⑧
第二次世界大戦。太平洋戦線では日本軍機が猛威をふるっていた。
長大な航続距離をいかして神出鬼没に現れ、神技のような技量で不可能なミッションを成し遂げる。
世界はその活躍に対抗する術は持ち合わせてはなかった。
命中率90%を誇る九九艦爆の搭乗員は太平洋からアメリカ艦隊を一掃した。
海面擦れ擦れから魚雷を放つ一式陸攻はイギリスの極東艦隊を壊滅においやり、名機。零戦は太平洋の空を支配した。
「忌々しい」
もはやどうしようもない状態におケイは思わずZ3のステアリングを握り拳で叩き付けた。
右手に走る痛みに少しだが自分を取り戻すとその手で髪を掻き上げた。
「ふん、まだ明石大橋があるさ」
そうつぶやくと深呼吸をして前を見据えた。
「ほぇー。あっという間に見えなくなったねー」
リアシートからヨシの気の抜けた声がサクラの耳に入る。
「ふん、すり抜けの出来るバイクにバトルを仕掛ける方が間違っているのよ」
サクラは鼻息荒く言い返す。
「まー、何はともあれ事故んなくてよかったよ」
ヨシはそう言うとサクラの腰に回していた両腕を自分の後頭部に組みなおした。
バイクは既に周りの車の流れに合わせて緩々と走っていた。サクラは念入りにミラーで後方を伺うと
「彼女の腕でも流石に追いつけないみたいね」
と、少し安心したような残念なような声を出した。
「ちょっと休もうよ」
ヨシはそう言うとサービスエリアの看板を指差した。
「そうね」
サクラはそう答えるとサービスエリアの分岐にバイクを寄せた。
偶然であるが彼女達が滑り込んだサービスエリアは大型でそれなりの台数の車やバイクが止まっていた。
サクラはニンジャを駐車スペースへと止める。
ズロロと図太い排気音を響かせる彼女のマシンは少なからず注目を浴びてしまった。
「んー。やっぱり女だてらにヘビーチューンのニンジャ転がしてると悪目立ちするわね」
サクラはメット越しに周りの様子を伺った。
「まー、私の姿も見えてるし」
「は!?」
サクラは頓狂な声をあげると転がるようにバイクから降りてヘルメットを脱いだ。
「って言っても耳と尻尾は妖力で隠してるからダイジョーブっと」
ヨシもそう言うとヒョイとリアシートから降りた。
「さてさて関西出汁のウドンを食べなきゃね~」
唖然というか?呆然とするサクラをよそにヨシは足取りも軽やかにフードコートへと向かった。
「ふぃ~満腹~」
それはヨシが丁度ウドンを食べ終え、余韻に浸ってる時だった。
「相変わらずおバカな面構えだこと」
と例の減らず口が彼女の耳に飛び込んできた。
ヨシはゆっくりとその声のする方に視線を向けるとテーブルを挟んで正面におケイが立っているのが見えた。
今日は車を運転する為か?いつものフリフリのスカートではなくパンツルックにブラウス。その胸元には先程掛けていたサングラスが引っ掛けられていて、少々大人びて見えた。
「ま、吠え面かいてた人に言われる筋合いはないわね」
ヨシは少々見下す感じで言い放つと、椅子の背もたれにふんぞり返って斜に構えて足を組んだ。
「ふん。あの後事故渋滞が発生してとんだ足止めを喰ったのよ」
「もうちっとまともな嘘はつけねーのかよ」
ヨシはピシャリと言うとプイっと顔をおケイから反らした。その時だった。
「あれ?あなたZ3の」
邪険な雰囲気漂う二人の間にサクラの声が割って入るがその声色に緊張感はなかった。
「まだ、勝負は終わってないわよ」
おケイはそう言い放つとプイとサクラから視線を外した。
「そうね。ところで車運転してると甘いもの欲しくならない?」
「はい?」
サクラの突然の申し入れにおケイの目が点になる。
「ちょっと待ってて」
そう言うとサクラはそそくさとその場をあとにした。取り残された二人は横目にお互いを見合う。
「…」
不意に訪れる沈黙。周りの謙遜がその沈黙の隙間を埋める。
暫くすると慎重な面持ちでトレイを持つサクラが現れた。
トレイの上にはソフトクリームが三つ載っていた。彼女はそれをテーブルの上に置くと一つを取りおケイに手渡そうとしたが。
「ワタクシ。アイスクリンはパティシエが作ったの以外口にしませんの」
と、ツンと澄ました表情を示したがその目はソフトクリームと宙を行ったり来たりで口角は緩んでいた。
「いらないなら私が食べちゃうけどねー」
そう言ってヨシは既にソフトクリームに口を着けていた。
「あー!」
サクラはヨシのそれを見て叫ぶと手持ちのソフトクリームをおケイの手に握らせ、トレイに残っているソフトクリームに飛びついた。
「あんたみたいに食い意地張ってるヤツの目の前に放置はできないわ」
そう言うとガブリとソフトクリームをほうばった。
「しょ、しょうがありませんわね。こうなってしまっては呼ばれない訳にはいきませんわ」
そういうおケイだが、その口元は緩んでいた。




