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「やっぱツアラーは高速よね」
サクラの駆るGPZ900Rニンジャ。そのマシンは今高速道路の上にいた。慣れない土地を走ってまた違反切符を切られる位なら、その分を高速代に当てたほうが有意義だ。
そう思ってサクラは手近な高速道路のゲートを潜った。
「これで四国までひとっ飛び~」
リアシートのヨシは相変わらず浮かれている。
「ん。ハイビーム?」
サクラはミラー越しに感じたヘッドライトのハイビームの正体を探ろうと目をせわしなく動かした。
「ねー?どうかしたの」
「高速でハイビームったら大概がパトカーなの」
サクラはうんざりしたような口調でヨシの質問に答えた。
ミラーの隅に見えたハイビームの光点は徐々にでかくなりそれはアッという間に彼女達の乗るバイクに迫ってきた。
「!」
サクラはそのハイビームから違和感のような強烈なプレッシャーを感じた。
ちがう!パトカーとかじゃない!?
そう感じた刹那だった。ズオッという空気を押しのけるような音を発しながらそれは遂に自分達のバイクの隣に来て並走を始めた。自然とそちらに顔を向ける。
魚類のエラ思わせるような独特なサイドグリル。両生類のような流線的なフォルムが目についた。オープンカーのコンバーチブル。
運転席にはサングラス姿で黒髪ロングをなびかせる女性がいた。助手席には誰もいない。
しかし、どう見ても彼女は免許証を持っているようには見えない。小学生まがいの幼い容姿。
運転席側のドアウィンドーが降りていく。
「ごめんあそばせ」
彼女はそう言うとかけていたサングラスを額にカチューシャのようにあげた。
丸い大きい瞳だが目尻はキリリとしていた。
そして頭頂部にヨシとは違うが動物の耳の様な物があった。それは彼女とはちがい丸っこかった。
「あー!!」
ヨシが声をあげる。その声に釣られるようにサクラも何かを思い出した。
「メッサーシュミットの!」
そう言われた彼女は「ふん」とあごをしゃくった。
「名機メッサーを振り切ったものがどんなものか見てみれば、薄汚れたバイクね」
そう続けざまに言い放つと肩をゆすり、左手を口に当てクスクス笑い小馬鹿にするような態度をとった。
「なんですって!」
サクラの血の気が一気に跳ね上がる。
「どう?ワタクシのZ3とどちらが早いか四国まで勝負しませんこと?」
「ハッ!車がバイクに勝てると思ってるの?」
「あははは!面白い事をおっしゃる方ね。薄汚れたマシンで付いてこれるのかしら?」
「うるせーおケイ!!御託ならべてねーでコイや!オラァ!!」
リアシートから突然吠えるような声で叫ぶヨシ。
「プッ。その下品な同乗者は安い挑発しかできないみたいね」
おケイと罵られた、一見小学生まがいのタヌキの令嬢。彼女に動揺は見られない。微笑を口元にたたえて額にあるサングラスをかけ直す。
それと一緒にドアウィンドウも上がっていく。
一瞬だが血潮が滾る感覚をサクラは感じた。しかしその熱い感覚はスッと潮が引くように冷めていく。
「大丈夫」
心の中で呟くと自分の置かれた状況を把握した。
只今、巡航速度・おおよそ時速100キロ。六速4000回転か?
機械的にギアを二段落とす。野獣が浅い眠りから覚めるように「ガォッ」とエンジンの雄叫びが上がると、タコメーターの針はハネ上がり、リアタイアがそのトルクを受け止めて軋み歪む。
大パワーを発するニンジャの心臓部。それを抑え込むフレーム。彼女の股下からせり上がってくる熱気。
そのマシンはブルブルと身を震わせながも矢のように進んでいく。
サクラはチラとミラーで後ろの様子を伺った。タヌキのおケイが乗るBWM・Z3の姿はもうなかった。
「ミラーのシミになったか?」
と、思ったその時だった。
「ちょっと横!横!」
ヨシの叫び声が耳に飛び込んできた。サクラはヨシが向けてる方に首を振る。
「もうお終い?」
Z3のコクピットからは涼し気な顔でこちらを伺っているおケイがいた。




