第九話 夜明けを呼ぶ色(1)昇らぬ日
この話には『西』という地方特有の言語(方言)が登場しますが、実在する地方ならびにそこで使用されている言語とは異なる、この物語の世界独自のものです。あらかじめご承知おきください。詳細は第六話をどうぞ。
「鷹野葵の退職届は受理していたことにしよう」
長かった沈黙を破り、本部長が言った。即座に、横に並んだ面々が次々に頷き始める。そこにはマリーが見たことのない顔もあれば、知っている顔もある。葵が退いた後、黒衣部門のトップの座に就いたルーキーの姿もあったが、心なしかホッとしているようにも見えた。
呆然としているマリーを他所に、まるで無上の名案であるかのように本部長はその場に着座しているすべての人間から称賛を浴びている。こちらは彼らが一体何を言っているのか、理解することすら追いついていないというのに。
病院送りになったシャイニーの代わりに、マリーは本部に戻り、上層部にすべてを報告した。拙い言葉ではあったが、ありのままを可能な限りわかりやすく話したつもりだ。それなのに、この反応? 自分はどこか途中で間違ったろうか?
「あの……」
マリーが恐る恐る口を開くと、盛り上がっていた室内が一気に静まり返り、その視線がマリーに集まった。鋭利な刃物を四方八方から向けられているような気分だ。
「ああ……」本部長はまだここにマリーがいたことを思い出したのか、ばつが悪そうに右手を振りながら、うんざりと吐き捨てる。「君はもう良いよ」
「え?」
「もう良いと言っているんだ。あとはこちらの話だ、下がりなさい」
「あの、待ってください! あたしたち、は、えっと……——」
「わからない奴だね、君は! もう君に用はないと——」
苛立ちながら机を乱暴に叩く本部長の横で、そっと片手を翳すだけでそれを宥めた男性がいる。本部長が媚びへつらう程度には偉い立場の、マリーは会ったことがない人物だ。
「会社として、この件については緘口令を敷く。くれぐれも、他言しないように」
驚くほど穏やかで、優しい声色だ。それを表すかのような淡い色合いのスーツを着て、ふわりとした白髪頭は清潔に整えられている。一見するととても紳士的な風貌、それなのに、一瞬で喉元を詰められたかの如く声が出なくなった。息を吐くことすらも難しい。
「幸い、今回のことは立入禁止区域内での出来事だからね。公にはしない」
「モンスターの件は、いかがしますか?」
「ガス……だっけ? 世間は煩いからねえ。混乱は避けてあげたほうが皆のためだろう。どう思う?」
「仰るとおりかと」
「誰にもわからないのに、わからないことを悪だと言われるのも心外だしねえ。まだはっきりと注意喚起をしないほうが良いんじゃないのかな?」
皆に優しく問い掛け、あたかも自由な意見を求めているように聞こえるが、そうではない。これは「同意しろ」という命令文なのだと悟った。
一つ、また一つと、似たような黒い頭が縦に動く。昔、そういう玩具が流行って店のショーケースに並んでいたことがあったっけ。
「良いかい?」男性は口調とお揃いの穏やかな目元をマリーに向けながらゆっくりと続ける。「君たちは無差別に民間人を襲う『モンスター』を討伐した。君はもちろん、ゼロの行為はあくまでヒーローとしての正当な職務だったんだ」
改めてそう呼ばれると認識するのが一呼吸遅れる。この場ではたとえシャイニー——チーフであっても、ただの番号に過ぎないのだ。
「今後罪に問われることもないからね。気に病む必要はないよ」
「……」
「わかるかな? ヒーローがモンスターに堕ちたなんて公表するわけにはいかないからね。おまけに民間人を殺害していたなどと世間に知れたら騒がれるどころでは済まない」
「違います‼︎」
理解力や気持ちが追いつかずとも、声だけは出てくる。「あお……ッ、鷹野統括はそんなんじゃありません!」
「君! 口を慎みたまえよ!」
「たかだかヒーローの分際で会社に楯突くつもりか⁉︎」
「でも本当に——」
不思議だ。少し前は、チーフにすら言い返せなかったのに。
きっとこの人たちには、絶対に反論なんかしてはいけなくて、その禁忌を破れば必ず酷い目に遭うと心のどこかでわかっている。それでも許せないのだ。葵のことも、チーフのことも、何も知らないこんな人たちに侮辱されるなんて我慢ならないのだ。
「随分と反抗的な部下を育てたものだね。ちょっと自由が過ぎるんじゃないのかい?」
「大変、申し訳ございません」本部長は大仰な口調で深々と頭を下げる。「教育はすべてゼロに任せておりましたので」
「ヒーローなんて学のない連中相手じゃ君も苦労するねぇ、本部長殿」
「私の管理不行き届きでございます」
「ゼロはどうした? 肝心な時に統括が不在とはけしからん」
「寝てますよ。良いご身分だ」
「アレはもう使い物にならんだろう。文字通りの『ゼロ』というわけだ」
「何ともまあお上手ですこと」
他部署の統括やリーダーからも、嫌味と嘲笑が飛び交う。知った顔だろうが何だろうが、関係ない。
——何なんだろう?
何も考えられない。頭の中が冷えて、氷のようだ。
彼らは何を話している? 自分のよく知る言語のはずが、何一つ理解できず、ただ気分だけが悪い。
チーフはいつも一人でこんな場所に立っていたのかと、ふと思った。そりゃあ、鉄仮面にもマネキンにもなり得るわけだ。
今さらになって気付いた。なりたかったんじゃない。そうならなければ、やっていられなかっただけだ。あの人は『ヒーローの子』で、ここにいる連中とは種類がまるで違う。チーフだけが知っている、チーフだけが理解できる何かを持っているからこそ、いつだってしんどかったに違いない。
それを葵だけがわかっていた。
「しかしまあどいつもこいつも、軟弱で困ったものだね。我々の若かった頃は、それくらいで仕事を休むなんて考えられなかった」
「甘いんですよ。これだから『女』はダメなんだ」
「ああ、言われてみれば、そうだったなあ」
「だいたいねえ、私は反対だったんですよ。たかが二世というだけで重用するなんて。だから無能がつけ上がるんだ」
気が付いたらど真ん中の机を両手で叩き、身を乗り出していた。あの人たちはこんな奴らに嗤われて良いような生き方はしていない。
「いい加減にしなさいよ! あんたらそれでも人間なの⁉︎」
「なんだ、まだいたのか」
「煩いねえ。誰かコイツを摘み出してくれ」
「ふざけんな、クソジジイども! あんたら一度でも前線行ったことあるわけ⁉︎ チーフがどんな気持ちで葵ちゃんを——」
「ハイハイ、静粛にね」再びあの紳士が大袈裟に両手を翳し、場が静まり返る。「8号は少し頭を冷やしたほうが良さそうだね。しばらくお家にいて良いから、ゆっくりしておいで。疲れているんだろう」
要するに謹慎していろということだ。どんなに葵やチーフを貶されても、何もできない自分が悔しくて、涙が止まらなかった。
あっという間に議場を追い出され、乱暴に扉は閉ざされたが、蹴り飛ばしてやりたいくらいに腹が立っていた。こっちにはヒーロースーツがあるのだ。こんなちゃちな扉など簡単に壊せる。が、廊下の向こうから名前を呼ばれたおかげで少しだけ熱が冷めた。
「姐さん!」
駆け寄ってきたのは1号と2号だった。マリーの様子から唯ならぬ空気を察知した二人は、怒りに任せた支離滅裂で早口な説明もすべて聞いてくれた。
「そんな……じゃあ、チーフは、……——」1号は途中から泣いていた。「あんまりです、そんなの、可哀想すぎます……!」
「落ち着け」
「だって……」
その肩を抱いて宥めている2号も、表情は悲痛だ。「姐さん、チーフは?」
「……」
あの現場で、葵は、肉片の一つも残さずに黒い砂屑となって消えてしまった。葵がその瞬間まで着ていた服と、あの簪だけが抜け殻のようにそこにあって、シャイニーはそれを抱きながらただその場に伏して哭泣するばかりで、会話どころか立ち上がることさえできなかった。近寄ってくる相手が誰なのかも認識できないようで、怪我の治療をしてくれようとする医療班員でさえ拒絶して、力を使って暴れてしまうため誰も手を貸すことができず、マリーが間に入ってもなかなか宥めるのに苦労したほどだ。
そんなことをしているうちに過呼吸を起こして、落ちてしまった隙に何とか病院まで搬送した。しばらくは目覚めないだろう。だが、起きたところで待っているのは残酷な現実だけだ。
シャイニーは罪に問われない、と上層部は言っていたが、チーフにとっては罪に問うてもらったほうが多少なりとも救いがあったかもしれない。
「……ごめん、二人とも。あたしももう、謹慎って言われちゃったから、しばらく出てこられないのよ」
「大丈夫っス、何とかするんで」何とか、の内容がまったくないことはマリーでもわかるが、何も言えない。「姐さんは、大丈夫なんスか?」
「あたしは……——」
よく、わからない。正直言って、未だにふわふわとして心臓は高鳴り、どこかがおかしい自覚はあるが、すべてにおいて感触がないのだ。
ただ、これだけはたしかだと言える。「どうってことないわ。チーフに比べたら。何かあったら連絡して? 電話はいつでもできるから」
「……」
「1号、ごめんね。ありがとう」
「……すみません。私、何にもできなくて……」
「良いのよ。あたしだって、何にも……」言葉が詰まる。本当に、自分は無力だ。「……ごめんね。負担掛けちゃって。よろしくお願いね」
「……うす」言葉遣いと顔つきがまったく合致していない。おそらくこれが彼の本性なのだろうが、確と頷いたその顔も、1号の肩に置かれたその腕も、普段の2号からは考えられないほど真剣で、頼り甲斐のあるものだった。
エレベーターに乗り、更衣室へ向かう。一人になっても頭の中が騒がしい。じっとしていようとすると体の奥底から何か得体の知れないものが湧き上がってくるようで耐えられず、落ち着いて考えることすらできない。自分の体であるはずなのに、自分のものではないみたいな感覚だ。油断しているとどんな好き勝手をし出すかわからなくて恐ろしい。
何だかわからない恐怖心から解放されたい一心で、着替えを終え、会社を飛び出し、走った。すぐに息は上がり、苦しくて、疲労のせいで足も上がらず何度も躓きそうになったが、とにかく走って走って、走った。胃の辺りに込み上げてくる何かが苦しいのに、どんなに懸命に呼吸をしても一向に出ていってくれない。何なんだろう? 自分は、一体どうしてしまったのだろう?
