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後悔を断ち切る一矢


剣閃が閃く。


エルディアスは、戦場の喧騒の中で剣を振るうファリオンの姿を見つめていた。

迷いなく前へと進み、次々と敵をなぎ倒していく。

その動きには、一片の迷いもない。


(やはり、俺とは違う)


胸の奥に、じくじくとした痛みが広がる。

それが嫉妬であることはわかっている。ファリオンが持つ強さ、勇気、決断力――自分には欠けているものだ。


そして、心のどこかで羨望を抱いた瞬間、強い嫌悪感が押し寄せる。

そんな資格、自分にはない。


――あの日、俺は動けなかった。

ファリオンのように、一歩を踏み出す勇気がなかった。

だから、オルドに襲われたファリオンを助けることもできなかった。

恐怖に縛られ、足がすくみ、ただ見ていることしかできなかった。


その結果、イグニスを救えなかった。


もし、あの時、自分にファリオンのような勇気があれば――。

何度そう考えたか分からない。そのたびに、後悔が胸を締めつける。


(俺はなんて情けないんだ……)


拳を握る。

ファリオンに嫉妬する資格なんてない。

強く、真っ直ぐな兄に比べて、俺はただの臆病者だ。

 

「なぜそんなにもファリオンと自分を比べるんだ? エルディアス。」

 

不意に、懐かしい声が脳裏に蘇る。

イグニスの声。


それは、かつての自分に向けられた言葉だった。

何をしても兄に敵わず、ふて腐れていた自分に、イグニスは穏やかに語りかけた。


「自分をもっと受け入れてやれ。」


あの時のイグニスは、ただの慰めで言ったのではない。

他者と比べるのではなく、自分自身を信じろ――

そう伝えたかったのだ。


わかっているんだよ、イグニス……。


だけど、どうしてもファリオンの光は眩しすぎる。

その強さも、その決断力も、その存在すべてが、俺の目を眩ませる。

憧れと嫉妬が絡み合い、どうしようもなく心を掻き乱す。

 

そして、そんな感情を抱いてしまう自分に、さらに嫌悪する。

 

――その時、地響きが鳴った。


エルディアスの思考が断ち切られる。視線を上げると、ミノタウロスが咆哮を上げながら巨体を揺らし、こちらへ突進してくる。

漆黒の瞳が、まっすぐエルディアスを捉えていた。


(……恐怖に怯えるだけだったあの頃から、俺はどれだけ変われた?)


ミノタウロスの巨大な腕が振り下ろされる。

しかし、エルディアスは咄嗟にそれをいなし、一気に懐へと踏み込んだ。


瞬間、彼の掌に黒い光が渦巻く。

――闇の大弓が、形を成す。


ミノタウロスの目が驚愕に見開かれる。


射手アーチャーは接近戦が苦手だって決めつけるなよ。」


至近距離から矢が放たれ、喉元を貫いた。


ミノタウロスの巨体が、最後の一歩を踏み出そうとするが――力尽き、轟音と共に崩れ落ちた。


ドォォォン!!


轟音と共に、巨体が地に伏した。砂煙が舞い、一瞬、周囲の喧騒が遠のく。


その遥か向こう――白金の髪が輝く。

ファリオンがカリスを振るい、鮮やかに敵を斬り伏せる。


彼の戦いは、豪快で、力強く、戦場を圧倒するものだった。

――だが、俺は違う。

俺の戦いは、研ぎ澄まされた狙いと、一撃必殺の精度で決めるものだ。


その背後、数体のミノタウロスが迫っている。


(左後方から3体、右側面から2体……)


アンバー色の瞳が、敵の動きを計算し、最適な狙いを定める。

 

エルディアスは大弓を引き絞った。


空間が歪むほどの勢いで放たれた矢は、途中で分裂し――


ズバッ!!


ミノタウロスたちの心臓を正確に貫いた。


戦場に、一瞬の静寂が訪れる。


ファリオンが咄嗟に振り返る。

驚いたように目を見開き――そして、すぐに微笑んだ。


「助かった!」


その一言が、エルディアスの胸に深く刻まれる。

ファリオンは短く頷くと、すぐに戦場へと駆けていった。

エルディアスはゆっくりと息を吐く。


(……今度こそ、俺は――。)


戦場の喧騒が再び響く。

エルディアスは、大弓を握り直し、次の戦いへと向かった――。

 

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