姫柊彩華再び(2回目)
八尺様の現界にも信仰を消費してしまうしこのままではらちが開かないから、と今日は一旦解散することになった。りつ姉は解散に露骨に反対していたが、進展がないのも事実だったのもあって渋々了承しながら202号室へ戻っていった。
僕と早乙女さんはあまりに困難な課題を前に、途方に暮れながら天井を見つめていた。
「平坂くんはホラーって詳しい?」
「人並みにホラー映画とかは見るけど、ホラーが好きだからというよりは有名だから見るって感じで、特段詳しくはないかなぁー」
「だよねぇー……」
「早乙女さんは?」
「ぜーんぜん。本物を知ってるから全然怖くないもの。それに人間の作る作品って被害者が人間じゃん。感情移入できないって」
「説得力が凄い……というかやっぱり幽霊とかっているんだ……」
「いるにはいるけど、多分平坂くんの考えてる感じじゃないかなー」
「というと?」
「精霊とか妖怪に近いイメージ。人間が想像するようなホラーは流石にいないかなぁ」
「夢がないなぁ」
「現実だからネ」
そうやって駄弁っていると、スマートフォンの通知がなった。見ると彩華さんが配信を始めていた。彩華さんの緊張しながらもごそごそしている様子を見て僕は彼女との約束を思い出した。
「やべっ、今日配信に出なきゃいけないんだった」
「えー、これからりっちゃんの依頼だってのに?」
「彩華さんは彩華さんで大事な依頼なんです。贔屓はできませんから」
「はーい、いってらっしゃーい」
僕は慌てて身だしなみを整えると、106号室へと急いだ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「こんプラモー、皆の神様姫柊彩華だよー。今日も配信していきますねー」
『こんプラ』
『こんプラモー』
『こんプラ、今日は巫女服?』
「そだよー。メガミデバイスのアマテラスイメージで、恥ずかしいので露出は抑えめに……ってかんじー」
『可愛い』
『神様っぽくていい』
「えへへ、ありがと♪」
どうも皆さま、姫柊彩華です。今日も今日とて私は配信を頑張っています。これも信仰のため、私が生き残るため、そして愛しの秋津平坂くんのため……。
それに悪い事ばっかりじゃないんです。今日はなんと、久しぶりのアノ回なんです。
「今日はねー。アニメ化決定記念ってことでルミティアちゃんを組んでいこうと思いまーす」
ルミティアちゃんの箱をカメラに映します。もうすっかりプロの配信者ってワケ。それと同時に部屋の呼び鈴が鳴りました。私の胸がとくんと高鳴ります。
『誰か来た?』
『Uber?』
「うーん誰ですかねー」
すると合い鍵が――、そう《《合い鍵》》がドアのロックを解除して、誰かが部屋に入ってきました。
配信している私のことなどお構いなしにドアが開けられます。平坂くんが部屋に入ってくると、私の近くに座ります。
「あ、姫柊さんもう配信中?」
『男!?』
『彼氏!?』
『まずい』
「はい、配信中ですよー」
『なんだ平坂か』
『平坂ならいいか』
『ほなええか』
この流れももう日常になってきました。平坂くんは少し前から配信に初心者枠として出てもらっていて、何回かに一度、初心者モデラ―としての感想をレビューしてもらっています。最初は男が配信に!と驚かれましたけど、無害そうだからって理由でなんだかんだ炎上はしませんでした。
くふふふ。くふふふふ。
これってカップルチャンネルですよね!?男と女が二人っきりで画面に映ってるのなんてカップルチャンネル以外ありませんよね!?
平坂くんはそんな私の気持ちなんて知らないで配信をまわしてくれています。
「今日は何作るの?」
「今日はねー、ルミティアちゃんです。Re:Actって言って普段着のようなバリエーションが出たから、それを組んでいこうかなーって」
「りょーかい」
平坂くんがランナーを並べる手つきも立派な経験者のそれです。だって私が、私が平坂くんを経験者にしたんですから。くふふふ。ふへっ。えへへへへ。
それじゃー今日もカップルチャンネル頑張っていきましょ~~~!
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「あ、そうだ」
平坂くんが何か思いついたように私の方を見てきます。うーん、下着姿にも見慣れてしまったようですし、アノ下着をそろそろ引っ張り出すころでしょうか?
「はい?」
聞き返したのに今度は平坂くんが考えるような素振りをしました。
「ちょっと他の神の頼み事があったから、しばらく姫柊さんの配信に来れる頻度落ちるかも」
「へっ?」
「一人じゃ不安かもしれないけど、一応姫動画の編集は間に合わせるから心配しないで」
ど、どういうことでしょうか?私達のチャンネルは?匂わせからの既成事実配信乗せちゃいました計画は?
「だ……誰の依頼なんですか」
「えーと、知ってるかは分からないけど、って個人情報は言わないほうがいいよね。202号室の神」
「瀬織津姫様!!??」
「名前ださないで、配信中!!!」
「あっあっあっ、えと、あのー、えと、マジすか?」
平坂くんは申し訳なさそうに私の方をみます。伏し目がちな姿もカッコいい……じゃなくて、どういうことですか?瀬織津姫様なんて格が違うというか、月とすっぽんなんですケド。
「ごめん、マジ。ちょっと大変そうな案件だから、時間かかりそう」
「ち……ちなみにどんな案件なんですか」
「えーと配信には載せられないから……」
平坂くんが顔を近づけてきました。ヤバい、溶ける。このアングルはまずい。彼が耳打ちしてきます。ASMRかよ。今、配信しちゃいけない表情になってるかもしれません。
「その、新しい都市伝説を二人で作らなきゃって話になって、ホラーについて勉強しなきゃいけないんです」
「そ、そんな……!」
『何々ー?』
『話せる内容だけ知りたい』
『気になる』
「そんなのデートして子作りじゃないですかっ!!!!」
私のその一言のせいで配信は少しだけ炎上しました。