実感が何も湧いてこないのは整理がついていないからなのだろうか? あれは本当に現実だったのだろうか? シャイニーは——チーフは、本当に、葵を討った? あの会議の場で、自分が報告したことは真実だったのだろうか?
葵はもう、この世界のどこにも存在しない?
気付けば、見慣れた玄関ドアの前に立っていた。
——どうしよう?
なんか、わかんなくなっちゃった……——。
あまりにも現実味がなさすぎる。全部夢で見た話だと言われても信じてしまうだろう。怒ったせいで、頭のヒューズが飛んでしまったのだろうか。
——あたし、今、どんな顔してる……?
健一もひなたも、察しが良い。きっとこんな状態で帰れば何かあったとすぐに見破られてしまう。
ドアノブに手が伸びない。心臓が煩いのはきっと夢中で走ってきたせいだ。
深呼吸を一つ、二つ。頭から垂れてくる汗を拭い、息を正す。
大丈夫、とにかく、笑顔だ。それしかない。真理子はどんな時もニコニコ、明るくみんなに追い風を吹かせるヒーロー——いつだって、そう言い続けてきたのだから。
両手で頬に気合を叩き入れ、その勢いのままに、ドアを開けた。
「たッだいまー!」
おかえり、と元気なひなたの声が聞こえ、足音が近づいてくる。「おかえり、ママ!」
「おかえり」珍しく、健一も奥から顔を出してきた。真理子が昔プレゼントした可愛らしいエプロンを着けている。「遅かったじゃない。何かあったの?」
「ああ……えっと、まァ……」
あ、駄目だ。
その顔をみたら、突貫で貼り付けた笑顔なんてすぐに凍りついてしまい、言葉すらも出なかった。
健一は不思議そうに首を傾げているひなたを抱き上げると、それ以上何を訊くでもなく、ただ微笑んだ。「……真理子、ご飯、できてるよ」
「……うん。ありがとう、お腹空いてたんだァ」
本当はまったく空いていない。部屋の中に夕飯の良い香りが漂っていることも、それが真理子の好きな肉じゃがの匂いであることも、たった今気付いた。
座っていて良いからと、健一が夕飯の用意をしてくれている間、何かを察知したひなたは温かいお茶を持ってきてくれたり、大事にしているウサギのぬいぐるみを貸してあげると言ってくれた。自分の食事は終わっているはずなのに席に座って、普段はあまり喋らない学校でのたわいもない出来事を辿々しく話してくれたりもした。
「そっかァ、良かったねェ……」せっかく話してくれているのに、どうしてもそんな反応しか出てこなかった。ひなたの話は全部覚えていたいのに、何一つ留められていない気がする。それがまた、苦しさを増す。
やがて健一が肉じゃがや白飯の盛られた器を目の前に並べてくれた。何も言っていないのに、いつもの半分くらいの量しかない。白い湯気が立ち上り、ちょうど良い加減に照りが光るそれは見るからに美味しそうで、いつもだったら絶対にご飯を掻き込んでいる。それが、今は——。
「無理に食べなくても良いよ? 冷蔵庫に入れておけば、明日だって平気だよ」
「……ううん」少し考え、真理子は首を横に振った。「ごめんね。ひな。健ちゃん。……実は……、——」
真理子は、正直に今日起きたことを話した。順を追って話すのは苦手だ。それなのに今日は、一つずつ、一つずつ、なぜか説明できた。先ほど1号や2号に話したのよりはずっとマシだったと思う。そして話す度に、自分の中にストンと収まっていった。これは夢なんかではなく本当に、現実に起こってしまったことで、決して今日よりも前にはもう戻れないのだということを。
鷹野葵はもういない。
この世界の、どこにも。
「……あたし、どうしたら良い? どうすれば良かったのかな?」
もし。
あの日チーフが河に落ちたりしなければ、風邪をひくことはなかったかもしれない。そうしたらあの日の討伐はチーフが出ていて、葵は遭難しなくて済んだかもしれない。そうだったなら、きっと、葵は今も3号だった。
チーフが河に落ちたのは真理子に一因がある。あの日、もしもチーフの言うことを聞いて、大人しく本部で待っていたならば、違う未来があったかもしれない。
考えれば考えるほど、わからなくなる。
「ママ、あおいちゃん、もうあえないの?」
「……そうね」
「そっかぁ……」
ひなたが死というものをどこまで理解しているのかはわからない。ただ漠然と、もう二度と会うことのできない場所に行ったのだということはわかるのだろう。なぜ、どうして、と訊ねることもなく、ひなたはただそう呟いて下を向いた。
「お疲れ様。大変だったね」
「ありがとう」
「今は、休んだほうが良いよ。ご飯も食べてさ、ね? お腹が空いていると、余計に落ち込んじゃうし、鷹野さんだって、真理子が元気ないのは望んでいないと思うんだ。ご飯食べないなんて、きっと心配してるよ」
「……そうよね」
頷いたものの、やはり手は動かない。いくら溜め息を吐き出しても、何かが胃の中を占領していて苦しい。
「ママ、チーフは?」訊ねてきたのはひなただった。が、健一も同じことが気になっていたようで、同じ顔が真理子に向けられていた。
「病院にいるよ」
「おケガしたの?」
「ちょっとしたけど、大丈夫よ。でも……心が怪我しちゃって、そっちはなかなか治らないのよ。葵ちゃんがいなくなって、すごく悲しんでると思う」
「あたしのおまじないじゃ、だめ?」
「そうねェ……お手紙でも、書いてあげたら?」
「そうする! かいてくる!」ひなたはそう言って自室に走っていってしまった。おそらくひなたが手紙を書いても読めないのではないかと思うが、とても言えない。
「本当はどうなの? 様子は」
ひなたの姿が見えなくなったのを確認してから、健一が眉を顰め、声を抑えて訊いてくる。真理子は首を横に振った。
「まだ、寝ていると思うから……わからないの、だけど、ただ、……」そこから先は、言葉で言い表すのが非常に難しく、口籠ってしまった。
それを見た健一がすぐに訊いてくる。「病院の判断次第では、あるけど……一人にしないほうが、良いんじゃないかな……桜庭さんって、ご家族は?」
「わからない……」
話を聞いたこともないが、実際のところいないのではないかと推察する。母親である幸子ママは既に亡くなっており、父親のほうは以前一度だけ見たことがあるが、もう会わせないほうが良いと思う。そもそも連絡先も不明であるから会いようもない。葵が自身を緊急連絡先にさせていたくらいだから、おそらく親戚筋も皆無だろう。
「大丈夫なの……?」
何も言えなかった。どう考えたって、大丈夫ではない。
しばらくは病院生活だろう。チーフに限ってまさか自ら死ぬようなことはしないと信じたいが、人間は気力が失くなると生きていられない。あの現場での様子を見てしまった以上、自信を持ってその可能性を否定することは真理子にはできない。
しかし、自分が会ったところで何を言えば良いのか。
シャイニーがあの場で葵を討伐しようと決断するに至った理由の一つに、マリーが一緒にいたから、というのは間違いなくあった。そんな自分が、チーフに何を言う資格がある?
