⑤
「おっはよー」
カーテンの隙間から入ってくる朝日と共にサクラの耳に入ってきたのはヨシのカラリとした声だった。
「あー…」
しかし、サクラの反応は鈍く、彼女は布団の中で足をもぞもぞ動かすだけだった。
「朝飯だ!起きろオラァ!!」
そんなサクラに業を煮やしたヨシは彼女の布団を剥ぎ取った。
「!」
突然強烈な朝日と供に感じる朝の肌寒い空気。
サクラは反射的にヨシから布団を奪おうとしたが、寝起きの血圧ではそこまでの気力は沸かなかった。
「ん~。起きるわよ~」
サクラはそう言いながらベッドから這い出た。
そして鼻歌混じりのヨシのあとを付いて行く。
辿り着いたのは食堂で既に朝食の準備が整っていた。
「二人共おはよう」
「おはようございます。よくお休みになられましたか?」
既に食堂にいたおケイと塚本が二人に話しかける。
「えぇ」
サクラは幾分力なく答える。
「ま、あんな重たい話しのあとに『眠れた?』なんて聞くほうがデリカシーないだろ」
そうヨシは言い放つとドッカと椅子に腰を落とした。
「あなたのどこを押せばデリカシーなんて言葉出てくるのかしら」
呆れた口調のおケイ。その横で塚本が苦笑いを浮かべていた。
「ま、忘れなさい。妖の昔話ほど軽いものはないわ」
彼女はそういうと既に紅茶の入れられているティーカップに手を伸ばす。
「そういうこった」
ヨシも軽く言い添える。
「あ、メイドさん。私ご飯がいいな」
「かしこまりました。ヨシ様」
「本当。あなたのどこにデリカシーなんて言葉があるのかしら…」
サクラは呟くようにそう言うとテーブルに視線を落とした。
ハムエッグに小鉢に盛られたサラダ。典型的な朝食だが、全体的にキラキラとした輝きを放っていた。
「さっ。頂きますか」
おケイはそう言うとナイフとフォークを手に取った。
それを見ていたサクラの耳元で
「サクラ様はどうされます?」
と、メイドが囁いた。
「あ、私はパンでいいや」
「かしこまりました」
そう返事をすると彼女はパンの入った籠をサクラの前に差し出す。
パンは焼きたてのようでまだ、ジリジリと表面から音を出していた。香ばしい香りが食欲を誘う。
バターロールを手に取るとほんのりあったかい。サクラは二つに割るとそれを口に入れた。
サクリとした食感のあとに広がる小麦の香り。甘みを含んだ味覚。フワフワと舌先に感じる感触にサラリとそれが喉を通り過ぎる。
「美味しい…」
思わず出た言葉。
「ウチのメイドの作るパンは格別よ」
向かいにいるおケイが身を乗り出しながらサクラに話しかけた。
ヨシの箸が一瞬止まる。
「へっ。日本人なら朝はご飯って決まってるの!」
そう言うと再び忙しなく箸を動かし始めた。
「相変わらずの減らず口ね」
おケイがため息を漏らすと
「ちなみに本日の朝食は私が飯盒炊飯いたしました。いかがでしょう?軍隊時代に随分鍛えられたましたから腕は落ちてないかと思われます」
「ぶふっ!」
塚本の言葉にヨシがむせ返る。
「あら、ビルマの時の事でも思い出した?」
いやらしい視線をヨシに向けながらおケイは塚本の方に頭を向ける。
「そーですねー…」
「わーー!!ちょっとタンマ!タンマ!」
慌て塚本が言おうとした言葉をヨシが顔を真っ赤にして遮る。
「ぷっ。くくく」
そんな三人の様子を見ていたサクラが思わず吹き出した。
「そう。それで結構よ。時代がどんなに暗くても、悲惨な運命があろうとも、私達の青春はそこにあったの。楽しい思い出はどんなに時間がたっても色褪せないものなのよ」
サクラの前には目を細めたおケイがいた。




