第六十〇話 トロール戦
星斗は高機動車に乗って、海堂ダンジョンの周囲の立ち入り禁止区域を進んでいく。この部隊は、覚醒者を乗せた高機動車と、自衛隊員を乗せた高機動車の二台で構成されていた。
(影術は天満ダンジョンで役に立ったけど、使える場面は限定的だ。それよりもHP再生が欲しい。万が一、重傷を負っても、死なない限り自動でHPを回復してくれるし。この前は危なかったからな)
星斗は、天満ダンジョンでシャドウアサシンの背後からの攻撃に気づかず、朝比奈明日香に助けてもらった時のことを思い出している。
(明日香さんは多分、空間把握か危険察知みたいな感知スキルを持ってたから気づけたんだろう。でもその二つを持ってるモンスターの存在は確認されてない。あれば俺の気配察知に上書きするんだけど)
星斗は高機動車に乗りながら、そんなことを考えている。
「三体のサハギンを発見。車を停止します」
二台の高機動車が停止し、自衛隊員達が車から降りてアサルトライフルを構える。
「撃て」
自衛隊員が魚人の姿のCランクモンスター、サハギンを狙って一斉射撃を開始し、その銃弾を受けた三体のサハギンは倒れて、その場に魔石が出現する。それを自衛隊員が回収した後、彼らは巡回を再開する。
「このままCランクだけなら楽できるのにな」
「それじゃ、報酬が増えないだろ。俺達がBランク以上を倒せば、その分、報酬が増えるんだから」
星斗と一緒に後部座席に乗っている二人の覚醒者がそう話している。この立ち入り禁止区域の巡回依頼は、覚醒者が倒したモンスターがドロップした物は、現金化してランクに応じて分配されることになっていた。大規模作戦ではモンスターに止めを刺した者がそのドロップ品を入手できたのだが、今回は手柄の奪い合いにならないように、そう決められていた。
(トロールはBランクだから、俺達が戦うことになる。その時、接近してHP再生をコピーしよう)
星斗はそう考えていたが、彼らが最初に遭遇したBランク以上のモンスターは、サーベルタイガーだった。
「Bランクのサーベルタイガーを五体発見しました。覚醒者の皆さん。お願いします」
「五体か。結構、多いな」
「心配ないわ。私の魔法で一掃してあげる。だからあなた達は魔法発動までの時間を稼いで」
「わかった」
「了解」
ドラゴンファングギルドの女性の魔法使いが自信満々にそう話し、ほかの戦士タイプの覚醒者達が、彼女の提案を受け入れる。そして星斗達は高機動車を降りて、サーベルタイガーがいる場所へ進んでいく。
(Bランク相手なら、ゴールドナイト達を呼ぶ必要はないな。覚醒者が五人もいれば倒せる)
星斗はゴールドナイト達を召喚すると大量のMPを消費してしまうので、今回は呼ばなかった。
「奴らはまだこっちに気づいてない。今のうちに魔法の準備をするわ」
星斗達は移動を止めて、魔法使いの女性が杖を掲げながら魔力を集中させている。その途中、
「グオオオオオォォォォ!」
星斗達の存在に気づいたサーベルタイガー五体が、彼らに向かって走りだす。それに対し星斗達は武器や盾を構えてその場で待機し、魔法使いの女性は、引き続き魔法発動の準備をしている。
「うおおおお!」
「オーラブレード!」
「オーラナックル!」
前衛の四人が、接近してきたサーベルタイガーと戦闘を開始する。
「はっ!」
「ガアアアアアア!」
星斗も電撃の剣を振るい、雷の斬撃で目の前のサーベルタイガーを切り裂いて倒す。
「次っ!」
続けて星斗が、もう一体のサーベルタイガーと戦闘を開始し、こちらも雷の斬撃で倒す。その間にほかの三人もサーベルタイガーと戦っていたが、そのうちの一人がサーベルタイガーに体勢を崩されて、その鋭い牙で噛まれようとしていた。
「うりゃあ!」
それを見た星斗は、一瞬でそのサーベルタイガーに接近し、雷の斬撃を放って一撃で倒す。
「大丈夫ですか?」
「ああ。助かったよ」
「準備できたわ! 離れて!」
残った二体のサーベルタイガーと魔法使いの女性の射線から、星斗達が急いで離れる。
「バーストフレア!」
魔法使いの女性が、大量の火で作り出した巨大な火の鳥を解き放つ。それが高速で飛んでいき、一体のサーベルタイガーに命中すると、火が広範囲に激しく燃え上がって、もう一体のサーベルタイガーの全身も飲み込む。
「ガアアアアアアア!」
「ゴガアアアアア!」
その火系上級魔法によって、残っていた二体のサーベルタイガーは倒れて消滅し、その場所に魔石が二個ドロップした。
「お疲れさまでした。後の処理は我々がします」
戦いが終わり、自衛隊員達が魔石を回収する。その後、星斗は高機動車に戻るために歩いていく。すると後ろからドラゴンファングギルドの魔法使いの女性が声をかけてきた。
「ねえ、ちょっといい?」
「何でしょうか」
「君、なかなかやるわね。スキルも使わず、ひとりで三体も倒すなんて。ああ、私はドラゴンファングギルドの安藤よ」
「俺はライジンギルドの本条です」
「本条君ね。でもライジンギルドの有能な覚醒者は、みんな知ってると思ってたんだけど……」
「俺はライジンギルドに入ったばかりなので」
「あー、やっぱりそうなのね。今日はあなたの力に頼ることになりそうだわ」
「いえいえ。安藤さんの魔法も凄かったですよ」
「ふふふ。ありがと」
星斗と安藤は、そんな話をしながら高機動車の後部座席に戻り、その後、部隊は巡回を再開する。そして何度かBランクモンスターと戦いながら立ち入り禁止区域を進んでいくと、運転席の自衛隊員が無線で連絡を受ける。
「了解しました。直ちに向かいます。みなさん。ギガントトロールと複数のトロールがほかの部隊と交戦中で、救援要請が全部隊に出ました」
「ギガントトロールだと!」
「Aランク上位のやつか」
「俺達が行っても、倒せるかわからんぞ」
自衛隊員の言葉を聞いて覚醒者達が動揺している。すると安藤が落ち着いた様子で話す。
「全部隊が集結するなら、榊原さんも来るはずよ」
「おお、そうか。Sランクがいれば、ギガントトロールも怖くない」
「俺達は榊さんが戦いに集中できるように、周辺のトロールの相手をすればいい」
安堵の言葉で覚醒者達の士気が上がる。
(ギガントトロールきた! うまく立ち回ってHP再生をコピーするぞ!)
星斗も心の中でやる気を出す。そして星斗達の部隊は、ギガントトロール達が出現した場所に向かって移動していく。
場面はそのギガントトロール達と巡回部隊が交戦中の場所に変わる。
「撃て! 効かなくても足止めになればいい!」
「うおおおおお!」
自衛隊部隊がアサルトライフルで距離を取りながらギガントトロールに攻撃し、覚醒者達は周囲にいるほかのトロールの群れと戦っている。
「持ちこたえろ! もうすぐ援軍が来る! 榊原さんが来るまでの辛抱だ!」
「おう!」
ここにいるAランクとBランクの覚醒者達は、トロールの群れと互角に戦っていた。
次回 ギガントトロール戦 に続く