健一の言うとおり、一人にしてはいけないとは真理子でも思う。だが、チーフにとって葵が本当に特別な人だったというのはずっとわかっていたし、そんな人の穴は真理子にはとても埋められない。もしあの場にマリーがいなければ、違った結末があったのかもしれないとすら考えてしまう。
「独りにしたら、駄目だよ。真理子」健一はもう一度、声を絞り出した。その声にハッと顔をあげると、健一は目を真っ赤にして片手で口元を押さえ、必死に溢れそうなものを堪えていた。
「健ちゃん……」
「いや、ごめん……でも……——」首を振りながら、呼吸を一つする。「絶対に駄目だ。俺、真理子に同じこと頼まれたら、無理、やれる自信ない。俺にはできない。気が狂っちゃうよ、そんなこと……あの人、それをやったんだろう?」
「……」
「俺が行ってやりたいくらいだけど、俺じゃ駄目だよ。俺、ヒーローでも何でもないもん。真理子たちの仕事のことも、彼のことだって、何にもわからない」
「あたしだって、そんなに……」
「でも真理子の仲間で、友達なんだろう?」
健一が向ける視線が痛くて、自然と下を向いてしまう。
友達——。
そんな大層なものを名乗って良いのかもわからない。今さらになって、自分はチーフのことなど何も知らないと気付いた。「……あたしはそう思ってるけど、チーフは、どうだか……」
「それなら尚更、気付かせなかったら。……そういうのってさ、本人は、わかんなくなっちゃうんだよ。俺なんかと比べちゃいけない気がするけど……俺、今は真理子もひなたもいるし、職場でも俺は良い上司と、部下にも恵まれたってわかっているから、キツい時もやっていけてるけど、一人で闘うのってしんどいじゃない? 真理子なら、わかるでしょ?」
健一の言葉の意味は、理解はできる。ただ、だからといって自分がどう行動したら良いのかは見えない。何を言ったところで気休めにしかならず、かえって傷を抉るようなことにもなりかねない。チーフと話すようになって、少し同じ仕事をするようになっただけ。それもまだ一年にも満たない。
表面に薄らと見えているものしかわからない。真理子はまだ、英斗を知らない。
——「真理子ちゃんといる時の英斗はねェ、あれ結構素だよ」
葵ちゃん、ごめん、全然わからないよ——。
開いてしまった穴の大きさを実感し、ただただ、呆然と立ち尽くすことしかできない自分が不甲斐なくて、冷えた白米も、肉じゃがも、とても塩辛かった。
* * *
「お前が『統括代理』な?」
チーフと真理子の状態について、改めて1号からの報告を受けた2号は迷うことなくそう提案した。つい今し方本部長連中から呼び出され、話を聞いてきたのであろう彼女は、今にも泣き出してしまうのではなかろうかと思うほどの不安げな表情を必死に殺そうと下を向いて歯を食いしばっていたが、そう言った瞬間パッと顔を上げ、丸くなった目を2号に向けた。
「えっ?」
「できんの、お前くらいしかいないだろ」
珍しく自分がクソ真面目に話していると感じた。だが、それくらいに危機的な状況なのである。
1号が困惑しているのは察したが、誰かが『リーダー』という位置に存在しなくては破綻してしまうのは目に見えている。こんなことでヒーローが機能しなくなったら世界は終わるし、それはチーフも真理子も、誰もが望まない最悪のシナリオだ。それを避けるため、今すぐにできることとしたらこれくらいしか2号には思いつかない。
「ジブンでできるでしょうか……」
「俺様が言ってんだぞ? サポートはするから、頼むよ」
「……わかりました」1号の顔がいつになく強張っていたが、この役割は彼女以外では務まらない。
お偉いさんは現場のヒーローのことなんて何一つわかっていない。戦闘の要だった3号が離脱して死亡、その上マリーとシャイニーが離脱しているというのは、つまり、実質前線に出ることができるのは1号と2号のみということだ。
モンスターはこちらの状況なんて配慮してくれない。複数体で現れたり、日夜休みなく出てこられたら、こちらの体力はすぐに底を尽きる。そうなれば本部管轄は壊滅してしまう。
なるべく体力を温存するよう、2号は時間があれば寝るようにした。女の子と戯れている余裕なんてもうない。チーフか、真理子か、少なくともどちらかが戻ってくるまではこの体制で堪えなくてはならないのだ。まずは空気の読めないモンスターどもを蹴散らして、一刻も早く4号と5号、そして少し前に黒衣部門から異動してきたばかりの7号——センリを一人前にすることである。
こういう時こそ他支部からの応援が欲しいところだが、呼ぼうにも、体裁ばかり気にする上層部をうんと言わせるには相当な労力がいる。考えている間にもモンスターはやって来て、まともに談判することすらできないまま一日、また一日と、時間だけが過ぎていく。
——しんどいな……。
チーフなら元々その権限があるから簡単に話は通せたはずだ。しかし1号や2号のような下っ端が喚いたところで、肩書きと見栄だけが立派なお偉方は聞き入れないだろう。流されるのがオチだ。
せめて真理子だけでも戻してくれたらどんなにありがたいか——控え室で頭を抱えていた昼下がり、またポケベルが鳴った。
「行きましょう、2号」
上から指示された追加の報告書をまとめていた1号は、即座に反応して席を立つ。
「おい、ちょい待て、——」颯爽と立ち上がったかのように見える1号であったが、2号は咄嗟にそれを止めた。「お前今日メシ食ったか?」
「え? いや……」
「お前は残れ」
1号は自覚していないのかもしれないが、気丈に振る舞ってはいるもののここ数日でかなり窶れた。おそらく会社に泊まっていて、時間がなくて食事も満足に摂っていないのだろう。今だって、打合せから戻ったばかりで昼食もお預けを食らっている状態だということを2号は知っている。
「良いから、メシ食って来い。それで行ったら落ちるぞ?」
「でも……——」
「俺の仕事を増やす気かよ。お前はメシと、終わったら昼寝。わかったな?」1号は口を開こうとしたが、そうはさせない。「おい、モノクロ! 喜べ、俺様と討伐へ行く権利をやる」
「えー、いらねぇよー!」
「拒否権はねえ! じゃんけんしろ、勝ったほうの特典だ。早くしろ」
まったく嬉しくない特典だと文句を言いつつ、二人は言われたとおりにじゃんけんをして、結果、4号のほうが同行することとなった。
「良いか? 食えよ? お前が行くのは食堂、今すぐだ、わかったな?」
2号は何度も念を押し、4号を引き摺って控え室を出ていった。
ドアが閉まる音が部屋に響き、それまでの騒がしさが嘘のように室内は静まり返った。時計の針の音がやたら大きく聞こえる。
正直なところ、気まずい。さすがに職務上必要な会話はするが、あの一件以降、1号はモノクロと碌に口を利いていない。2号のように軽く声を掛け、取るに足らない話をするような器は、自身にはなかった。
そんな自分が、統括代理だなんて——。
目の前のやりかけの報告書に意識を戻そうと試みるが、切れた集中力はなかなか戻らない。やがて残された5号は小さく、しかしはたから見てわかるように溜め息を漏らし、自身のスマホとイヤホンを持って席を立った。部屋を出る際、ドアを開けたところでぶつかりそうになったのは、偵察から戻ってきた7号だ。
この二人の関係性は、1号以上に重症だ。
何の挨拶もなく、視線を交わすこともなく、5号は部屋を出て、7号は部屋に入ってきた。
「お疲れ様です。戻りました」
「おかえりなさい」
7号は入ってきたばかりのドアのほうを振り返って睨んでいる。「……何なんですかね、あれ」
「たぶん、ダンスの練習に行ったんだと思いますよ。2号が4号を連れて出てくれたので」
頓珍漢な返事であることは百も承知だが、そうとしか返せなかった。いつも、まるでロボットのように感情の見えない彼女が不機嫌であるのはひしひしと感じて、痛いほどだ。
彼女は3号の——黒衣としてのアオイの愛弟子だったと1号は聞いている。あの人が仕込んだだけのことはあり、ヒーローに転身して間もないというのに、7号は2号の指示にきちんとついてくるし、反応も申し分ない。黒衣の頃に偵察にも出てくれていたおかげで、今もそれに関しては即戦力になっている。チーフは「3号がよく1号のことを褒めていた」と言っていたが、武器の使い方さえ慣れてしまえば正直7号のほうがずっと優秀だろう。
この状況においても、いつだって、誰よりも冷静に、淡々と職務をこなす——だが、7号にとっては師でもある3号があんなことになって、本当に平常心のままいられるものだろうか?
