③
シンディと名乗った外国人。乗っているバイクから察するに出身はアメリカのどこかだろう。
彼女は再びバイクに跨ると折りたたまれているキックペダルを爪先で器用に出した。そして身体をハンドルに預けペダルに全体重を掛けると「フン」という掛け声と一緒に勢いよく踏みおろした。
「ドバン!」
というバイクの排気音とは思えない破裂音を辺りに撒き散らすと彼女のバイクは息を吹き返した。
「ヒョー、一発ゥ」
ヨシが思わず唸る。
シンディのバイクはダッタカダッタカと三拍子のリズムを刻むアイドリングを始める。
「このリズムがハーレーである証ね」
サクラがそう言うとシンディはサングラス越しにニカッと笑みを浮かべた。
彼女の準備は万端だ。
「こちらも行きますか」
ヨシがサクラに向かってそう言うと彼女はバイクに跨らずタンク越しにセルスターターのスイッチを押した。
キュルルルとセルモーターの作動音を発するとバイク・ニンジャは「ガオン」と雷鳴のような音と共に鋼鉄の心臓はドロドロと地を這うような排気音を響かせる。
「ナイス」
シンディは親指を突立てそう言うとギアを一速にいれた。
ガシャコンといかにもギアが噛み合うような音をさせると彼女のハーレーはV型エンジン特有の排気音と共にゆるゆると動き始めた。
サクラとヨシのニンジャもそれを追う。二台のバイクが峠道を駆けていく。
少しばかり走ったところでシンディのハーレーは一段高い排気音を轟かせた。サクラのニンジャはみるみる間に置いて行かれ彼女は慌ててアクセルを振り絞った。
少し小さくなったシンディとハーレーだがコーナーが迫ってくると彼女のバイクは減速を始める。あっという間にその差が縮まる。
その時だった。シンディはシートからカーブの内側に向かって思い切り腰を落とした。彼女のハーレーが大きくバンクする。サクラの視界にはハングオンでコーナーを攻め立てるシンディの姿が飛び込んできた。
「!」
ワイドハンド。ローロングのハーレーでレーサーレプリカのような運転にサクラは度肝を抜かれた。
手足の長いシンディはまるでバイクから浮いてるような乗車姿勢になる。
それこそ、中世の騎士が矢をよける為、馬を盾にするような乗り方だ。
そしてコーナーを立ち上がると鞭を入れんばかりの勢いでシフトノブを操る。
「そうきたか」
サクラはメットの中で呟くと次に飛び込んでくるカーブを見据えた。
「よっと」
彼女はリズムをとる様に言葉を発するとバイクのみをカーブの内側に傾け、それと同時にギア側に載せている左脚を大きく開いた。その足は地面ギリギリの所で止められている。
そしてクリッピングポイントでアクセルをグンと入れた。
バイク・ニンジャは後輪を滑らせながらコーナーを立ち上がる。
「オートレーサーかよ!」
リアシートのヨシが思わず声を上げる。
「これがジャパニーズスタイルよ!」
日本ではバイクで後輪を滑らせながら走るドリフト走法は馴染みが薄い。海外ではダートトラックなどでよく見かける為比較的メジャーな走らせ方だ。それこそハーレーの独壇場。
最近でこそ日本でもスーパーモタードやエクストリームなどでメジャーになった様に感じるが、実はこの走法は日本のオートレースにおいては有名な走法だったのだ。ドリフトはなにも外国だけの御家芸ではないのだ。日本にもその文化の礎はしっかりとあったのだ。
「船橋じゃないのよ~」
ヨシが茶化すようにリアシートから叫ぶ。
「神様が博打なんて打ってるんじゃないわ…よっと」
バイク・ニンジャは再びコーナーでリアタイアを滑らせる。そしてその勢いのままシンディのハーレーを追い抜く。
「Oh!」
シンディはいきなり先行するサクラ達に面食らった。そしてコーナーで豪快にドリフトをキメるニンジャに目を奪われた。
「アメイジング…」
そう呟くと思い出したかのようにアクセルを振り絞った。




