「hell and heaven」②
「うぃっ?!」
「ちょっとあなた変な声出さないでよ」
妙な声色のヨシをサクラは思わずたしなめた。
「んなこと言ってもあの状況で声を出すなって方が無理だろう」
ヨシは自分の見たものの方を親指で指した。
「なっ!?」
「二人して変な声出さないで頂けます」
ハーレーのリアシートに収まったままおケイが憮然と言い放つ。
「全く。レディをほっといてあの方は何をしてらっしゃるの?」
「そのすすけたナリでレディ気取るのかよ。つーか、道に迷ったとかじゃないだろうな」
「まぁ、急ぐ訳でもないからここはシンディに任せましょう」
「そ。サクラが宜しければ構いませんわ」
おケイはそう言うとハーレーのシートを横に座りなおした。
程無くするとシンディが三人の元に戻って来た。
「ファンタスティックな街デース!ここ大分は!」
「いや、つーかシンディここは初めてだったの?」
ヨシは地べたを指さす。
「イエース。九州は初めてデース。でもノープロブレム!」
満面の笑みで答えるシンディ。
「お、おう」
気迫のようなシンディの答えにさすがのヨシも少し押され気味になった。
「フォローミー」
シンディはそう叫ぶとハーレーのエンジンを始動させた。
「これはもう彼女に付いて行くしかないわね」
サクラもそういうとバイク・ニンジャのエンジンをスタートさせた。
大分駅前のロータリーを出るとそのまま幹線道路に出る二台。
大分の市街地を抜けると再び海岸線が現れたが夜で海原は漆黒の闇に包まれていた。しかし工業地帯の照明がその境目を彩る。ルビーのような輝きを放つ工場の照明を尻目に彼女達のバイクは海岸線から峠道へと入り込んだ。
急な斜面を登れるようにつづら折りになっている道路。
時間が時間なだけに乗用車は通らない。山間のヒンヤリとした空気が四人の頬を撫でていく。
そして、そんな寂しい所でシンディのハーレーはスピードを緩々と落として遂には路肩に停止した。
彼女のハーレーの後ろにサクラはニンジャを止めた。
二台のバイクのアイドリング音が辺り響く。
「ここはドコですカー?」
キョトンとした表情で三人に問いかけるシンディ。
「ブッ。こっちが聞きたいわ」
ヨシがそう言い放つと、サクラは辺りを見渡した。
「こんな、山の中でしかも夜…」
「お化けでも出なけりゃいいけどね」
おケイがハーレーのリアシートから冗談ともつなかい口調でサクラの言葉を繋げた。
「お化けね~」
ヨシはヒョイとニンジャのリアシートから降りると背を伸ばした。
その時だった。彼女の背後から「ガサリ」と落ち葉を踏む音が聞こえた。
ヨシは思わず振り向きその音のする方に目を凝らした。
立ち並ぶ木々の間は完全な暗闇で何も見えない。
「気のせいか?」
ヨシは心の中で呟くと残る三人に視線を向けた。
二台のバイクはアイドル状態でライダーを乗せたまま路肩に佇んでいた。ヨシは再びバイク・ニンジャのリアシートに収まった。
「シンディ、Uターンしましょう。このまま闇雲にバイクを走らせてもガソリンの無駄よ。麓の市街地まで戻りましょう」
「オーケー」
シンディは少しばかり力なく答えるとハーレーのギアを一速に入れてハンドルをフルロックするまで切った。
その刹那。何かがライトの光線を横切るのが見えた。
「What’s!!」
シンディが頓狂な声をあげる。
「何!?」
その声にサクラも思わず声をあげる。
「何かいるわね」
おケイはそう静かに言い放つと暗闇を見渡した。
すると、カラコロと下駄の音がバイクのアイドル音に混じって聞こえ始めた。そこにいる四人は息をのんだ。
誰が言う訳でもなくシンディのハーレーのライトの照らす先を見る。
「山は富士」
暗闇から男性の声と共き下駄履きの足元が現れた。
「海は瀬戸内」
バサリとマントがひるがえる音と背広姿の中年男性の体躯が明るみに出た。
「湯は別府!」
その叫び声と共に現れたのは丸眼鏡姿の頭の寂しい男性だった!
「出たーーっ!!」
四人の黄色い悲鳴が山間にこだまする。