不機嫌などという簡単な言葉で片付けてしまって良いのか疑問だ。他人に対しても自身に対しても、モンスターに対しても、彼女の中で黒い気持ちが燻っていたとしても何ら不思議ではないと思うのだ。
話すようになってまだほんの僅かしか経っていない7号のことは、人間性も何もかも、まだよく知らない。普段から何を考えているのか読めず、笑っている瞬間なんて見たことがない。ただ、どんなに仏頂面でも構わないから、どうか危ないことだけはしないでほしいと1号は常に願っている。
「センリさん、ご飯まだですよね?」
「え?」
「ジブン、これから食堂へ行くんです。きちんと食べてこいって、2号に怒られてしまいまして」
「はあ」
「良かったら、一緒にどうですか? 偵察の報告も聞かせてほしいので」
「……じゃあ」
仕方なく、といった感じではあるが、頷いてくれた7号を連れて控え室を出る。何となく彼女のことも、自分のことも、今は一人にしておいてはいけないような気がした。
昼食のラッシュ時間帯を外れた食堂は閑散としていて、7号の報告は落ち着いて聞くことができた。相変わらず無駄のない簡潔な報告に、自分も見習いたいものだと感心してしまう。今日のは特別に難しいモンスターではなさそうだから、そう経たないうちに2号と4号は戻ってくるだろう。
ひと通りの報告が終わり、静かになった食堂内には食器の立てる音だけが響く。高級食器でもないのに、やに緊張してしまい、味がしない。
「……あんまり、溜め込まないでくださいね」
すっかり冷めてしまったであろう自身の日替わり定食を無表情で食べ始めた7号を見て、思わず口をついて出てしまった。
口元に近づけた箸が止まり、温度のない視線だけが1号のほうを向く。「……それを言うために昼食に誘ったんですか?」
「あ……えと……」口籠もってしまった。その様子に、余計な一言であったかもしれないと今になって悔いる。「そういうつもりでは、なかったんですけど……ごめんなさい」
こちらに向く視線と罪悪感に耐えられず、徐々に顔が下がってしまう。チーフだったらこういう時、もっと上手くやるのだろうなと思うと、悲しさと不安とで頭がいっぱいになってくる。やはりこんな自分がチーフの代理など務まるはずがない。
しかし、僅かな間の後で、7号は再びその箸に載った米粒を口内へと運んだ。咀嚼され、喉元を落ちて、さらにしばらくの沈黙があって、それから静かだった彼女から息を吐く音が聞こえた。
「本当……ヒーローって、お人好しですよね」
「……」
「事態が落ち着いたら、ヒーローは辞めます」
「えっ?」
意外な反応に、1号はパッと顔を上げた。やはりそこにあったのは表情のない7号の顔であったが、よくよく見ていると何かが漏れている。それが何という感情なのかは判別が難しいが、無ではないということだけは感じた。ただ、そこにはまだ膜のようなものが掛かっており、いくら感覚を研ぎ澄ましてもそれ以上のことは見えない。
「どう、して、ですか……?」
やっとのことで1号はそう訊き返したが、彼女は平然と食事を続けている。「あの……何か、ありましたか? やっぱり、その……——」
「やっぱり、ジブンでは駄目なのだと、わかりました。ジブンは、本物のヒーローにはなれません」
「本物って……」ますます理解不能となってしまった。「そ、そんなことないですよ?」
「あるんです」
「だって、あんなによく動けて、反応も早いし、戦い方だってもう——……」
7号は静かに首を横に振る。どうやらそういうことではないらしい。「わかりませんよ。あなたには」
「……すみません」
「いえ、こちらこそすみません。失礼なことを」彼女の言葉に謝罪の意は微塵も感じられない。「でも、駄目なんですよ。ジブン、皆さんのように華もありませんし、元々表側への異動を志願したのも綺麗な動機ではないので」
「そんなこと……——」
「こんなヒーローがいたら良くありません。1号も、お気遣いはありがたいのですが、あまりジブンに関わらないほうが良いです」
「どうしてそんなこと言うんです? ジブンは、7号が来てくれて、本当にありがたいと思っているんですよ?」
「そうですか」
「ほ、本当ですよ? 社交辞令とか、そんなんじゃ、全然——」
「殺してやりたいと思っているんですよ」
「……え?」
何を、と訊ねることはしなかった。彼女の『討伐対象』がモンスターでないことは、瞬間的に察してしまった。
そう発するのに躊躇した風はない。その声が怒りや悲しみの類いを帯びているのでもない。それは先ほど、食堂のカウンターで日替わり定食を注文した時とまるで変わらないもの。
「消えないんです。何をしていても、それが」7号は目の前で薄らと微笑みながら、ぽつん、ぽつんと、低い声を漏らす。「今さら、どうにもならないとわかっています。それでも、なぜ、どうして……って、取り留めもなく考えてしまう。鷹野統括なら、絶対、こんなことは思わなかったのでしょうけど、ジブンは、そこまでできた人間ではないので」
「……」
「まあ、実行することはないので、安心してください」
彼女の箸はまったく変わらぬ速度で皿と口元を往復し、横たわっていたサバの塩焼きはあっという間に綺麗な骨だけになった。
——どうしよう?
何を言ったら良いのかわからない。
「ね」紙ナプキンで口元を拭いながら、彼女は1号のほうを見て微かに頭を傾けた。トレーの上に置かれた皿の数々はいつしかどれも空っぽになっている。「こんなことを考えている人間とヒーローをやっているなんて、怖いでしょう? 嫌ですよね。良いんです、わかっていますから。ジブンは、ヒーローの器ではない」
「センリさん、——」
「仕事はきちんとします。でも仲良くするのはあなたのために良くありません。事態が落ち着いたら、ヒーローは辞めます」
「黒衣に戻るんですか?」
「……どうでしょうね?」
その時次第、と抑揚のない声で言った彼女は、小さく会釈をすると席を立ち、食べ終えたトレーを持って下げ台のほうへ歩いていってしまった。
「……」
意外だ。彼女のことではない。自分自身の心境だ。
彼女の告白は、正直なことを言えば驚いた。だが、同時に何となく予想もついていたし、理解できてしまう自分もいる。相手が誰で、どんな理由があろうと、他人に殺意を抱くだなんてヒーローである以前に人として良くないと認識している反面、そんなことを思ってはいけないなどという安直な批判をする気にもなれない。
その感情はきっと彼女が生涯持ち続けるものだ。たとえヒーローから黒衣に戻ったとしても、彼女にとっての『討伐対象』が死んだとしても、決して消えることはないだろう。
彼女はそれを理解している。誰にも慰めることはできないし、なかったことにもできない。ただただ、ひっそりと自身の中で折り合いをつけ、共に生きていかなくてはならない。これから先も、ずっと。
1号にできることは何もない。それでも、何だろう? なぜなのだろう?
なぜ、今自分はこんなにも晴れやかな心地でいるのだろう?
「センリさん!」
気が付くと後を追っていた。廊下を歩いていた彼女は呼び掛けに応え、ゆっくりと振り返った。そこにはやはり何の表情もない。
まるで、機械のよう。
「安心しました。あなたがちゃんと人間らしくて」
7号は訝しげに、僅かに首を傾げたような気がする。
「私、あなたのその気持ちは、良くないと思うんです。でも、間違っているとは思えないから……——」
「……」
「だから、また一緒にご飯食べましょう」
おそらく、自身の中にもあるのだ。彼女が抱いているものと、同じ色をした何かが。
自分は、清廉潔白な聖人ではない。
汚くて、醜くて、小さな、ただの人間だ。
「……変な人ですね」
ぽつんと呟いた彼女は、そのまま廊下を歩いていってしまった。だが、ほんの一瞬だけ見えた彼女の横顔は少しだけ穏やかだった気がする。
何となく胃の辺りが温かい。久しぶりにのんびりと腹にものを溜められたし、気になっていた7号とも話ができて良かった。2号が戻ってきたら改めてお礼を言わなくては。
良い気分転換をさせてもらったのだ。部屋に戻ってさっさと書類を片付けよう。できれば二人が戻ってくる前に——と、急いた心をエレベーターのほうへ向けたところ、ふと、見たことのない風貌の二人組が右往左往しているのを発見してしまった。
「あッ! ちょおちょお、そこの赤いにーちゃん!」
できれば関わりたくない、と思っている時に限って、声を掛けられてしまうものだ。
見たところ中年くらいの男性と、比較的若そうな女性——女性のほうは、どことなく真理子に雰囲気が似ているような気もする。稀な話だが、役人やマスコミなどの社外の人間が何らかの用事でやって来て迷ってしまうことはあるが、この二人は——
「や、ねーちゃんやったか! 堪忍堪忍!」大股で歩み寄って来た男性は廊下中に響き渡るくらいの大きな声で豪快に笑っている。「俺も目ぇ悪なったなァ! 老眼きてるんかいな⁉︎」
「もォ! やめてや、にいさん!」女性が中年男性の背を思い切り引っ叩くと、とても良い音がした。「静かにしとぉくれやす! 恥ずかしゅうてかなわんわ!」
「そないに怒んなや。べっぴんが台無しやぞ」
——何なんだ、この人たちは……?
この言葉遣いから西の人であることはすぐにわかったが、ヒーローかもしれない、と一瞬思った自分の勘は、もしかしたらとんでもなく外れているかもしれないと思った。
なぜ西部の人間がこんなところに? 怒ったり呆れたりと非常に感情が忙しなく、目が回りそうなテンポについて行くことができない。2号の指摘のとおり、自分はやはり疲れているのかもしれないと思う。
女性のほうはひどく申し訳なさそうに眉尻と頭を下げて謝罪してくる。随分と大きな『子ども』を連れた『お母さん』であるが、ぺこぺこと何度も謝られると逆にこちらが恐縮してしまう。
「あの……失礼ですが、どちら様でしょうか?」
雰囲気としては訊きづらいことこの上ないが、訊かないわけにもいくまい。今のところ、他支部からの応援が決定したという正式な通知はないし、誰がどんな理由で呼んだか知らないが、こんなところで漫才などしていないでさっさと目的の部署へ送り届けたほうが良い。
「あ、すんまへん、ご挨拶が遅なってしもて……」彼女はそう言って1号のほうに向き直った。「うち、西部所属2号、柳どす」
「俺ぁ一平や。1号やぞ」
「にいさんは『元』やろ」
「せやったわ、ガハハハ!」
「よろしゅうお頼申します。……もォほんまに静かにしといておくれやす!」
柳、と名乗った女性はまた良い音で一平の背中や肩を叩きまくっている。勘が狂っていなかったのは幸いだが、西のお笑いコンビだと言われたほうがよっぽどしっくり来たかもしれないと、1号は心の中で思った。
* * *
「——……そう、ですか……」
面会謝絶の札が下がり、固く閉ざされた病室のドアの前で、漸く看護師の話を聞くことができた真理子はそうとしか返せなかった。
葵との戦闘によってチーフが負った外傷は、打撲の他、右腕と肋骨にヒビが入っている程度で済んだ。安静にしていれば骨はすぐに治ると医者は言う。しかし——。
「ちょっと今はねェ……」
看護師は苦い顔で懸命に笑顔を作り、言葉を濁した。面会謝絶としているのは本人の意思ではなく、病院側の『配慮』だという。
何もできない、という看護師の言葉はおそらく誇張でも何でもなく、真実だと思った。
致し方ないと、納得がいった。だから、申し訳なさそうに眉を顰める看護師を前に、真理子は食い下がるどころかそれ以上何か訊ねることすらできなかった。
当然、今の状態では退院することは難しく、もしかしたら近々病棟を移る可能性があるとのことだった。行き先は具体的には言わなかったが、精神的なほうかもしれないと思った。目が覚めて以降、話ができないどころか食事もまったく摂らず、一日中ベッドの上に転がってぼんやりしているだけで基本的に何も反応しない。点滴で栄養を入れようとした時だけ抵抗して自ら外してしまうらしく、鎮静剤を使わざるを得ないため寝ている時間が多いという。
実際にこの目で見たわけではないが、きっと本物のマネキンになっているのだろう。真理子が行ったところで、こればかりはどうにもならない。唯一どうにかできる人は、もうこの世界のどこにもいないのだ。
真理子は考えた挙句、電話番号を書いた紙を看護師に預けることにした。会社用ではなく、個人のものだ。「いつでも良いし、いつまでも待っているから、連絡がほしいって伝えてください」
看護師はメモを受け取ってはくれたが、渡せるかどうかはわからないと眉尻を下げ、廊下を歩いていった。
——どうすれば良かったのだろう?
