表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
明石・星空時計の十日間  作者: 明石竜


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
4/13

第四話 同じ今、ちがう時刻

 七月二十五日の午後、わたしたちは天文科学館の展示室に集まった。

 三つ目の謎は、時差だった。

「明石は東経百三十五度やろ。世界の基準になる経度から、九時間ずれてるんよ。グリニッジを通る線が、経度ゼロ度。そこから百三十五度離れてるから、九時間差になる」

 世界地図の前で、ソラはいつものように得意げに説明した。

「うん、それは前にも言ってた」

「ほんで、明石が今、昼の三時やったら、グリニッジは朝の六時。同じ瞬間でも、時刻が違うんやって」

 わたしは、頭では理解できた。けれど、「同じ瞬間なのに、違う時刻」という言葉が、どうしても実感としてつかめなかった。今は今のはずだ。それなのに、場所によって、その今を表す数字が違うなんて、変な感じがする。

「同じ月を見てても、向こうの人は、違う日付かもしれへんで」

「それ、もっと分からない」

「でも、それって、ほんまに同じ瞬間って確かめられるん?」

 ナナが聞いた。

「何が?」

「明石で三時に撮った写真と、海外で四時に撮った写真。送られてきた時刻が違ったら、同時に撮ったか分からへんやん」

 わたしは答えに詰まった。

 時計に表示された数字が違うことを確かめたいのに、その時計を使って「同じ瞬間」を決めようとしている。考えてみれば、少し変だった。

「じゃあ、どうやって同じ瞬間だと確かめる?」

 美月さんが尋ねた。


 わたしたちはしばらく考えた。

「通話をつないだまま、合図したら?」

 ナナがスマートフォンを持ち上げた。

「わたしが手を振った瞬間に、向こうでも時計を映してもらう。少し通信の遅れはあるかもしれへんけど、別々に写真を撮るより、同じ瞬間やって分かりやすいやろ」

「でも、今すぐ通話できる相手なんているの?」

「シドニーにおる従姉に聞いてみる。夏休みやし、たぶん家におると思う」

 ナナがメッセージを送ると、しばらくして返事が来た。今なら通話できるらしい。

 画面に、ナナの従姉の顔が映った。その後ろには、明石とは違う部屋の景色が見える。

『時計を映したらええの?』

「うん。こっちも時計を映すから、同時に見せて」

 ナナは、天文科学館の壁時計が画面に入るようにスマートフォンを構えた。従姉も、部屋の時計へカメラを向ける。

「せーの!」

 二つの時計が、同じ画面に並んだ。

 明石の時計は、午後三時を指している。

 けれど、シドニーの時計は、午後四時だった。

「ほんまに、一時間ずれてる……」

 ナナが画面を保存した。

 わたしは、そこに並んだ二つの時計を何度も見比べた。同じ瞬間を映しているのに、針が示す数字は違っている。

「今」は、ひとつしかない。

 けれど、その今を表す時刻は、場所によって違う。

「どうして同じ瞬間なのに、違う時刻になるんですか」

 わたしが尋ねると、美月さんが、地球儀と懐中電灯を用意してくれた。

「その理由を、地球の動きから考えてみましょうか」

 美月さんは地球儀をゆっくり回しながら、懐中電灯の光を当てた。光が当たっている面が昼、当たっていない面が夜。地球儀がくるりと回ると、さっきまで光の中にあった場所が、影の中へ入っていく。

「光は止まっているのに、地球が回っているから、同じ瞬間でも、場所によって昼と夜が分かれるの」

「日本が昼のとき、地球の反対側は夜……ってことですよね」

「そう。太陽が見える時刻は、場所によって違うでしょう。だから世界中で同じ数字の時刻を使うのではなく、地域ごとに標準となる時刻を決めているの」

 わたしは、地球儀をぐるぐる回しながら、何度もその仕組みを確かめた。光が当たる場所と、影になる場所。その境目が、刻一刻と移っていく。

 今までずっと、時刻というものは、世界中どこでも共通の、絶対に動かないものだと思っていた。けれど、それは違った。

 同じ今は、世界中につながっている。

 けれど、時刻は、それぞれの場所で暮らす人たちが、同じ時間を分かち合うために決めた基準なのだ。

 時差についての観測を終えたあと、ノートに新しい言葉が現れた。


 ずれない時計を探すな。

 ずれを直す人を探せ。


「時計を直す人やったら、心当たりあるで」

 ソラがそう言って、得意そうに笑った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