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手札が多めのビクトリア 2 【書籍化・コミカライズ】  作者: 守雨
【ランダル王国からの客】

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 夕食は私とジェフだけだった。ノンナはエバ様に呼ばれて出かけている。夕食はアンダーソン家でクラーク様たちと食べてくると言っていた。

 エバ様は「ノンナを将来のアンダーソン伯爵夫人として教育したい」とおっしゃっていて、しばしばノンナをお茶会に連れていってくださる。

 

 食事をしながら、孤児を六人引き取ることになったことと、その経緯をジェフに説明した。


「事後報告になって、ごめんなさい」

「謝る必要はないさ。いいと思うよ。ただ、君はバーナード様の助手の仕事と教官の仕事がある。かと言ってバーサだけで六人の子供に目が行き届くかどうか」

「それについてはなるべく早く人を雇うつもり。子供に手を上げたりしない人を選びます。子供たちには手に職をつけさせたいと思っています。最低限の教育も授けたい。その先の勉学を望む子がいればそれも。あの子たちを見た瞬間、『この子たちは私だ』と思ったの。知らん顔はできなかった」


 ジェフが何とも言えない複雑な顔をした。彼の表情には私への労わりと悲しみと愛が滲んでいる。


「金鉱を発見して頂いた金貨、あれがほとんど手付かずだ。ノンナにそれなりの持参金を持たせたとしても、大半が残る。俺たちでは使い切れないだろう。その子たちのために費用は気にせず人を雇えばいい」

「そうね。子供たちに一般常識を教える人を雇いましょう。栄養のある食事と清潔な環境だけでは足りないわ。あの子たちに一番必要なのは、自分を愛してくれる人じゃないかしら。私……あの子たちを大切に育てたいの。自分には愛される価値があるんだと思ってほしい」

「俺にもその子たちを可愛がらせてくれ」

「お願いします」


 夕食を食べ終えた頃にノンナが帰ってきた。

 

「おかえり、ノンナ」

「ただいまぁ。今日はエバ様のお友達のお屋敷に連れて行ってもらったの。お茶会に参加してきた。噂話をいっぱい聞いた。あれが伯爵夫人になるための教育なのかなあ」


 ノンナはソファに脱力して座り、「はー、疲れた」とこぼしている。

 

「何気ない噂話から情報を集めるのは、貴族夫人の大切な役目なのよ」

「情報収集? そうなの? 自慢話ばっかりの人が結構いたけど?」


 げんなりしているノンナの気持ちはわかるから、苦笑しながらうなずいた。


「自慢話が好きな人は、無自覚に情報をまき散らしてくれる人よ。そう思えば自慢話を聞くのも苦痛ではなくなるわ」

「ふうん。お母さんはそうやってお茶会を乗り切っているんだね」

「会話に隠れている情報に気づけば、お茶会は面白くて有益な時間になるわ。貴族夫人はいろいろ。大切に守られて育って、おっとりしている人が大半。だけど隠れている情報を見逃さずに集めて、嫁ぎ先と実家の役に立とうとする人もいるわ」

「へえ! まるで第三騎士団だね!」

「ご実家の教育と本人の資質だと思う」


 そう。真っ当な貴族の妻でもたまに、驚くほど情報収集能力と判断力に優れる人はいる。


「そっか。次からはそう思って参加してくる」

「そうなさい。それとね、明日から我が家に六人の子供が住むの。いろいろ教えてあげてね。鍛錬関係は……教えなくていいから」


 六人と聞いてノンナは驚いた顔をしたけれど、すぐに「その子たちは親がいないの?」と聞いてきた。


「そうよ。十歳以下の男の子三人と女の子が三人。不慣れなことがたくさんあると思うから、長い目で見て優しくしてあげてほしいの」

「わかった。私、やっと恩返しができるね」

「恩返しって?」

「私はお母さんに助けられたでしょ。だから今度は、私みたいに捨てられちゃった子供たちに力を貸したい。それがお母さんへの恩返しでもあるから」


 ノンナの言葉を聞いて、ちょっと泣きそうになった。

 ジェフは「ノンナ……」と言ってすでに目を赤くしている。最近のジェフは少し涙もろくなったような。

 バーサと馬係のリード、護衛のライリーとルイスを集め、子供を引き取って育てる話をした。


「素晴らしい善行でございますね、奥様。私がしっかり面倒を見ます」

「なるべく早く世話係を雇うつもりだけど、世話係が決まるまでは私もバーサを手伝うわ。まずは全員を洗わなくては。子供たちはだいぶ汚れていたの」


 バーサが胸に右手を当てた。

 

「お任せください。全員を洗い終わったら、理髪店の人を呼びましょう。服も用意しなければなりませんね。普段着でよろしいでしょうか?」

「ええ。全員十歳以下なの。男女三人ずつよ。とりあえず清潔な服を用意してくれる? 買い足す服のサイズはそれから測りましょう」

「それもお任せください。忙しくなりますね。楽しみでございます」


 リード、ライリー、ルイスには、子供がこっそり家を出ていくのを見逃さないよう注意した。


「子供たちには、できれば成人するまでは手をかけてあげたいの。だけど自由に暮らしてきた子たちだから、逃げ出すかもしれないわ。もし脱走する子供を見つけても、頭ごなしに叱らないでくれる? 最初に怖がらせたくないのよ。子供たちは施設に入れられた際に殴られたらしいわ」

