「hell and heaven」①
「ブァハハハハハ!ハーレーのリアシートにおケイがいるゥ~。なんかウケル~」
ヨシがお腹を抱えながら転げまわる。
「っぷ。さすがにそのフランス人形みたいな格好でハーレーのリアシートは…」
サクラも笑いを必死にこらえる。
シンディのハーレーにチョンと収まったタヌキの令嬢おケイ。
ロールスロイスやベントレーなどが似合いそうな容姿なのだがナゼか彼女はハーレーの後部座席にいた。その妙なアンバランスさ加減がまるでサーカスの熊が三輪車に乗っているような雰囲気を醸し出す。
「おケイちゃん。行きマスヨー」
シンディはそんな二人をよそに、にこやかにおケイに話しかけた。
「ちょっと待って」
おケイはそう言うとシンディの腰に腕を絡ませた。
「Oh…」
彼女は少し驚いたような声を漏らすがそれも一瞬だった。背中に感じるおケイの体温が自身に伝わるとその表情は一気に緩んだ。
シンディは夢見心地でギアをファーストに入れた。
ガコンという作動音の後にアクセルを緩々と入れる。V型エンジン、鉄パイプを曲げただけのようなマフラー。ハーレーの独特な破裂するような排気音が辺りに響くとシンディとおケイを乗せたバイクは波止場を後にした。
「おっと、お二方。置いてかれますよ」
塚本はサクラとヨシを促す。
「そうね」
サクラはそう言うといそいそとヘルメットを被る。
「塚本。あんたどうすんの?」
ヨシがおケイから預かった日傘を持つ塚本に質問を飛ばす。
「私はこちらでお嬢様をお待ちしております」
「そう」
二人は軽く視線を絡めるとお互いに背を向けた。 その瞬間に金属の野獣が目を覚ます。
ヨシがヒョイとニンジャのシートに飛び乗る。
「塚本さんは?」
「ここでおケイを待ってるって」
「ふうん」
サクラはそう言うと片手を上げた。塚本はそれに答えるように笑顔で片手をあげそれを返事とした。
バイク・ニンジャは九州の大地にその排気音を響かせる。
「お、いたいた。白いフリフリ」
カーブの先に見えるおケイをヨシは見つけた。
「さすがに目立つわね」
大分県は佐賀関半島の海岸線に沿ってできた国道一九七号線。大分の大動脈であり、国道十号に接続されており一気に別府市まで抜ける事ができる。
「彼女、おケイちゃんをどこに連れていくのかしら?」
「いっそ地獄にでも連れて行ってくれないかねー」
サクラの質問にヨシが冗談で応じる。
「あなた友達としてそれは酷いんじゃない?」
「友達とかそんなんじゃねーよ」
「全く仲が良いんだか悪いんだか」
ヨシの答えにため息交じりに言葉を吐くサクラ。
いつの間にか陽は落ちてゆき、辺りが黒くなってきた。
フェリーを降りてからどれくらい時間が経ったのか解らなくなる位に二台のバイクは海岸線をひた走る。
「ちょっとあなたワタクシをどこまで連れていくつもり?」
いつの間にか海岸線は遠のき住宅街みたいな所を走り抜けていた。その道すがらで見た「パチンコ天国」というネオンサインの看板が妙に目に付いた。看板のせいではないが、さすがに不安を隠せなくなったおケイ。シンディに一応行き先を聞いてみる。
「ヒミツ」
と、シディは意味ありげな返事をするだけで具体的な事は述べなかった。
こうなってしまったらおケイもシンディを信じるしかない。
力強いVツインエンジンの鼓動が二人を包み込む。そしてシンディの乗るハーレーは遂にその行足を止めた。
「大分駅…」
ヨシが思わず呟く。駅前のロータリーにバイクを寄せるとシンディは足取りも軽やかに降りて行った。
リアシートに残されたおケイはそれを只、目で追うだけだった。
「…」
サクラのニンジャもシンディのハーレーの後ろに付ける。
ヨシとサクラはシートから降りるとハーレーに取り残されたおケイの元に寄っていった。
「よぉ、シンディは?」
ヨシはおケイに訪ねると彼女は無言でシンディのいる方を指差した。
「あぁ?」
おケイのそのぶっきら棒な態度にヨシは不快感を露にするが、取りあえずその指の先を見た。
そこには数名のタクシーの運転手に囲まれながら談笑するシンディの姿があった。




