④
曲がりくねった海岸線。そこにわずかではあるがそのうねりが緩くなるポイントがある。
俗に言う高速コーナー。ゆるく長く続くその海岸線は直線とあまり変わらない。勝負の行方はその高速コーナーが鍵だ。
あっという間に五速全開。サクラの駆るニンジャは限界を迎えようとしていた。残るギアはあと一段六速のみ。それ以上はなくスピードの限界が訪れる。
その時だった。空気を切り裂く不気味な音が彼女達の頭上を過ぎ去った。赤く光りながらそれは矢のように通り過ぎると道路に突き刺さり爆炎と轟音を発した。
「20ミリ!?」
サクラは叫ぶ。
「思い知れマウザー砲の威力!」
嬉々として操縦桿にある機銃の発射ボタンを押すメッサーシュミットのパイロット。
プロペラ軸に装備されている20ミリ機関砲が火を吹く。
「これならどうだ!ダイレクトヒットしなくても至近弾で終わりだ!!」
グングン高度落としながら間合いを詰めていくメッサーシュミット。
そして緩やかなカーブの先に舞い上がる爆炎と砂埃。
「あんなの当たらなくてもヤバいじゃない!」
サクラの駆るニンジャはその叫び声と共に舞い散る砂埃を切り裂いた。
「けほっけほっ」
リアシートのヤツが咳き込む。
「どこかに隠れるところは!」
もはや正攻法で勝てる相手ではない。 相手は大砲のようなものを放ってくる。サクラは前方に見える視界、スピードで歪む景色の中に答えを求めた。
「あそこ!」
闇夜に浮かび上がるオレンジ色の光。トンネルの入口だ。
そこを目指してサクラはギアを掻き上げた。遂にファイナルギアの六速。一瞬車速は落ちるもののスピードメーターの針は刻まれた目盛りを這い上がっていく。
「くくく、もがけもがけ」
メッサーのパイロットは圧倒的なアドバンテージを前に口元をいやらしく歪める。
リフレクターサイトに浮かび上がる照準環。中央にサクラとヨシの乗るニンジャを遂に捉える。
「終わりだ」
そう呟くと冷静に機銃の発射ボタンを押した。カチリとした押しごたえの後に、プロペラスピナーの先端から赤い発砲炎が吹き出る。
そしてそれは道路の上を爆炎で舐めていく。
「わーーーっ!!」
ヨシが背後に感じる圧力に思わず叫んだ。
「ちょっとあまり強く抱き着かないで!」
サクラもそれにつられるように叫び声をあげた。
20ミリ機関砲の爆炎が前方に巻き上がる。サクラは反射的にタンクの上に身を伏せた。
舞い散る粗い砂埃が激しくバイクと身体に叩き付けられる。しかし、その砂埃の嵐は一瞬で止んだ。そうトンネルの中に入ったのだ。
「チィッ!運のいいヤツめ!」
メッサーのパイロットはそう吐き捨てるように言うと操縦桿を目一杯引いた。
サクラ達の入ったトンネルの山肌すれすれ、這うようにメッサーは上昇していった。
「やった!」
サクラは思わず戦闘機をかわした喜びを声に出したが、それは一瞬で終わった。そのトンネルは長くなかった。
ほんの僅か数十メートル位だろうか?自動車が十台位あれば溢れてしまいそうな長さだ。声が出そうになったがそれはナゼか喉の奥につかえてるような感じで声にならなかった。
「~~~~~~~~~!!」
しかし、それとは逆に身体は機敏に反応した。アクセルオフ。クラッチを切ってギアを一段落とす。ギャインという唸りをあげエンジンはバックトルクを発生させリアタイアと路面に抵抗を生み出す。
俗に言うエンジンブレーキ。
それはギアを落とせば落とす程強力になっていく。
五速、四速、三速、二速。
リアタイアがキュキュと悲鳴をあげる。マイナスGが首に肩にのしかかる。
しかしマシンはまだその勢いを治めない。
トンネルの出口は迫ってくる。出口には先ほどのメッサーシュミットが手ぐすねを引いて待っているに違いない。サクラは本能的にフロントブレーキを渾身の力で更に握りしめた。
ノーズダイブ。身体がマシン前方に押しやられる感覚。リアブレーキを踏んでいる右足の腹が、何か擦り付けるような感触に襲われる。リアタイアが滑り始めたのだ。そしてそれはズズーと前方にせり出してくるような感じを放ち始めた。
マシンの挙動は出口に対して斜めになった。
「くぅ」
サクラは悶絶したような声を漏らすがその身体はマシンを尚も制御しようと左脚を突き出した。大きく車体をバンクさせながらも横滑りの状態でニンジャはスピードという慣性を殺し続ける。
「どうりゃー!!」
サクラの叫び声と共にニンジャは遂に止まった。
トンネル内に盛大なブラックマークを付けて。




