こんなのでました。③
「っぷはぁ!!」
路肩に止まったCBRのライダーは剥ぎ取るようにフルフェイスのヘルメットを脱ぐとタンクの上にそれを置いた。
「大丈夫!?」
サクラは慌てバイクを降りるとそのCBRの元へと駆け寄った。
「何なんだ!?あの12R!?」
そんなサクラを気に止める様子は一つも無くそのライダーはライムグリーンのバイク事、カワサキのZX-12Rが通り過ぎた道路を睨み付ける様に見ていた。諦め切れないその視線。
「ま、所詮は人間。妖に勝とうと思う事が間違いなのよ」
サクラの背後からどこかで聞いた事のある、幼くも凜とした声が聞こえてきた。思わずそちらを振り向く。そこにはアイドリングで停車している一台のオープンカーがいた。
そしてそのフロントウィンドウには明らかに免許証をもっていなさそうな女性と呼ぶには少し早すぎる。少女と言っても差し支えないのない者が立ち上がりその身を預けていた。
カメラのピントが徐々に合う様にサクラの視界はその少女とブルーのオープンカーの全容を捉える。
有機的な独特なフォルム、魚類の様な爬虫類の様な、新宿の夜の雰囲気と相まって怪しげな雰囲気漂わせるそのマシンは明らかに日本車が持つものとは違っていた。
「Z3!!」
サクラは思わず声にした。
「あら?」
サクラの叫び声とは対照的にスカした反応を示す少女の様なBMW・Z3のドライバーは、艶やかな黒髪をかき上げると怪しく瞳を光らせた。
「さっきのカワサキはヨシ!?」
サクラは質問を飛ばす。
「ふん」
彼女は顎をしゃくるとスルスルっと運転席へとその身を滑らせた。
「くっ」
サクラはその動きを見ると慌ててDトラッカーのシートに跨りエンジンを再始動させた。新宿のネオン街に「ドパン」と単気筒特有の排気音が響いた。
しかし、そのパンチあるエキゾーストはZ3から発せられる路面とタイアからの悲鳴に掻き消された。Z3を包み込む様に湧き上がる白煙。
バーンナウト。
じりじりと後ずさる様にZ3は後退していきサクラのDトラッカーから距離を取る。
「どう出る」
サクラはZ3の動向をバイザー越しに注視した。するとククッとフロントタイアが道路の中央を向いた。
「Uターンか!」
サクラもステアを似たような角度に向けると対向車線に視線を向けた。
一瞬途切れたBMW特有の澄んだ排気音。そう思うのも束の間。再び白煙を上げ、凄まじいホイルスピンを始めた。そして車列の切れ間を狙う様にZ3は派手なアクセルターンを決めるとサクラもそれを追った。バーンナウトの白煙がZ3のテールに引っ張られ路上にたなびく。
しかしその視線の先に信じられない物を捉えた。
路肩に停車状態ではあるが車格に似合わない小さめのテールランプとライムグリーンのリアカウル。そのリアビューには不釣り合いな破格のタイアサイズ、ド迫力のニーマルマル。
ハイパワー車の代名詞的なタイアサイズ。イチハチマルを優に超えるそのモンスターにまたがるライダーは、ライダースを着込んだ金髪ショートカットにノーヘル、ゴーグルという、おおよそ日本の公道では考えられないような出で立ちでシートに収まっていた。
「見つけたぁ!!」
サクラが思い切り叫ぶとその金髪のライダーの頭頂部に紛れてある獣のような耳がピクリと反応した。
停車状態のままでそのライダーは振り向くとニヤリと怪しい笑みを浮かべた。しかしゴーグル越しで瞳の表情は読み取れない。そして片方の手で下品なハンドサインを繰り出すと、まるで航空母艦からカタパルト射出される戦闘機の様に凄まじい加速を轟音と共に見せた。気狂いしかねないパワーは路面に叩き付けられると、バイクは反発するかのように僅かにフロントを持ち上げながら彼女の前に飛び出して来た。行く手を阻まれるサクラのDトラッカー。
しかしサクラはスロットルを緩めない。カワサキZX-12Rのワープのような加速なら自分のバイクの車速で衝突する可能性は無いと踏んだからだ。そしてその予想は見事に的中した。
「おほー!やるねぇ!!」
常識外れな光景に気の抜けた声が二台の凄まじいエンジン音の間を縫って聞こえてきた。
「遂に現れたわね!」
サクラは叫ぶがその声は何か喜びにも似たような感じだ。
「たりめーだ!あんまりメソメソしてっから消えたんだよ!!」
「相変わらずの減らず口!!」
「うるせー泣き虫!なぁ、おケイ!こいつの鼻っ柱へし折るからケツ持ち頼む!!」
金髪姿のライダーはそう叫ぶと前を向き直した。
新宿のネオンが映し出す狂気じみたサーカスの幕が開けた。




