(117)エルフと抱擁
俺はカナを無理やり抱きしめ、そして自分の視線の先にいるフィリアに目配せをする。フィリアは察してくれたのか、こくんと頷いて、両手を満月に向けて掲げる。
すると、淡いピンク色を放っていた桜貝たちが、金色の光を放ち始め、その光がゆっくりとフィリアの体を包み込んでいく。
胸が締め付けられるような感覚だった。本当に、これでお別れなんだな、と俺は思わずにはいられなかった。
静かな波の音だけが耳に届く中、フィリアの姿が少しずつ光の粒へと変わり、消え去ろうとしていた。
「ありがとう…ユウトさん。」
フィリアの声が穏やかに響く。その一言に込められた感情が胸に突き刺さり、俺は堪えきれず、ぎゅっと夏菜をもっと強く抱きしめた。
「え、ちょっと!ユウト!ど、どうしたの!」
夏菜の戸惑い混じりの声が聞こえてくる。それでも、間違っても目を開けさせまい、フィリアの方を向かせないと、俺は夏菜を強く抱きしめ続ける。
ふと、淡い光になり始めていたフィリアがゆっくりとこちらに歩み寄ってくるのが視界の端に映った。
(え、ちょっと!バレちゃうって、こっちに来ちゃだめだ!)と焦りながら目線で訴えかけるが、フィリアは立ち止まらず静かに俺の方へ近づいてくる。
やがて、夏菜の背中越しに俺の目の前へと来ると、フィリアは柔らかく微笑みながら、その顔をふわりと傾けた。
次の瞬間、フィリアの柔らかい唇が俺の右頬にそっと触れる。
──え?
驚きで硬直している俺をよそに、フィリアは微笑みを浮かべたまま、金色の光に包まれていく。彼女の姿は、まるで風に消えゆく霧のように、月の光の中へと溶け込んでいった。
心の奥底にぽっかりと穴が開いたような感覚と共に、ただ見送ることしかできなかった俺は、満月の光が静かに輝く砂浜で、その余韻に浸り続けていた。
─
その時、夏菜は目をぎゅっと閉じたまま、心の中で暴走気味の思考を巡らせていた。
(え、これって…もしかして告白の流れ?雑誌にも書いてあった!夜のビーチはねらい目って!もしかして桜貝を集めるってのは口実で、こうやって私に告白するためにフィリアちゃんと一緒に仕掛けたドッキリ!?)
胸の鼓動は止まることを知らず、まるで心の中で嵐が吹き荒れるかのようだった。
(いやいや、でもフィリアちゃんが見てるし!けど、アタシたち親友ってよべるぐらい仲いいよね!それに、親友ならこういうの見ても…まぁ大丈夫、だよね?見られたとしても、何も変じゃないよね!?)
一度はそう思い込もうとするものの、微妙に納得しきれない。もどかしい緊張が身体中を支配していく。
さらに目をぎゅっと閉じ、夏菜はユウトの次の行動を待ち続けた。だが、その瞬間、ユウトが彼女をもっと強く抱きしめた感触が伝わる。
(む、胸!当たってるから当たってるから!ユウトの荒い息遣い、耳元で聞こえてるから!ちょっとくすぐったくて、けれどもなんだか恥ずかしくて、アタシ、どうすればいいの!?)
さらに鼓動は速くなり、彼女の思考はもう完全に暴走状態だ。
(これ…もしかして告白をすっ飛ばして、アタシにキスしてくれる流れ!?いや、どうしよう!心の準備とか、全然できてない!でも、今この状況で止めるとか無理だし!さぁ、来い!どんと来い!アタシのファーストキス、あんたに捧げてあげるんだから!)
自分の心の中の叫びを必死に押し隠しながらも、彼女の指先は微かに震えていた。緊張が身体中に広がり、待つ時間がやけに長く感じられる。
(…うぅ、まだ…まだなの…?)
期待に胸を高鳴らせながらも、現実には何も起こらず、彼女は困惑を隠せない。目を閉じたままの夏菜には、すでに状況が大きく動いていることなど知る由もなかった。
満月の光が静かに砂浜を照らし、フィリアが月の光の中に消えていく中、夏菜の心はその場の空気から切り離された独特の緊張感と高揚感で満たされていた。
この物語の本編は、異世界ファンタジー『愚痴聞きのカーライル 〜女神に捧ぐ誓い〜』です。ぜひご覧いただき、お楽しみいただければ幸いです。
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