怪談を作ろう!
「でも都市伝説の信仰の復権だなんて、正直ボクらには荷が重すぎるというか、あんまりにも遠い目標な気がするんだケド……」
早乙女さんは眉をひそめて八尺様を見上げていた。僕にも正直荷が重いなぁと思う。
りつ姉が早乙女さんに答える。
「私も一足飛びに出来るとは思ってはいません。ですがお二人の力を借りられれば不可能ではないと思います」
その声色は真剣そのものだった。僕は小さく手を挙げながら話した。
「りつ姉ごめん、僕も早乙女さんに同意見。ホラーは嫌いじゃないけど専門家じゃないし、その、正直今の八尺様の方が僕は好きというかー……」
「ぽ?」
「え」
「はい?」
八尺様が恥ずかしそうに手をモジモジとして、二人が驚いた顔で僕を見た。りつ姉が恐る恐るといった様子で僕に少し近寄ってくる。
「ひ、平坂くんは背が高い女性の方が好みなんですか?」
「へ?」
「ですから、その、お嫁さんにするなら色々と大きな女性の方が良いんでしょうか……?」
「イヤイヤそういう意味じゃなくて!!元々は子供を連れ去る恐ろしい怪異だったはずだし、そういうのに比べれば今の可愛い姿の方が良いじゃんって話!!!」
「ぽ……」
「ビックリさせないでよ……」
「あら、そうですか……」
皆の視線が痛い。僕はいたたまれなくなって話を続けた。
「というかりつ姉は何か作戦とかあったりする?それに多分この中だとそういうの一番詳しいだろうし、もし作戦がなくても意見は聞いてみたいかな」
りつ姉は待ってましたと言わんばかりに手を合わせた。
「ちゃんとありますよ。私達で新しい都市伝説を作るんです」
「「都市伝説を作る?」」
僕と早乙女さんは素っ頓狂な声を上げた。彼女は僕らの反応にも気にせずそのまま話を続けた。
「ええ。都市伝説たちが今みたいにキャラクター化していることに危機感を覚えてる人って結構いると思うんです。そういう人たちの気持ちを私達の怪談で呼び覚ますんです……!」
「でもお話を書いたことも、ましてや怪談だなんて、僕に出来るわけないよ」
「大丈夫です。私と一緒にお勉強していけば、きっと怪談もかけるようになりますから」
りつ姉が僕の手を握る。この仕草もあの時のまんまだった。
「というかそれならりっちゃんが自分でやればいいじゃん」
早乙女さんがむすーっとしながら話す。彼女の態度はさておき、それに関しては僕も真っ先に思ったことだ。あえて僕を頼る理由がないというか、りつ姉自身が書いた方が絶対良いはずだ。
しかしりつ姉は少し困った様子で話した。
「それが……どうも私の怪談は皆さんの共感されづらいみたいで」
「とりあえず読ませてヨ。なんか参考になるかもしれないしー」
早乙女さんの言うことにも一理ある。岡目八目という言葉もあるし、読者側の視点に立てば有効なアドバイスが出来るかもしれない。それに改造しただけで怪談になったらそれで良いし。
りつ姉は僕らの期待の籠った目にまんざらでもなさそうな様子だ。僕は彼女の前にノートパソコンを置くと、「仕方ないですねー」とはにかみながらもパチパチとキーボードを打ち始めた。
数分もしないうちにりつ姉はよしと呟いてPCの画面を僕らの方に向けてきた。
「ど、どうでしょうか」
僕らはPCの画面を覗き見た。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
『恐ろしいライオン』作:せのおのりっちゃん
とあるサバンナには恐ろしいライオンがいます。
そのライオンは二つの頭を持ち、身体は軽トラックよりも大きく装甲車よりも頑丈です。そして走る速度はスーパーカーよりも速く顎の力は1万トン以上もあります。
しかもそのライオンは知性を持ち人語を理解します。それなのに人類には極めて敵対的で、人間の乗る車を見つけたらマッハ5の速度で突進して粉々に破壊して、中に乗っている人間をかみ殺してしまうのです。
みなさんもサバンナに行くときはライオンに気を付けましょう。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「とっておきの自信作なのですが、どうでしょうか……!!」
僕は思わず早乙女さんの方を見た。彼女は真顔で僕の方を見ると、小さく首を横に振った。
「正直な感想をいただきたいんです!さっちゃんはどう思いましたか?」
りつ姉が期待のこもった目で僕らを見つめてくる。僕は指名されなかったことにひとまずほっとしつつ、彼女の反応を待つことにした。早乙女さんはぎゅっと眉間に皺を寄せながら答えた。
「ま、まずは都市伝説本人の八尺様の意見を聞いた方が良いんじゃないかなー……?」
こいつ逃げやがった。しかもよりにもよってちゃんと言葉を話せない八尺様に振りやがった。
「ぽぽぽ、ぽぽぽ、ぽぽぽ……」
「うふふ、そうですよね」
「りつ姉、なんて言ってるか分かるの?」
「ええ、もちろん。たとえに車を用いているのが幼い子供向けに配慮出来ていて良いと思います、って」
だめかー……。まぁそりゃそうだよね、八尺様からすれば上司どころか直接の上位存在だもんね。失礼なことなんて言えないよね。
早乙女さんが食い気味に話す。
「じゃあ次は平坂くんの番ね!!」
「えっ!?」
「はい平坂くんどうぞ!!」
まずい、早乙女さんにかわされた。りつ姉が期待のこもった目で見つめてくる……。
「しょ、正直な感想でいいんだよね?」
「もちろんです!」
――覚悟を決めろ秋津平坂。嘘をついてまで彼女を喜ばせるのか、それとも彼女のために正直に話すか……。
いや、そんなのこうすべきに決まってる。僕は意を決して口を開いた。
「初春荘の管理人として、りつ姉の弟ではなく瀬織津姫の相談役として話させてもらうと――正直、全く怖くない」
「へ」
りつ姉の驚きと失望が混じった声を気にしないようにしながら、僕は話を続けた。
「だってなんかゲームの説明みたいだし、その、怖いって言ってもライオンだし……」
「でもでも、現実に居たらめっちゃ怖いでしょ!?大きくて倒せないライオンなんですよ!!」
「まぁ現実に居たら怖いけど、作り話なんだから現実に居ないし……。それにいるとしてもサバンナなんでしょ?」
「うううぅぅぅうぅ」
りつ姉の目にじんわりと涙が滲む。それでも引くわけにはいかない。
「それとこのライオンに対する『怖い』って感情と、ホラー作品に対して感じる『怖い』って、なんか違う気がするんだよ」
「そうそうそう!ボクもそう思ってた!!ボクは怖かったんだけどね!!ボクは!!!」
早乙女さんが急に便乗してきた。……なんかずるい。
「でも人間のひーくんが怖がらなきゃ意味ないんです……。人間さんに怖がってもらわないと」
「ぽぽぽ……」
八尺様が何かを話した。ふむふむとりつ姉がそれを受け取って翻訳する。
「人間の『怖い』という感情について学んだ方が良いのかもしれません、って」
「そうだね。ボクらとは絶対的な感覚が違うだろうし、勉強した方がいいのかも」
「それに『怖い』が分かれば都市伝説が陳腐化した原因もわかるかもしれませんね」
僕は心の中でこの依頼は大変になりそうだとため息をついた。




