①
「このままではワタクシとしても気持ちが収まりませんわ。
おケイはそう言うとヨシとサクラが座っている四人がけのテーブルに背を向けた。
そして胸元のサングラスを手にとりながら
「明石海峡大橋をワタクシより先に渡り切ればソフトクリームの御礼にディナーを御招待いたしますわ」
とサングラスをかけながら振り向きざま言って二人の前から立ち去った。
サクラとヨシは思わず顔を見合わせる。
「サクラ。これは負けられないね」
「いや、そんな鼻息荒く言われても。第一バイクは私が運転するのよ」
「いやいや何とかなるっしょ」
「んもう。気安く言わないでよ」
「お二方!早くしてくれませんこと」
「悪ィ!すぐ行く。ほれサクラ行くよ」
ヨシはおケイにそう言いながらサクラの腕を掴んだ。
「ったく。人使い荒いんだから」
サクラはボヤキながら席から立つとニンジャが停めてあるスペースへと向かった。
パーキングエリアの端にあるバイクの駐輪スペース。
駐車場内にある歩道を二メータ程えぐりそこにバイクが十台位止められるようになっている。
今日は平日なのでバイクの台数はまばらな為、サクラの駆るGPZ900Rニンジャは余計に目立っていた。
そしてそれを助長するかのようにおケイのZ3がアイドリング状態で傍らにいた。
「ったく。あちらさんはまだまだやる気満々ね」
サクラは吐き捨てるように言うとその駐輪スペースからバイクを引っ張りだした。
「よろしい事。合流したところでスタートよ。それまでワタクシの後ろを付いてなさい」
おケイはドライバーズシートからそう言い放つとドアウィンドウを上げた。
「ハイハイ」
サクラもそう言うとバイクに乗る為の準備をはじめた。
サクラはエンジンを起動させるとアクセルを二、三回煽った。おケイに準備ができたという合図だ。
彼女はそれを察するとZ3をゆるゆると発進させた。
広大な敷地のほとんどが駐車場であるサービスエリアの縁にそってある出口への誘導路。そこをまるでピットエリアを通るかのように二台の車と単車がつるみながら進んでいく。
そして合流車線。
自然吸気の澄んだエンジン音が突如響き渡る。おケイのZ3はアクセルを一気に踏み込んのだ。
それに合わせてサクラのニンジャも野獣の咆哮を放つ。
相反する二つの排気音が交じり合いながら合流車線を加速していく。
そしてスピードが十分にのると本線に、二台のいや…、二匹の野獣は檻から放たれたように車列へと突っ込んで行った。
「ったく。強引な車線変更ね」
サクラはメット中で言い放つと一段ギアを落とした。タコメーターの針は意思を持つかのようにパワーバンドに突っ込んでいく。
「ローリングスタートならバイクのアドバンテージは低いはずよ」
おケイはそう言いながらパーシャル状態のアクセル開度からグッと一気に全開状態までスロットルを開けた。ガクンとした軽い衝撃の後にZ3はさらに車速をあげていく。
放たれた矢の如く二台は猛烈なスピードで高速道路を駆けていく。
明石海峡大橋まで10キロ弱。狂気のレースは再び再開された。
が、その勝負はあっけなくついた。
「そんな…。ワタクシのZ3が全く歯が立たないなんて…」
おケイはボンネットに両手を付きながら呟いた。
「だーからすり抜けのできるバイクに勝負を挑んでくるからそーなるの」
その後ろからヨシが勝ち誇ったように言い放つ。
「いや、てかバイク運転してたの私だし」
更にその後ろからサクラがポツリと言い放つ。
三人は既に四国におり鳴門のサービスエリアにいた。
「しかし約束は約束です。今晩のディナーはワタクシがおもてなしいたしますわ」
そう言うとクルリと振り向きZ3の運転席へと身体を向けた。
「おほほ~。タヌキの令嬢に吠え面かかせた挙句、晩飯にありつけるなんて盆と正月が一辺にきたみたいだわ」
ヨシは小躍りしながらサクラの方を向く。
「なんだかちょっと悪い気がするわねぇ」
サクラはそう呟くようにいうとニンジャのシートに腰を落とした。