あの瞬間、他にでき得ることはなかったのかと、今も尚、考える。しかし何度考えても、真理子の中でその答えが見つかることはない。
閉ざされた白い扉を前に、ほんの少しだけ中を覗いてみようかとも思ったが、できなかった。一人にしないほうが良いと健一は言ったが、下手に近づくこともまた、凶器になり得ると思うとその勇気が出ない。
今は待とう。あの札が外れるまで、きっと途方もない時間が必要だ。
誰もいない自宅にただいまを言う。健一は仕事、ひなたはまだ学校へ行っている。二人の前では勝手に顔が笑うけれど、正直それもしんどい。かと言って、何もせずに一人でぼうっとしていたら、自分まで落ちていきそうな気がする。
早いが、夕飯の支度でもして、気を紛らわそうか——そんなことを考えていたら、テーブルの上に出したスマホが鳴った。
2号だった。途端に心臓が大きく脈打つ。
「どうしたの2号⁉︎ 何かあった⁉︎」
スマホに飛びつき、即座に応答する。要の3号がいなくなり、チーフは離脱中、真理子も謹慎のせいで機能しない——その皺寄せのほとんどを1号と2号が受けているのは明白だ。今二人に何かあれば、もはや本部は壊滅状態と言って良い。時折心配になって電話やメッセージのやり取りはしているが、この状況で真理子がしてやれることは、無に等しい。
そういえば先ほどモンスターの出現警報が出ているエリアがあった。もしや出動して怪我人でも出たのだろうか? まさか未だ発見に至らないあの完全新種だったとか? ——考えられる可能性が次々に頭の中に浮上して、パンクしそうになる。
しかし予想に反して、ビデオモードの画面に映し出された2号の顔色はまったく悪いようには見えず、隣にいる1号も元気そうである。
「——あー……すんません、姐さん。大した用じゃないんス」2号は頭を掻きながら、相変わらずの気怠そうな調子で話す。もしかしたら真理子があまりに急いた様子で出たから、恐縮したのかもしれない。
「——、すみません、真理子さん、驚かせてしまって。お電話大丈夫でしたか?」
「ええ、平気よ、どうしたの?」
「——、実は今、西部からお客様がお見えになっていまして」
お客様?
「え、誰に、あたしに?」
1号は頷く。咄嗟に、来客の約束などしていただろうかと焦った。が、戸惑う間もなく、画面の端から見覚えのある顔がひょっこり覗いた。
「——、マリーねえさん、柳どす!」
「……え、えッ? や、柳ちゃん⁉︎」思わず声が裏返ってしまった。「え、嘘、なんで⁉︎」
「——、ねえさんらぁのこと聞いて、心配で来てもうたんどす。何か、お手伝いさしてもらえへんやろか思て」
「そんなッ……だ、だって、西は? 西部はどうしたの?」
「——、お陰さんで、みんな元気どす」
そんなことを訊いているのではないが、画面の向こうの柳は朗らかに微笑むばかりで的を得ない。相変わらず彼女から醸し出されるのほほんとした空気は、今の本部の状況とは相反するものがある。
柳は西部の現役ヒーローのはずだ。それもあのチームの中ではベテラン勢と言って良い。その彼女が西のことを放り出して東にいるだなんて、あり得ない話だ。
「——、牡丹も漆黒も復帰しおした。ねえさんらぁのおかげで菖蒲も立派なリーダーしとりますさかい、気にせんといておくれやす」
「で、でも……——」
「——、菖蒲が言い出したんどす。みんな、きっとねえさんらぁ困ってはるさかい、何とかできひんやろかて……これはうっとこの総意どす。せやからうち、しばらく東におります。西部の元・支部長はんも一緒やさかい、好きに使っておくれやす」
「え、元って……もしかして、昔チーフのこと口説いてたっていう、あの——!」西部の元支部長と言えば数ヶ月前、西部でのゴタゴタの際にチーフや葵が口を揃えて女ったらしの支部長がいたと話していたことを思い出してしまった。
つい口走ってしまった瞬間、1号と2号が吹き出した。
「——、おう、美人やったしなあ!」豪快に笑いながら、柳の横からやや色黒の男性がひょっこりと顔を出す。「——、……あんにゃろ、次会うたらしばき倒したるわ!」
「——、怒らんといてや、にいさん!」
憤慨する一平の隣で、柳は腹を抱えて笑っている。2号でさえも、込み上げる笑いを咳払いで誤魔化しているくらいだ。
「——、一平や。よろしゅうな」ニンマリと笑うと白い歯が覗く。2号の隣に並ぶととても小柄で、かなり年上のように思える。
「すみません、失礼なことを……来てくださって、本当にありがとうございます。よろしくお願いします」自然と画面越しに頭が下がる。女たらしかどうかはこの際どうでも良い。今の本部にとってこの救いの手はかなりありがたい。
「——、ほんまにもォ……」柳は目尻に光る涙を指先で拭っている。「——、ねえさん。うち、桜庭ねえさんにもお会いしとおす。どないしてはりますの?」
「……」
状況を何となく知っている柳は、遠慮がちに訊ねてきたが、先ほどの病院でのやり取りを思い出すと、真理子は押し黙るしかなかった。
おそらく誰よりも病院には通っている。しかし、行けるのはあの部屋の前までだ。今日やっと看護師に様子を聞くことができただけで、あの日から本人の顔も見ていない。
「……さっき行ってきたんだけど、面会謝絶で会えないの。話もできないみたいだし……ちょっとやそっとで、元に戻るとは思えないわ」
「——、……そう、どすか……」
「あたしも……どうしたら良いのか、わからなくて……」
「——、何もせんでええ」
先ほどとは打って変わり、低く落ち着いた声でそう口にしたのは一平であった。「——、他人は何もできん。自分で何とかせなあかんのや。俺ぁ三十年経っても立ち直れへん。あいつぁそないな命綱みたいなモン、己でぶった斬ってもうたんやからな、おかしなって当然やわ」
「……」
「——、お前らみたいなガキにはわからへんやろけど、男はな、女がおらんと駄目なんやわ」
一平はやはり白い歯を見せて笑っていたが、その顔はどこか寂しそうに見えた。彼が大口を開けて豪快に笑う理由が何となくわかったような気がして、息が詰まった。
「……みんなのこと、どうか、よろしくお願いします」
真理子は立ち上がって画面から一歩下がり、深く頭を下げた。
* * *
柳は自身のヒーロースーツを持参しているが、一平のほうは大昔に引退しているためスーツがなく、1号は2号と相談して衣装庫の爺のところへ連れて行くことにした。爺に訳を話すとはじめのうちはやはり驚いていたが、すぐに一平の新しいヒーロースーツを見繕ってくれることになった。
「できる限り急ぐが、それまでの繋ぎがいるだろう」
爺はそう言って、衣装庫にある男性用のヒーロースーツの中から、一平のサイズに近しいものをいくつか選んできた。最初は「何でもええんや」と豪語しながらも子どものような煌めきを帯びた目をして袖を通していた一平であったが、試着をしながら段々と態度が変わってきた。
「おい……東の連中はほんまに、こんなけったいなんを着とるんか……?」
要するに、恥ずかしくなったらしい。
柳のヒーロースーツを見せてもらったが、西部のヒーロースーツは和を基調とした古典的な色彩を意識して作られているようで、それに比べると東のものは真逆の方向性と言っても過言ではない。いつも着ているし、これしか着たことがないから意識したことがなかったが、あの一平がこれほど困惑しているのを見ていると、自分たちは一体何を着せられているのだろうかと疑いたくなってしまう。
「ヒーロースーツはフィット感が大事なんや」と自身を必死に誤魔化しながら、やがて釈然としない様子で一平が選んだのは黄色ベースのレモンのようなヒーロースーツだった。下が膝丈のカボチャパンツになっており、筋骨隆々でやや色黒の脚が丸見え。一平のイメージとはかけ離れた、王子様のようなデザインである。
柳が手を叩きながら声を上げる。「ええなぁ! 可愛いわぁ!」
「こらあかんやろ……」
「何でもええ言うてはりましたやろ」
