②
「はーっ!後は風呂上がりのビールがあれば文句無いわね!」
ヨシは大声でそう言いながらバスルームのドアを勢いよく開けた。
「左様で」
ドアの前には先ほどのメイドが立っており澄ました顔を浮かべる。
「サクラ様はいかがいたしましょう」
そして表情一つ崩さずに彼女はお伺いをたてた。
「そんなの悪いわ」
ヨシとは違い遠慮気味にサクラは断りをいれたが
「湯上りで何も飲まないのはお体に障ります。ハーブティーなどご用意いたしましょう」
と、メイドの後ろから塚本が言葉を投げた。
「かーッ!相変わらずキザったらしいな!!」
ヨシは塚本をいちべつすると彼に背を向けた。
ズカズカと廊下を歩くヨシを尻目にサクラは塚本を見上げた。
長身長躯の体型と切れ長の目と相まって精悍のお手本のような彼。サクラの視線に気が付くと微笑みを投げかけた。
「あの」
サクラはその微笑みに流されるように口を開く。
「何でしょう?」
塚本もそれに応じた。
「ヨシとおケイちゃんの間に昔、何かあったんですか?」
サクラの問いかけに塚本は少し困った表情を浮かべるとそれをごまかす為か?その顔を先ほどのメイドに向けた。
「君。サクラ様のハーブティーはバルコニーに持って来てくれ」
そして、一歩ズイと進むと
「あと、ストールも頼もうか」
と、付け加えた。
「サクラ様。宜しければ夜風にでも当たりませんか?」
「そうね」
サクラと塚本はバスルームからほど近いバルコニーへと向かった。
鋳物のガーデンテーブルの上には既にハーブティーが入ったポットが置いてありその傍らにはメイドが待機していた。
塚本とサクラの存在に気が付くとメイドは椅子を引いた。
「どうぞ」
塚本はサクラを椅子へと促す。
「塚本さんもどうぞ」
ガーデンテーブルに備えられてる椅子は四脚。長くなりそうな予感の話題にサクラは彼を気づかって余った椅子へと促した。
塚本の切れ長の目が一瞬驚いたような迷ったような感じで丸くなるが、一旦その瞳を閉じると自ら椅子を引きサクラの対面へと座った。
それとほぼ同じくしてメイドによってハーブティーが出てきて彼女の肩にストールがかけられる。
「塚本さんはおケイちゃんの下でいつから執事をしているの?」
ティーカップに手を付けたサクラが話しかけた。
「そうですね…」
塚本はそう呟くと顎に右手を添えて視線を宙にさ迷わせた。
「私が生きていた頃は日本は戦争の真っ只中でした」
そしてゆっくりと語り出した。
「その頃の日本はとにかく物不足で…」
塚本の語り口は何か悔しさを滲ませるような感じだった。
「体の弱いお嬢様が生きていくにはそれは大変な時代でした」
「そう」
サクラは短く相づちを打つとティーカップに手を添える。
「お嬢様は養生の為にこちらの屋敷に度々訪れておりまして、その時にヨシ様とお知り合いになられました」
「そうなの」
「今の快活な彼女からは想像もできないかもしれませんが、彼女は看護師でよくして頂きました」
「ヨシが看護師…」
意外な事実を知ったサクラは思わず夜空を見上げた。




