は、はい?」
大量の荷物を抱えた姫柊彩華が振り向きます。私の表情を見て、笑顔がピッと固まって怯えた子犬のような表情に変わりました。
「せ、瀬織津姫……なんでございましょうか?」
「――私達、貴方の恋敵ですからね」
「へっ?」
「抜け駆けは許します。その代わり、私達の抜け駆けも邪魔しないでくださいね?」
「え、へ?わ、私達って……まさか」
さっちゃんが顔を真っ赤にしながら目を逸らし、小さくうなずきました。
「え、え、え、えーーーーーーーっ!!!???」
姫柊彩華の叫び声は、初春荘にいるひーくんにまで響きそうな大声でした。