「言うたで。言うたけど、限度っちゅうモンが……」俺はもう五十二だ、と一平は鏡の前で呆然としている。デザインが似合っていないのも相まって、当然の如く不審者のそれを醸しており、自分は捕まってしまうのではなかろうかと恐々としている一平の横で、可愛いと褒める柳はどこまでが本心なのか。
しかも、爺はそのヒーロースーツをチーフが昔着ていたものだと言った。
「妙な縁もあるもんだな。もう二十年くらい前か。懐かしい」ぽつねんと呟いた爺は心なしか目が細くなっていた。ハッピー・シャイニーという女の子ヒーローとして戦うチーフしか知らない1号からすると、この男性用ヒーロースーツを纏っている姿はなかなかに想像しづらい。
「ほんッとに生意気でなァ、俺がせっかく付けてやった名前を気に入らないとか抜かすんだ」怒っている人の台詞であるはずなのに、1号はふと自分の祖父の顔を思い出してしまった。幼い頃、祖父母の家の障子を破ってしまった時に、同じような顔で叱られたことがある。
「せや、あいつ……せやったなァ、忘れとったわ」何かを思い出したのか、一平は鏡に映る自身の姿を見つめ、しみじみと独り言ちた。「俺の女も黄色やったんや……桜庭とは似ても似つかんけどなァ!」
面白い、と一平は笑いながら、柔らかな眼差しを鏡に向ける。口調とは裏腹にその目は慈愛に満ちて、少しだけ光って見えた。
「これも、運命っちゅうやつかいな……」纏っているレモンカラーのヒーロースーツへの抵抗は拭えないようだが、訓練場くらいなら致し方ないと自身に言い聞かせ、一時的にそれを借りていくことになった。
「……ありがとう」
少しの間の後、口を開いたのは爺だった。「……あの子は……英斗は、生意気にデカくはなったが、昔から人付き合いも、物を言うのも下手で、愛想もないし、誤解されやすい」
「俺の下におった時もせやったで。ええ女のくせに、何ちゅーか……」
「申し訳ない」
「ほんまやで。せやのに、唯一、どっかの誰かに電話しとる時だけは、めっちゃええ顔すんねんな。ああこいつぁほんま男なんやなて、そん時思たんや」
その電話の相手は、きっとあの人だったに違いないと、1号は思った。
「あの子を、お願いしたい。これからも、どうか」
「もちろんどす」柳はすぐに頷いた。「うちの大事なねえさんやさかい」
「教え子やからな。授業料、まだ返してもろてないねん」
「……スーツの色は、どうする?」
「そこは任せますわ。元々は赤やったが、ほんま何でもええねん」
おおきに、と言った一平は、いつもの調子に戻って早く訓練場へ行こうと騒ぎ出し、1号は案内することにした。状況が状況であるため、爺は一平のヒーロースーツを第一優先にしてくれるそうで、明日の午後また取りに来るように言った。
「よろしゅう頼んます」
そう頭を下げて去っていった一平が、翌日言われたとおりに衣装庫を訪ねると、爺はこれでもかというほど得意げな顔をしてそのヒーロースーツを授けた。時間がなく、あれこれとこだわりは詰められなかったようだが、『おまえさんのヒーロースーツ』としては最高の出来栄えだと胸を張る。
昨日の試着を経て、おそらくとんでもないものを渡されると覚悟していたのだろう。一平は差し出された自分用のヒーロースーツを見た途端、それまでヘラヘラと笑っていた顔色を一瞬で変えた。色の黒い傷だらけの指でなぞる唐紅のスーツには、装飾や腕章に黄色が使われており、それは蒲公英の花にも似ていた。
「……せやな。これは、俺のやなぁ……」
一平には何かわかるのだろう。愛おしそうにそれを抱いた一平は、何度も何度も、おおきに、と言った。
* * *
数日後、真理子は葵の実家を訪ねた。
本来ならば禁忌であることは重々承知していたが、黒衣の情報網を駆使して場所を調べてもらった。センリに相談したところ、水面下ですぐに動いてくれたのだ。彼女もまた、心の中では整理をつけることができていなかったのだろう。
一緒に行かないかと誘ったが、そこまではまだできる自信がないとセンリは俯いた。もし葵の仏前で手を合わせることができたのなら、よろしく伝えてほしいと言付かった。
葵の実家は未だかつてモンスターの出現報告がない世界の中でも貴重なエリアに位置しており、誰が見ても一般庶民ではないとわかるような邸宅だった。恐縮しながら呼び鈴を鳴らすと、はじめに出てきたのは家政婦の女性だった。身分を明かして訳を話すとしばらく待つように言われ、やがて家の奥から年老いた婦人が現れた。どことなく雰囲気が葵に似ており、彼女が葵の母親であろうと一目でわかった。
「娘が大変、お世話になりまして……」深々と頭を下げた婦人はさほど小柄ではないはずなのに、痩せて顔色が悪かった。
あの完全新種モンスターに関わるほとんどについて、会社内では緘口令が敷かれている。当然、葵の死に関しても真実が伝えられていないどころか、後から無理矢理退職届を受理していたことにしてしまったため、会社としては死亡の確認をしたくらいで詳細な経緯は何も知らないという姿勢を貫いている。
あまりに、あまりだ。突然に娘を亡くし、しかも遺体すらないのに死んだことを受け入れろだなんて、親としては納得できないだろう。
しかし真理子は何も言えない。緘口令がどうこうという以前に、現状において、言えるようなたしかな情報を何も持っていないのだ。
「こちらのほうが、いつも……いつも葵ちゃんには、お世話になりっぱなしで……」
そう言いながら、ぐっと込み上げてくるのを堪えた。申し訳なくなった。ここへ来るならばもう少し、せめてこの母親の心がほんの僅かでも救われるような何かを持って来るべきだったと、今さらになって後悔していた。
葵の母親は、急に訪ねてきたにもかかわらず家の中に招き入れ、お茶を出してくれた。父親は既に認知症が進行して介護施設に入所しており、今は息子——葵の弟と二人でこの広い屋敷に住んでいるのだそうだ。
「貴女は、桜色の子よね?」
申し訳なさから何も喋ることができず、ただ重苦しい沈黙が横たわるだけの中、味のないお茶をいただいていると目の前に座っていた葵の母親が突然にそんなことを訊いてきた。
「えっ……?」
「娘のことを捜してくださったと伺っています。ほら、今は、行方知れずのままの方が多いのでしょう? そんな中で見つけていただいて」
「あ、いえ! あたしは——」それは違うのです、と言いたかった。捜していたのは事実だが、それ以外は何もかもが違う。少なくとも、この母親が想像しているものとは。
だが。
「もしよろしければ、——」柔らかな口調であるはずなのに、その声はとても強く、真理子の口から出ようとするものを瞬時に抑えつけた。「娘がどんな子だったのか、教えていただけません?」
質問の意図が分からず、一瞬首を傾げてしまった。すると、母親は苦々しい笑みを浮かべて、やや下を向いた。「きっと、貴女のほうが、娘のことをよくご存知だわ」
「い、いえ、そんなことは……——」
「そうなのよ。お恥ずかしい話ですけれど、娘とはもう、何十年も会っていなかったの。ヒーローになると言って家を出て行ったのは、あの子が高校を出たばかりの頃だったから」
葵の母親は、穏やかな口調で、ゆっくりと話をしてくれた。計算すると、もう八十に近いのではなかろうか。その緩やかな所作の一つひとつには品が伴い、ふと、葵がEightで珈琲を飲んでいる時に何気なく感じたものと、どこか似ていると思った。この邸宅が主張しているとおり、葵は本当はヒーローとは無縁の、良い家柄の『お嬢さん』であったのだ。
「ヒーローなんて、わざわざ命を危険に晒すような仕事に就きたいだなんて、突然言い出して。何不自由なく育てて来たつもりだったのに、どうしてって、私も、動揺してしまって……考え直してほしい一心で、ヒーローになるなら家を出て行くよう、主人が」
十九を目前に実家を出て、それから一度も帰って来なかった。三十年前、あの決戦で、片腕を失くした時でさえも。
「そう、だったんですか……」
「今でも理解できないんです。皆さんが、私たちの生活を守ってくださっているのはわかりますし、感謝もしています。でも、よりによってうちの娘がそれをするなんて。何がそんなに良いのか……ごめんなさいね。こんなこと」
「……いいえ」
彼女は、怒っているのだろうか?
