①
突然はじまった氏神様とのツーリング。新宿を出てどれ位経っただろうか?
とにかく楽しくて仕方がなかった。アクセルを開けてる限り全てを忘れることができた。
広い国道一号線は旅の始まりをまるで歓迎するかのようだ。
品川、五反田、等々力、田園調布を抜けて、多摩川を跨ぐ。
[神奈川県]
と書かれた看板が彼女達を出迎える。だれかが迎えに来ている訳でもないのに顔が思わずニヤける。
深夜になると大型トラックが目立ってくる。まるで鯨のような巨体が悠々と道路を流れていく。
その中の一台のバイク。
900ニンジャとて大型バイクの部類に入るがトラックのそれに比べたら玩具みたいなものだ。
しかし、その流れをスイスイとイルカのように流れていく。
時折背中越しに聞こえるホーンの鳴き声は御愛嬌。
工業地帯。住宅街。街は表情を変えていく。そしてそれはとある所で一変する。
横浜
神奈川より知名度をもつこの都市は正に神奈川の玄関。港町なら日本の玄関と言っても過言ではない。
「もう、横浜かぁ~」
サクラはここに来て初めて口を開いた。
「ねぇ、せっかくだから寄って行かない?」
リアシートのヨシが人懐こい笑顔をミラー越しに飛ばしてくる。
そう言われて何もしないほどサクラも野暮ではない。
とりあえず目立つ建物。横浜ランドマークタワーの麓にバイクを寄せた。
ヒラリとヨシがリアシートから飛び降りた。
サクラもシートに跨ったままメットを脱いだ。バイザー越しの景色が一気に広がる。
「ふぅ」
一息付くと手串で乱暴に髪型を整えた。
「どう?ここまで来て」
ヨシがサクラの顔を覗き込む。
「ん~。ひとっ走りした気分ね」
「その感じだとまだまだ足りなさそうね」
「当たり前じゃない。全然よ」
サクラは初めて強気な口調でヨシに言い返した。
「バイク乗りならそうこなくちゃ。」
ニカッとヨシは笑う
「軽く休んだら出るわよ」
サクラはそう言うと手に持っていたフルフェイスのヘルメットをバイクのミラーに引っかけた。
二人は別に観光をしている訳ではない。なので用が済めばこの街をとっとと後にする。
中華街で購入した中華饅頭を腹に詰め込むと早々にバイクに跨った。
横浜の夜空に900ニンジャの排気音がファンファーレのように高らかに響き渡る
「ねぇ、行きたいところがあるんだけど」
サクラは表情をよまれたくないのか?バイザー越しに視線をヨシに送る。
「お好きにどうぞ」
ニッとした表情をヨシは浮かべるとひょいとリアシートに跨った。
900ニンジャは国道一号線には戻らず目の前を通る国道一六号線にのった。
ヨシには何となく分かっていた。サクラの望むもの。
鋼鉄の馬は排気音の嘶きを放ちながら一六号線を突っ走って行く。
比較的海沿いのなので時折磯の香りが鼻をつく。
港町。そういった言葉が似合う街ヨコハマ。
都市部を抜けると山沿いに住宅街。海沿いに港湾施設や工業地帯。日本の入り組んだ海岸線によく見られる風景だ。
よくまぁ、平地の少ない国土にこれだけのものを詰め込んだなと、感心せざるをおえない風景だ。
サクラは完全に眠りについた街の風景を横目にバイクを走らせた。
時折みえる海原が上下の感覚を狂わせる。ミラーを見ても真っ暗で何も写っていない。
隅の方にヨシの片脚がボンヤリ写ってる程度だ。
サクラはその一瞬感じる闇夜の深さに得体の知れない怖さを感じた。
それはまるでニンゲンがみてはいけない、深い黄泉の世界の入口のような。そんな感じがしてならないからだ。
ヘッドライトの灯りと等間隔にある外灯が唯一の道しるべ。
カンダタよろしくその細い光の糸を手繰り寄せる。
そして行き着いた先は横須賀。近代日本あけぼのの地。




