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転生したら処刑7日前の悪役令嬢でした。逃げるにはもう遅いので、犯人を探します  作者: ローナ


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消された伝言

「わたくしは、そんなことを言っておりません」


夕刻、再び呼ばれたマルトは、戸口に立つなりそう言い切った。

頬に赤みが差している。怒っているのだ。


「蜂蜜を捨てろなど、誰にも申しておりません。今朝は使用人棟から一歩も出ずに、呼ばれるのを待っておりました。同室の者が証人です」

「下働きの娘は、あなたに言われたと証言している」

「でしたら、その子をここへ呼んでくださいませ。わたくしの前で、同じことを言わせてください」


ジルベールは、廊下の騎士に目で合図した。


連れてこられたのは、まだ十三か十四の痩せた娘だった。名前はニナ。

騎士と侍女と、断罪された令嬢。その全員に見つめられ、ニナは今にも泣きだしそうな顔で前掛けを握りしめている。


「ニナ」


できるだけ、柔らかい声を出した。

喉が痛んで、思ったよりかすれてしまったけれど。


「怒っているわけじゃないの。今朝のことを、そのまま教えてくれる?」


ニナは、私の首の傷を見て、びくりと肩を震わせた。

それから、小さな声で話しはじめる。


「あ、朝、厨房に行ったら……配膳室の伝言板に、書いてあったんです。『お嬢様の蜂蜜、もう不要。壺を洗って中身は捨てること。マルト』って」

「伝言板?」

「配膳室の扉の横の、黒い板です。白墨で、みんな用事を書いておくんです」


ジルベールが、ペンを止めた。


「さっきは、マルトに言われたと言ったな」

「だって、マルトさんの名前が書いてあったから……マルトさんに言われたのと同じだと思って……」


ニナの目に、涙がたまっていく。

マルトが、唇を強く噛むのが見えた。


「その伝言は、今どこにある」

「……消しました。用事が済んだら消すのが、決まりなので」


「ニナ、その字は、いつものマルトの字だった?」


私が尋ねると、ニナはおずおずと首を振った。


「わ、わたし、字はあんまり読めなくて……。毎朝、名前のところだけ見て、誰の用事か覚えるんです。マルトさんの『マ』の字は、知ってるから」


つまり、誰が書いても同じだったということだ。

名前さえ合っていれば、ニナは疑わない。


部屋に、重い沈黙が落ちた。


   *


ニナが下がったあと、マルトは私をまっすぐに見た。

今日初めて、彼女が私の目を見た気がする。


「わたくしは、伝言板に名前だけを書いたりいたしません。用件と時刻と、名前を全部。侍女頭にそう教わりましたから」

「でも、それを確かめる方法はない」


ジルベールの声は、冷たくはなかった。ただ、事実を並べているだけだ。


「伝言は消えた。誰が書いたのかはわからない。あなたが書いたという証拠もなければ、書いていないという証拠もない」

「……そうでございますね」


マルトは、深く頭を下げた。

その肩が、かすかに震えている。


私はとっさに、口を開いていた。


「マルトが書いたのなら、わざわざ自分の名前を残すかしら」

「自分の名前を書いておけば、疑われたときに『そんな馬鹿なことはしない』と言える。そう考える人間もいる」


ジルベールは、私の反論をあっさり退けた。

悔しいけれど、間違ってはいない。


「どちらにせよ、誰かが蜂蜜を急いで処分したがった。それだけは確かだ」


彼がそう言うと、マルトは何も言わずに部屋を出ていった。

扉の向こうで、彼女の足音が一度だけ止まり、それからまた遠ざかっていく。


   *


日が暮れると、見張りが交代した。


夜番に立ったのは、栗毛の若い騎士だった。年は二十を少し過ぎたくらい。人懐っこそうな顔で、廊下から私に会釈をする。


「ルネと申します。今夜も扉の前におりますので、何かあればお声がけください」


昨夜、この扉の前に立っていた騎士だ。

私は寝台を降り、戸口まで歩いた。


「ルネ。昨夜のことを聞いてもいい?」

「は、はい。ロシュ卿にも何度もお話ししましたが」

「あなたは、一晩じゅうここに?」

「はい。一度も持ち場を離れておりません。夜明け前に物音がするまで、廊下側の扉は誰も通っていません。誓って」


ルネは胸に手を当てた。

言葉に淀みはない。むしろ、何度も練習したように、なめらかだった。


「眠くはならなかった?」

「騎士ですから。それに昨夜は、ロシュ卿が詰所にいらっしゃいましたし、居眠りなんてしたら首が飛びます」


ルネは冗談めかして笑い、すぐに私の首の傷に気づいて、気まずそうに口をつぐんだ。

悪い人には見えない。けれど、私の質問に答えるとき、彼は一度も私の目を見なかった。


廊下側の扉を、誰も通っていない。

なら、あの夜、寝台のそばにいた誰かは、続き扉から入ってきたことになる。


「ロシュ卿」


廊下の奥にいたジルベールに、私は声をかけた。


「小書庫には、ほかに出入り口があるんですか」

「使用人用の裏階段に通じる扉が一つ。厨房にも、使用人棟にも降りられる」


それは、つまり。

使用人なら、誰でも小書庫を通って、この部屋の続き扉までたどり着けるということだ。

クロードが帳簿から目を離した、ほんの少しの隙に。


疑うべき人間の数が、また増えてしまった。


   *


夜が更けても、私は眠らなかった。

燭台を一本だけ許してもらい、窓辺の床を照らす。


破片を片づけた誰かは、急いでいたはずだ。

縄が切られてから、侍医が来るまで。騎士たちが出入りし、クロードが私を抱えていた、あの短い間に。

慌てて拾ったのなら、見落としがあってもおかしくない。


寝台の下。化粧台の脚の陰。暖炉の灰受け。

四つん這いになって、一つずつ確かめていく。首の傷が引きつれて、何度も息が止まりそうになった。


「何をしている」


戸口から、低い声がした。

ジルベールだ。いつからそこにいたのか、腕を組んでこちらを見ている。


「探し物です」

「夜中に床を這い回るのが、監視対象のすることか」

「処刑まで、あと七日しかないんです。眠っている暇はありません」


ジルベールは、何も言わなかった。

部屋に入ってくると、私の手から燭台を受け取る。取り上げられるのかと思った次の瞬間、彼はそれを、床に近い高さまで下ろした。


「破片を探しているのなら、光は低く当てろ。影が伸びて、小さなものが見つけやすくなる」

「……手伝ってくださるんですか」

「見ているだけだ。あなたが見つけたものを、隠したり捨てたりしないように」


そう言いながらも、燭台を持つ手は動かない。

灯りが、床の木目をくっきりと浮かび上がらせた。


私は窓辺の厚いカーテンの裾に手を伸ばした。

重い布地の折り返しが、床に溜まるように垂れている。その襞を、一枚ずつめくっていく。

一枚目、二枚目。埃が舞うだけで、何もない。


三枚目の襞の奥で、指先に硬いものが触れた。


ジルベールが、燭台を近づけた。

白磁の小さなかけら。親指の爪ほどの大きさで、ゆるやかに湾曲している。器の底の一部だ。


そして、その内側には――白い粉が、乾いてこびりついていた。

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