真理子も母親であるから、気持ちは理解できる。ひなたが大きくなって、もしヒーローになりたいと言い出したら、必ず賛成し応援する——とは正直言えない。もしかしたら一度は考え直すよう諭すかもしれない。
ましてや、葵がヒーローになると言った三十数年前というのは、まだシールドがなかった時代だ。世界平和はヒーローたちの肩にのし掛かり、モンスターを討伐しに行くことだけがヒーローの存在意義だった。自分の子が、そんな危険な場所を敢えて選ぼうという時、その身を案じない親などいるのだろうか。
『お助けアイドル』ではなくなった今だからこそ思える。ヒーローは、危険すぎるのだ。ヒーローは負けない、正義は必ず勝つという誰もが思い描く理想は、ただの幻に過ぎない。
思い知らされた。痛いほど。
どんなに強くても、ヒーローはただの、ちっぽけな人間だ。
「……でも、不思議なのよね」
一つ息をついて、葵の母親は再び口を開いた。今度はほんの少し、声色が明るくなったような気がしてふと視線を前に戻すと、意外にも彼女は薄らと微笑んでいた。
「それでもいつも無意識に、探しているの。娘を。時折テレビに映るのを見つけては、嬉しくて、娘の写真が載った新聞や雑誌を見かけては買い求めて。最近、またテレビに出るようになったでしょう? 昔に比べて、ネットとか、本当に簡単に見られるようになって、もう虫眼鏡で探さなくても良くなったから、ねえ。娘と言ったって、もう良い年の、立派な大人なのに、馬鹿よねえ」
「……」
「本当、親馬鹿ね。今さら『親』なんて言って良いのかもわからないけれど……だって私、娘の好きなものも、何も知らないんだもの。でもいくつになっても、どこで何をしていても、あの子は私の大事な娘なの」母親は泣いていた。「あんな仕事をしていなければ、年老いた親より先に逝くなんて親不孝をしなくて済んだはずと思うのに、不思議よねえ、怒る気にもならないの。あの子は、スカイ・ハークとして、本当に、たくさんの皆さんに愛してもらっていたんだと思ったら、嬉しくて、嬉しくて、仕方がないのよ」
「……」
「ねえ? あの子は、最期までヒーローだったんでしょう?」
誇らしげに笑う母親の瞳は、夜空に浮かぶ三日月のような形をしていた。
「……申し訳ありませんでした」
気付いたら頭を下げていた。下を向いた途端、膝の上に涙がぼたぼたと零れ落ちたが、それでも顔を上げられない。
この人は気付いている。
桜色の子が、娘を捜し、見つけた——そんな、単純な話ではないことに気付いている。
死亡したのは退職後だ、会社は何も関係ないと言われても、自分の娘の死にはきっと何か、決して口に出してはならない奥深い理由があるのだろうと気付いている。
この人は、母親だから。
「すみません、葵ちゃんを、一緒に、連れて帰って来られなくて……本当に……——」
「良いのよ」
「何度も、何度も、助けてもらいました。年の離れた、お姉さんがいるようで……鈍臭いあたしに、得意なことを頑張れば良いんだよって言ってくれたんです」
「そう」
「本当に、いろいろなことを教えてもらいました。お世話になりっぱなしで、あたし、何にも……——」
顔を上げてちょうだい、と母親は言った。「……悔しいけれど、今は、きっとあれがあの子の天職だったんだと思っているわ。だってヒーローをやっている時の娘は、私が見たこともないくらいに生き生きしているんだもの。わかるの。あの顔は、きっと、この家にいたままではさせられなかった。ここ最近は特に、本当に楽しそうだったわ」
「……」
「あの橙色の子は、お元気?」
ハッピー・シャイニーのことだ。葵がメディアに出る時、騒がれる時、その傍らには必ずと言って良いほどシャイニーがいた。
最期の時も。
「心からお礼を、伝えてください。娘はきっと幸せだったと思います」
葵の笑った顔が、脳裏を過った。
その帰り道、真理子はチーフが入院している病院に寄った。
もうあの扉の前で引き返すつもりはなかった。ドアを開け、チーフに、伝えなくてはならないと思った。たとえ何の反応がなかったとしても。
だが、予想外なことに、チーフは既に病院にいなかった。勝手に退院してしまったというのだ。
真理子にこっそり様子を教えてくれていた看護師の話では、精神的には何も回復していないため医者は散々駄目だと言ったが、脱走するかの如く無理やりに帰ってしまったらしく、看護師も心配していた。
血の気が引いた。一体、どこへ行ってしまったのか?
妙な気を起こさないでほしいと願いながら、ひとまずチーフの自宅に走った。ここに来るのがひどく久しぶりのことのような気がする。
玄関のドアを叩いても、呼び鈴を鳴らしても、案の定うんとも寸ともない。ドア横の磨りガラスの窓には明かりは灯っておらず、いるのかいないのかも察することはできない。
——「この鍵はあの子の会社のデスクに入ってるから。二段目の引き出しの、箱の下ね」
あれを使おう。
葵が生前教えてくれた、鍵の在処。会社に入ると面倒なことになるため、1号に電話をして、会社の外まで持って来てもらった。
「ありがとう」
「真理子さん、あ、あの、チーフは……?」
何かあったと伝えたわけではないが、1号は眉を顰めている。その姿を冷静に見て、スマホの画面越しではわからなかった彼女の変化に漸く気付いた。明らかに痩せたし、覇気がない。元々化粧っ気のない1号は、目元に隈があるのも隠せていない。
「……ごめんね。1号。ありがとう」むしろ、なぜ気付かなかったのか、己の無頓着さに腹が立つほどだ。「大丈夫よ、チーフはちゃんと連れて行くから、任せて」
受け取った鍵を片手に家まで走る。途中、念のためにEightにも寄ってみたが、やはり誰もいなかった。
もしこれで自宅にもいなかったら、もはやどこへ行ったのか見当もつかない。葵の部屋だった場所は既に空き家に戻っているし、他にチーフがふらふらと行きそうな場所なんて、真理子には思い浮かばない。
——葵ならきっと、探し出せるのだろうが……。
いくら緊急事態とはいえ、人の部屋に勝手に入るのはさすがに気が引ける。鍵穴に差し込み、そっと回すと、カチャンと音を立てて扉は開いた。恐る恐る開けると、中は薄暗かった。玄関の上り口で、隅に積み上げられていたはずの本の山が盛大に雪崩を起こして行く手を阻んでいる。
とりあえず中に入り、崩れた本を少しずつ直しながら奥へと進む。以前葵と来た時も雑然としているとは思ったが、今はそれの比ではない。
部屋が寒い。ずっと誰も住んでいない家のように芯まで冷え切って、口から吐く息が白くなりそうだ。開けっぱなしになっている奥の引き戸の向こうはさらにひどい有様だが、ハッとして足を止めたのは、床の上で何かがキラキラと光っているのに気付いたからだ。
よく見ると、それは鏡だった。壁に掛けられていたはずの姿見が粉々に割れて破片が辺りに散乱し、その中にチーフのポケベルと、鋏も落ちている。ポケベルは蓋が外れて電池が抜けており、鋏は何に使おうとしたのかわからない。どちらかを投げつけて、割ったのだと思った。
「……チーフ?」
ふわふわの金髪頭がベッドの上にある。子どものように膝を抱えたまま、微動だにしない。散らばった破片のせいで近づけないが、微かに息をする音が聞こえ、生きていることはわかった。長く垂れた髪の隙間から覗く腕は、随分と細くなったように見える。だが、まずは生きて見つけられたことだけが幸いと、真理子は胸を撫で下ろした。
「チーフ、怪我してない? これ、危ないから片付けちゃうわね? ちょっと煩いかもしれないけど、ごめんね」
やはり声を掛けても反応はない。
元々男性にしては線が細いと思ってはいたが、さらに細くなって、小さくなった気がする。看護師から聞いた何もできないという状態は一つも改善しておらず、勝手に帰宅してからは飲まず食わずなのではなかろうか。
ひとまず鏡の破片と部屋をひとしきり片付け、暖房のスイッチを入れる。何となく、落ちていた鋏は、隠してしまった。掃除機を掛けたり、非常に賑やかだったと思うが、その間もチーフにはまるで変化がみられず置き物のようだ。
とにかく何でも良いから口にしてもらわなくてはと思い冷蔵庫を開けたが、やはり何もなく、唯一入っている牛乳も賞味期限が切れている。
「チーフ、すぐ帰ってくるから、待ってて。良いわね? ちゃんと待っててよ?」
反応はないが、そのまま家を出て、近くのスーパーに行った。冗談抜きで、あのまま放っておいたらミイラになってしまう。
ねぎは買わなかった。牛乳や、オレンジジュース、プリン——すぐには食べられないだろうが、カレーも作って冷凍しておけばそのうち食べてくれるかもしれない。
知らないのだ。それくらいしか、真理子はチーフのことを知らない。まさかこんな風にチーフの世話を焼く時が来るなんて夢にも思わなかったのだ。
葵ならこういう時、どうするのだろう? ラーメン食べようと誘うのだろうか。
「……あっ……」
いつだかの記憶が、頭の中に蘇る。
自身が知る限りの、チーフの好きなものをあれこれとカゴに放り込み、急いで店を出たその足で、もう一度Eightに行った。どこにも売っていない、あるものを持ってくるためだ。
汗だくになりながらチーフの家に戻り、再度奥の部屋を覗いて動向を確認すると、相変わらず動きはなかった。だが、それでも良い。暖房はきちんと仕事をしてくれているし、チーフは息をしている。
買ってきたジュースやプリンを冷蔵庫に並べ、白飯を炊く。食べ物の匂いを嗅いだら少しは刺激にならないだろうかと、カレーも作ってしまうことにした。これが一体何食分の食事になるのかもわからないが、頭の中ではもう既に次のメニューを考えている。今のメインディッシュはもう決まっているのだ。あとは味噌汁でも作ったら良いのだろうか。
そんなことをしながらしばらく台所に立っていると、ふと、背後に気配を感じた。
振り返るといつの間にか引き戸のところにチーフが立っていた。
「……ああびっくりした。ちょっとォ、驚かさないでよォ。ねェお腹空いてる? 何か食べる?」
努めて明るく、いつもどおりの真理子を演じながら、台所に向き直って作業を再開する。背後から返事はなく、小鍋が立てるカタカタという小さな音だけが部屋に響いていた。
「良い匂いした? カレーはさ、ちょっとまだやめといたほうが良いと思うの。冷凍しておくから、調子が戻ってきたら食べな?」