 

 リードと護衛たちは「承知しました」「子供を殴るなんてことはしません」と約束してくれた。

 この屋敷にある使っていないベッドは四台だ。明日にでも二台買い足すよう、バーサに頼んだ。

 こうして受け入れの段取りはできた。

 


 朝、ヨラナ様が我が家に来て、二台の馬車で昨日の場所に向かった。ヨラナ様の馬車には護衛が二人同乗している。


「うちのスーザンがすっかり張り切っているわ。世話を焼きすぎないよう気をつけないと、甘やかしてしまいそう」

「うちのバーサも張り切っていました」


 二人でくすくす笑い、それぞれの馬車に乗った。昨日の場所に着くと、今日は護衛が二人しかいないからだろう、私たちが馬車から降りると荒んだ雰囲気の男たちが四人、姿を現した。すかさずヘインズ家の護衛が前に出た。


「ヨラナ様、私から離れないでくださいね」

「うちの護衛たちは年を食っているけれど、大丈夫かしら」


 それにはやんわり微笑むだけにして、「テト! アン! 迎えに来たわよ」と声をかけた。

 子供たちはすでに八人全員が揃っていた。


「忘れ物はない? さ、馬車に乗って。テトとアンはそちらの馬車。他のみんなはこっちの馬車。窮屈だろうけど、すぐに着くから我慢してね」


 子供たちは緊張しているらしく、無言だ。子供たちを馬車に乗せながら、男たちに視線を配る。四人の男たちがゆっくり近づいてくる。ヘインズ家の護衛たちが、私と男たちの間に立ち塞がって剣に手をかけた。


「奥さん! その子たちを連れていくのかい? 俺たちはそいつらの面倒を見てきたんだ。その俺たちに断りもなく連れていくってのは、あんまりじゃないですかね。挨拶くらいは必要でしょう?」


 ヨラナ様は素早く馬車に乗った。鍵もかけているはず。私は馬車のドアを少しだけ開けて子供たちに、「そうなの?」と聞いた。六人全員が首を横に振っている。


「嘘だよ。俺たち、面倒なんて見てもらったことない」

「意地悪しかされてない!」

「そう、わかったわ。ドアを閉めたら内側から鍵をかけて」


 近寄ってきた男たちが全員ニヤニヤしている。御者は二人とも見るからに喧嘩慣れしていないし、護衛が年配だからか。


「子供たちはお世話になっていないと言っています。お引き取りください」

「嘘なんだよ。そのガキどもは息をするように嘘をつくからな」

「お金が欲しいの?」

「話が早いな、奥さん」

「断る」


 一瞬の沈黙の後、男の一人が「はあ? 優しくしてりゃあなめやがって!」と怒鳴った。


「あなたたちに渡すお金は、銅貨一枚たりともないわ。残念ね」


 男たちは護衛を避けて私に向かってきた。ヘインズ家の護衛たちはわずかに出遅れた。護衛たちは二人の男を止めてくれたけど、残った二人の男が私に突進してきた。彼らが遠慮なく拳を向けてきたから、私も遠慮なく対応した。


 右の男の拳を避けながらそいつの腹に拳をめり込ませ、動きの流れを止めることなく左の男の脇腹に右足で回し蹴りを入れた。

 男たちは声も出せずに地面に崩れ落ちた。


 護衛の二人は? と見ると、そちらもそれぞれ相手を倒している。斬ったのかと思ったが血は流れていない。よかった。子供たちに凄惨な場面を見せずに済んだ。


「奥様のご命令で刃は潰してありますが、骨は折れたかもしれません。子爵夫人をお守りできなかったこと、申し訳ございませんでした」

「気にしないで。自分の身は自分で守れますので」


 護衛さんたちは私に質問したいだろうが、そこはヨラナ様のご指導だろう。何も聞かない。私は「さあ、帰りましょう」と護衛さんに声をかけて馬車に乗り込んだ。子供たちは詰めて座っていて、ちゃんと私の座る場所を残している。


「お待たせ。さあ、我が家に行きましょう。リード、馬車を出して」

「はい、奥様」


 青ざめた顔のリードが馬に合図を送り、馬車が動き出す。六人の目が、ずっと私に向けられている。


「人は見かけによらないって、こういうことよ。覚えておいてね」


 そう言って笑うと、子供たちが一斉にしゃべりだした。どうしてあんなに強いのかとか、すごかったとか、びっくりしたとか。

 さっきまで緊張していた子供たちは興奮した表情で私を見つめ、しゃべっている。どうやら私は、子供たちの中で一気に格上げされたらしい。


 笑いながら子供たちの質問に答えていたけれど、さて、ヨラナ様にはさっきの対応をなんと説明したものか。

 ヨラナ様なら、何も聞かずにいてくださるような気がするけれど。



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