「hell and heaven」③
「出たっちなにえ?」
眼鏡姿の中年男性はサクラ達を見ると呆気にとられたように言葉を放つ。
「こげな所に女っこだけでおるとアブねーで」
彼は再び言葉を放つと下駄をカラコロと鳴らしながらサクラ達に近づいて来た。
背広姿にマントを羽織り足元は下駄、丸眼鏡にだいぶ寂しくなったツルツルの頭髪。シンディのハーレーのライトに写し出された全身は正直珍妙だ。
「ふん。出るも何も貴方、故人でしょ?」
おケイはハーレーのリアシート、シンディの背中に越しにその珍妙な男性に話しかける。
「よう解ちょるやん。で、こげな山ん中でどげえしたんかえ?」
「…ちょっとこの人訛りがきつすぎて何を言ってるか解らないわ…」
サクラが男性の発する言葉の理解に苦しむ。
「ま、あなたが感じるニュアンスで大丈夫よ」
その事におケイがサラリと答える。
「oh~サクラが解らないなら私はもっとチンプンカンプンでーす」
「それだけ日本語が達者ならオイサンが言うちょる事は何となしに解るはずやで」
「同じ日本語よ。フィーリング、フィーリング」
お気楽にヨシが言い放つ。
「で、あなたは何者?ただの幽霊にしては私達に絡むなんて身の程知らずね」
おケイの目が闇夜の中で妖しい光を放ち始める。
それに釣られるようにヨシの瞳も光を宿し始めた。二人はどうやらこの得体の知れない幽霊の男性に敵意のようなものを持ち始めた。
「ちょー、やめちくりぃや。ワシは何もあんた方を取っち食おうちいうんやないんや」
少し慌てた感じで彼は一歩、四人からあとずさった。
「そう」
その仕草からおケイは警戒心を解き視線を彼から反らした。
「しっかしオジサンのカッコ…」
ヨシは逆に彼に興味を持ち始める。
「これかえ?」
彼はそれに答えるかのように両手を広げた。
「オジサン生前は芸人かなにか?」
「違うのぉ、まぁ人を楽しませるちゅうところは一緒じゃわ」
「うぅん?」
「おねいちゃんの頭じゃ解らんちや?」
「そうね。ヨシの頭の出来なら無理そうね」
「なにお!」
「まま、お二人さん。ここは油屋熊八の名に免じて拳を収めんさい」
そう言うと油屋と名乗った男性は二人の間に割って入った。
「ん。アブラヤ…?」
シンディが何かに気が付いたように視線を一旦外した。
「あー!!思い出したデス!この人日本で初めてリゾート作った人ヨ!!」
「お、金髪のオネーさんいい線いっちょるで。まぁワシが日本で一番初めにしたんはバスやけどな」
油屋がそう言うとどこからともなく一台のバスが現れ四人の前に止まるとエアブレーキの音を響かせた。
「え…」
息をのむサクラ。
「Oh!アメリカのスクールバスみたいでとてもキュートでーす」
サクラとは逆にシンディはそれを見ると思わずはしゃいだ。
「どげえかえ?ここは一つオイさんの作った天国を見てみらんかえ?」
「ハッ。やらしい」
おケイが思わず軽蔑の眼差しを油屋に注ぐ。
「格好のわりにマセたお嬢さんやの~」
彼がそんなボヤキは吐いた瞬間だった。古めかしいボンネットバスの扉が開いた。
「やい、熊八いつまで待たせるんかえ?」
四人の耳には老婆の声が飛び込んできた。
「おっ悪ィ悪ィ」
振り向く熊八の視線の先を見る。
「ん?新手の妖怪かしら?」
ヨシがバスのドアを注視するとそこから一人の老婆が出てきた。
「妖怪はそっちやろうが。私ゃまだ生きとるよ」
彼女はそう言い放つと仁王立ちでヨシとサクラ達を見た。
「あら、なつかし。バスガールね」
おケイが彼女の格好を見てそう言うと油屋がニカッと笑みを浮かべた。
「こちらのお嬢さん。実は日本最古のバスガールなんやで」
自慢げにそう言うと仰々しく両手で彼女を紹介した。
「最古は余計やち!」
紹介を受けた彼女はツルツルの油屋の頭をはたくと。
「ペチッ」
とした音が辺りに響いた。
「で、おねいさん達。乗るんな?乗らんのや?」
ムンと息を吐きながら老婆は彼女達に問うた。




