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「ブオン」と山合に響くバイクの排気音。颯爽とワインディングロードを駆け抜けていく黒い900ニンジャ。
自動車なら苦痛な曲がりくねった道は小回りの効くバイクにとってはとても楽しい道になる。サクラはコーナーを切り返す度に自分がバイク乗りである事の喜びを噛み締める。
別にコーナーを攻めなくてもその昂ぶりは十分だ。自分を中心にコーナーをクルクル回る感じと、アクセルオンでパシっとハマる感じ。身体でバイクを操る楽しさはどうしてもカーブの多い峠道の方が勝っている。
つづら折りのように連続して続く峠のコーナーはバイクのような乗り物が一番適しているのではないだろうか。サクラは愛媛の佐田岬半島の国道197号線を走りながら自分のライディングに陶酔していた。
おケイの屋敷を出て半日ほどだろうか、高速道路を使ってだが遂に四国の端まで来てしまった。しかしその終わりにこの様な楽しい峠道が有るとは思わなかった。
都会とは違い信号なぞ煩わしいものは滅多に無い。というか丁度、一呼吸置きたいときに出てくる。そのタイミングは絶妙だ。ここまでこの道と相性がいいとついついペースの方が上がり気味になるが曲がりくねった峠道がそれを抑えてくれる。周りの景色と一体となりながら緩む口元を時折引き締めバイクを操る。
「景色も良いし気持ちのいい峠道ね」
そう言いながらリアシートのヨシが金髪をかき上げる。サクラはそれに合わせるようにガチャンとシフトアップした。速度が乗るとカーブの手前でスーっとブレーキをかけ、コーナーの中腹辺りでアクセルをグンと入れる。視線はコーナーの出口。バイクはその視線をなぞるように走る。この繰り返しだがハマるとこれが気持ちいい。そして心地いい疲労感が身体を満たすと自然とバイクを路肩に止めた。
「はぁー」
サクラはヘルメットを脱ぐと空を見上げた。峠の見晴らしのいいところで一息入れる事にするとバイクから降りた。
「ん~」
ヨシも降りると背伸びをして周りを見渡す。
佐田岬に通じるこの半島。愛媛の西側に位置し、ひょろりと長細く豊後水道に突き出ている。
半島自体のほとんどが連山のような山になっていてその高低差に沿って国道が通っている。
なので、山頂付近になると瀬戸内海、豊後水道、太平洋、天気がよければその向こうに山口と九州が一望できる。
「おほほー。絶景かな、お団子でも持ってくればよかった」
ヨシが額に手を当てながらそう言う。
「あはは、相変わらずね」
サクラはひと笑いするとバイクの方に身を向けた。その時だった。
「ドドパン!」と弾ける音が峠のブラインドコーナーの先から聞こえてきた。
サクラは上半身を捻り反射的にそっちの方に視線を向けた。バイク乗りの性。排気音が聞こえると無意識にそちらを見る。
コーナーからスッと現れ出たその音の正体。大きく車体を傾けながらそれは滑るように路面を走っていた。スリムな正面姿と反するワイドなハンドルが進行方向とは逆に切られている。
「ドリフト?」
サクラがそう呟いた後に、重たい排気音の嘶きを放つ鉄馬は華麗にコーナーを抜けると彼女の前で止まった。
三拍子のアイドルが日本車とは違う雰囲気をムンムンに放っている。主はサクラのバイクを見ると
「ninjya!」
と滑らかな英語の発音で言い放った。
それからおもむろにシートの後ろにあるシフトレバーを操作してニュートラルにするとサイドスタンドを出しバイクを地面に預けると同時にエンジンを切った。
メインスイッチもエンジン付近にありそれを操作する為に独特の姿勢にライダーがなったところでサクラの目にそれが止まった。
見下げる位低い乗車ポジションから突き出た持て余す位に長い手足は革ジャンとジーンズに包まれていて、足元はウェスタンブーツで固められていた。グリーンにシルバーのラメ入りのジェットヘルにレイバンのティアドロップ型のサングラス。
そして派手ヘルメットに負け無い位にウェービーなブロンドが肩にはかかっていた。




