①
「Oh~これはイイですね~」
乗船したシンディはブーツを脱ぎ足を伸ばしてくつろいでいた。
日本のフェリー特有の自由席。いわゆる座敷のスペースで三人は車座になり佐田岬沖から豊後水道を渡り、九州は大分県。佐賀関への航路を進んでいた。
「これが豊後水道か…」
サクラは船窓から海原を見て感慨深げに言葉を吐く。
「ここがどうかしたの?」
「うん。ここを戦艦大和が最後に通ったと思うとね…」
「ほー」
ヨシも彼女と視線を重ねる。その横ではシンディがうつらうつらと違う船を漕いでいた。
「ありゃ。こちらの方も夢の世界に出港されたみたいね」
「うふふ。なんだか遊び疲れた子供みたい」
「ナリはデカいがな」
サクラとヨシが寝息を立てるシンディの顔を覗き込もうとした瞬間だった。
「おい!なんだあのデカい船!!」
常客の男性の一人が突然反対側の舷側から叫び声をあげた。その声でシンディの鼻風船が弾ける。
三人は申し合わせたようにそちらに視線を飛ばした。
「なんだぁ~」
「まるで、島が動いてるみたいね…」
サクラとヨシは、はるか彼方に見える船影を視界に捉えた。
「まるで、バトルシップみたいなシルエットでーす」
シンディが何気に放った一言がサクラの琴線に触れた。
「バトルシップ…」
そう彼女は呟くと何かに誘われるように叫び声がしたほうの甲板へと歩き出した。
甲板にはすでに乗客が何名か集まっており、その見慣れない船影を見ている。そしてその船影はどんどんと近づいて来て遂にその姿がハッキリと解るところまで来た。乗客の間に一気に緊張が走る。
「どう見ても普通の船じゃねーよな」
「自衛隊の軍艦か…?」
「映画何かの撮影かしら?」
思い思いの憶測が飛ぶ中、サクラはその船影の正体が何であるか僅かながらではあるが確信めいたものを得ていた。
並走しているがその距離はまだまだ離れている。しかし目測を誤る位にその姿はデカい。
青い海原に浮かび、波を切り裂きながら進むその姿は正直美しさを感じる位に優美な印象を受ける。
サクラはこみ上げる思いを一旦飲み込む。
「これは戦艦だわ」
絞り出すように声を出すとその姿を再度凝視した。
しかし、いつの間にか目を凝らすほどの距離ではなくハッキリとその細部が分かるまでその戦艦と思われる大型船は近くまで来ていた。
「アッハー。日本にもバトルシップがあったのデスネー」
呑気に言うシンディの横でサクラはその戦艦の細部を見渡した。
「今の世の中、戦艦を動く状態で保存している国はアメリカのみ…。」
「イエース」
シンディがサクラの言葉に鼻高々に答える。
「でも、アレじゃん。目の前のアレもあんなあからさまにデカい大砲付いてるから軍艦なんでしょ?」
「そうだけど、新しく戦艦が作られたなんて聞いたことがないわ。ていうかあり得ない。第一本当にアメリカの戦艦が来たとしたら大ニュースよ。映画用のレプリカとしても割に会わないわ…」
「ナルホド。つー事は…」
ヨシがアゴに手を当て空に視線をさ迷わせる。
「waht‘s!?あんなところにアンブレラ!」
シンディが何かを見つけたらしくそこを指差す。
艦首から数えて四つある主砲塔の第一砲塔の辺り。白い日傘とそのたもとに二人の人影が三人の目に映った。
「あ、まさか…」
ヨシが何か気まずそうな声をあげる。
「おほほほ!どう?戦艦ビスマルクよ!!」
戦艦・ビスマルクの甲板に立つのはおケイと塚本だった。