物音一つ立たないが、何かがいる、という気配は消えていない。じっと背中でそれを感じながらも、いくら待っていても何か話し出す様子がない。長いことそうしていて、もしかしてまだ話せないのではないのかと思った。
手を止めて、もう一度ゆっくりと後ろを振り返る。チーフは少しも動かずそこに立っていて、どこか下のほうを見ていた。目の前に立っていると、やはりこんなに小さい人だったろうかと考えてしまう。長い金髪は、結ばれることもないままくしゃくしゃになって垂れ下がっていて、目が腫れているし、元々細かった線がさらに儚くなった気がする。着ているのも、葵があげたというふわふわの可愛らしいパジャマではなく、おそらく普段着ている白いアンダーウェアである。
「やだ、そんな薄着じゃ風邪ひいちゃうわよ。いつものパジャマどうしたのよ?」
真理子は立ちん坊のチーフの横を通り抜けて部屋に入ると、適当に暖かそうなものを見繕って渡した。
「ほら、これ着替えたら? 寒いでしょう。何か飲む? 珈琲はちょっとアレだから、牛乳でも沸かそっか? あ、チーフの好きなオレンジも買ってあるわよ。それが良い?」
今度はそのまましばらく待ってみた。だが、ぼんやりとどこかを見たまま合うことのなかった視線だけが、ゆっくりと渡した手元のパジャマのほうに移動して、また動かなくなった。
何を考えているのかまったく読めない。髪がボサボサでも、痩せ細って顔色が悪くても、不思議とチーフの美しさは変わっていない。それなのに、まるで本物の人形になってしまったかのようで、怖くて仕方がない。以前の真理子がチーフのことを恐れていたのとは種類が違う。
「……話すのがしんどかったら、良いのよ? 無理しなくて」
知らない人に話し掛けているような心地だ。「……びっくりしたわ。病院に行ったら、もう退院したって言われて。怪我のほうはどう? まだ痛む?」
長い静寂の後、チーフは何かを言おうとして溜めたのであろう息を全部音もなく吐き出し、最後の最後に、風邪をひいているような掠れた低い声を出した。
「……帰って」
驚きと、嬉しさが込み上げ、咄嗟に言葉が出なかった。口を半開きにしたまま見入っていると、理解していないと思われたのか、続けて今度は比較的しっかりとした声を出す。
「忘れているようだから教えてあげるけど、僕は男だよ? いっぱしの人妻が、赤の他人の男の部屋に一人で来るんじゃない。それとも、そういうことを、期待しているの?」
やっと、いつものチーフに会えた気がした。
牽制しているのはわかるが、怯まない。真理子には、チーフは絶対に『そういうこと』をしないという自信がある。
「ああ……良かった、話せるようにはなったのね!」平静を保ちつつ、微笑み掛ける。「思ったより元気そうじゃない」
「話せるし、何もかも、普通だよ」
「あんたねェ、そんな細くなってどうすんの。いつから食べてないの? これ、作ってるの置いてくからさ、ちゃんと食べないとダメよ」
「……」
「急に食べると胃がびっくりしちゃうから、少しずつゆっくり食べて。食べきれなかったら冷凍しちゃえば良いからね」
真理子は一方的に喋りながら再び台所に向かう。その背中に、チーフの声が追随してくる。
「僕は人を殺しているんだよ?」
チーフの言葉は無視して冷蔵庫を開け、買って来たばかりの牛乳パックを取り出す。チーフ用の黄色いマグカップを手に取ろうとして、直前で隣にあった青色のほうに変え、半分くらい牛乳を注いでレンジにかけた。チーフは猫舌だから、温める時間は短くて良い。
すぐに完了のアラームが鳴って、取り出したカップをテーブルに置いた。
「少し何か飲んだほうが良いわ。お湯とかのほうが良い?」
チーフはしばらく黙りとしてその置かれたカップに視線をやっていたが、手をつけようとはしなかった。
「……帰って」
最終的にもう一度そう言い捨てると、チーフはふらふらと再び奥の部屋に戻ってしまった。
ひと通り調理を終えた真理子は、台所を片付けて奥の部屋に入った。チーフはベッドに潜り込んで頭から布団を被って丸まっている。真理子が渡した着替えは枕元に置いてあるだけで使われていない。
こんな時葵ならどうするのだろうと考えながらしばらく傍らにしゃがんでいると、布団の中から声が聞こえてきた。
「気が済んだなら、早く帰って」
何もしなくて良い、他人は何もできないと、一平は言った。
真理子にもわかる。きっと自分にできることは何もない。何を言ったところで気休めにもならないだろう。だが、ふらふらと一線を越えてしまうことだけは、どうしても避けたい。それは一番葵が望まないとわかるから。
「……ねェチーフ、あのね、——」
「もうチーフじゃない」口を開きかけた瞬間、間髪入れず強い口調で返されてしまった。
「どうして?」
「……」
「今だって、可愛いじゃない。碌にお手入れしてなくてそれでしょ? 十分なれると思うわよ? 髪も綺麗だし……」
「……」
「ね、どうして? オバサンには話してくれない?」
「……もう、なれない。チーフにも、シャイニーにも。真理子とは、もう、何の関係もないから。帰って。もう、ほっといて」
気持ち悪い、と言ったきり、チーフはまた何も喋らなくなってしまった。が、この程度で会話を終わらせるつもりはない。
「……じゃあ、英斗? チーフやシャイニーになれなくても、関係あるわよ。あたし、あんたの友達のつもりなんだけど」
「人殺しの友達なんてやめときな。周りに良く思われないよ」
「あんたは人殺しなんかじゃない」
「人殺しだよ!」英斗は語気を荒げ、被っていた布団を勢いよく払って漸く顔を出した。「目の前で見ただろ? 僕は葵を殺した」
「英斗、——」
「アンタのおめでたい頭じゃもう忘れちゃった? 僕はまだ覚えてるよ。『チーフ』や『シャイニー』の面を被ろうとすると感触を思い出す。間違いなく僕が殺したのに誰も僕を裁いてくれないし、僕が殺したのにおかしくもなりきれない。普通なの。冷静なの。なんで? 自分が恐ろしいよ。気持ち悪い」
「やめなさい」
「昔、母に言われたことを思い出したんだ。「おまえにヒーローが務まるのか?」って……そのとおりだったな。自分の大事なもの一つ守れずに何がヒーローだ。母さんは、とっくに見抜いてたんだ。僕は、母さんみたいな太陽には、なれないって」
「違う。幸子ママは、そういうことをあんたに言いたかったんじゃないわ。幸子ママはただあんたが心配だったの。あんたに死んでほしくなかっただけ」
「お望みどおり自分は死なずに人を死なせるようになって良かったって?」
「そうじゃない、そうじゃないの」
「早く帰って。一人にして。もう僕に関わらないほうが良い」
「ねェ待って」再び布団に潜ってしまおうとするそれを必死に止める。「聞いて? あんたのことを心配してるのはあたしだけじゃないの。1号や2号もそうだし、うちの旦那もひなたも、西から柳ちゃんまで来てくれてるのよ?」
「え?」
「一平さんを連れて、手伝いに来てくれたの。西のみんなが行けって言ったんだって。みんなあんたのこと心配してる。あんたはね、簡単に一人になれるような人じゃないの、わかる?」
さすがに、これには少し驚いたようだ。微かだが、目が困惑している。「それにね、あたし、葵ちゃんの家に行ったの。葵ちゃんのお母さんに会ったわ」
「……えっ?」
「あんたにお礼を伝えてって、言われたわ。嫌味なんかじゃないわよ? 葵ちゃんのお母さんはねェ、ずっと娘を見てたの。自分じゃあんな楽しそうな顔させられなかったって、言って——」
「やめて」
「娘はきっと幸せだったから、あんたに感謝してるって言ったの」
「やめろ! それは……何にも知らないからそんな悠長なことが言えるだけだろ! アンタの娘を殺したのは僕だってなんで伝えなかったんだよ⁉︎」
「だってあんたじゃなきゃダメだったんだもん‼︎」
ああ、本当に、もどかしい。
違うって、なんでわからないかなァ……?
葵ちゃんは、ただ、——
「……良い? 鷹野葵は、あんたが殺した。あんたがこの手で殺したの。でもね、それはあんたじゃなきゃダメだったの。あたしじゃない。葵ちゃんはあんたに……英斗に助けてほしかったの。葵ちゃんがありがとうって笑ってた理由があんたにはわからない?」
「……」
「あんたは葵ちゃんの最後の願いを叶えた。オレンジ色は朝焼けの色、世界に夜明けを連れてくる色でもあるの。葵ちゃんにとって、あんたはヒーローなのよ。英斗」
「……」
「あたしだってね、あの時あたしがって、考えてる。いつも。でももうどうしようもないのよ。いッくら考えたって、後悔したって、葵ちゃんは帰ってこないし時間は戻せないんだもの。あたしたちはもう、先に行くしかないんだって。ねェ……ねェ本当にわからないの? それで今のあんたが『普通』なんて言うの? 全ッ然普通なんかじゃないわよ。普通のあんただったら、葵ちゃんがあんたにどうしていてほしいのか、ちゃんとわかってるはずだもの。こんなところでいつまでもメソメソなんかしてない」
「……」
「それからもう一つ。ひなたもあんたのことをひどく心配しているし、応援しているの。あんた宛ての手紙も預かって来てる。ちゃんと読んで。良い? あんたの本性がどうでも、あの子にとってはあなたが夢なのよ。あたしにとって、幸子ママのシャイニーがそうだったようにね。娘の夢まで壊したらあたし承知しないからね」
英斗は最後まで返事をしなかった。部屋を出た。真理子の役目はここで終わり。もうこれ以上できることも、伝えられることも、何もない。
葵はすごい。全部、お見通しだった。
——約束は果たしたよ。だからあとは、お願いね。
【ヒーローずかん】※抜粋
◆イーグル・ナイトメア(4号)
〜星月夜 影立ち籠むる夢を裂き
明日へと導く漆黒の羽〜
こわいゆめを みたときは よんでみて
たのしい ダンスパーティーの はじまりだよ
☆いろ ブラック
☆ねんれい 19さい
☆おおきさ 163センチ
☆おもさ 42kg
☆とくぎ ヒップホップダンス
☆すきなたべもの パクチー
☆きらいなたべもの さかな
◆クラウド・ストーンズ(5号)
〜天照らす恵みの光を呼び覚まし
荒ぶる大地に 癒しの音色を〜
ストーンズが うたうと あめふりの そらから
ひかりの かいだんが おりてくると いわれているよ
☆いろ ホワイト
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