第185話 アイシス・エディルブラウ
師匠に結婚の報告をしてから二年が経過し、とうとうおれは魔法学院を卒業した。そして、本日は結婚式を挙げる日。
おれは結婚式の会場の控え室で親友と雑談を交わしていた。
「改めて、結婚おめでとう、アーク」
「ああ、ありがとな、ミハエル」
「いやあ、それにしてもキミには驚かされるね。いずれ結婚するとは思っていたけど、まさかこんなに早いなんて」
「まあ、勢いというか流れでプロポーズしちゃったところはあるけどな。なんにしても、あのとき相談にのってくれたお前のおかげだよ」
「ハハッ、ボクは大したことはしてないし、礼には及ばないよ。これも全てキミがカッコイイからさ」
ミハエルはこともなげにそう言った。まったく相変わらずイケメンな奴だと思っていると、ドアからノックの音がする。
「新郎様、新婦様がお見えになりました」
「あ、入っていいですよ」
おれがそう答えると、一人の女性が入って来た。美しい純白のウエディングドレスを身に纏ったその女性の名はアイシス・エディルブラウだ。
「良く似合っていてとてもきれいだよ、アイシス」
「ああ、ありがとう。……おや、そこにいるのはミハエル殿か」
「お久しぶりです、アイシス様。本日はご結婚おめでとうございます」
「ありがとう。そういえば、君達は友人同士だったな」
そう言いながらこちらを見たアイシスにおれは言葉を返す。
「そう言うアイシスもミハエルとは知り合いなんだよな。ミハエルが経営してる有名な魔道具店で知り合ったのか?」
「いや、そちらでも顔を合わせたことはあるが、初めて会ったのは社交界の場だな」
「え、社交界?」
「ああ、そうだ。ミハエル殿はアシュフォード伯爵家の三男で、神童とまで呼ばれていた方だからな」
「えっ!? ミハエルって貴族だったの!?」
「れ、レインは知らなかったのか? す、すまない、なにか秘密にする事情があったのだろうか?」
おれ達がミハエルのほうを見ると、本人は楽しそうに笑みを浮かべている。
「おや、とうとうバレちゃったね。けど、大丈夫ですよ、アイシス様。別に、特別な事情があって秘密にしていたわけじゃありませんから」
「じゃあ、なんでおれに秘密にしてたんだ?」
「ハハッ、そんなの決まってるだよ」
ミハエルは口の前に人差し指を立てると、ウインクしながら口を開く。
「だって、秘密にしたほうがカッコイイからね」
「……ったく、お前らしいな。まあ、その通りだけどさ」
そんなおれ達のやりとりを見ていたアイシスが、申し訳なさそうな顔で話し始める。
「そういうことなら、やはり申し訳ない。私のせいでレインに秘密を知られてしまったわけだし……」
「いえいえ、問題ないですよ。というのも、秘密は他にもありますから。例えば、伯爵家の人間であるボクがなぜ魔道具店を営んでいるのか、とかね」
その理由はすごく気になると思ったところで、再びドアからノックの音がした。おれが入っていいと答えると、おれもアイシスもよく知っている三人組が入って来る。その内の一人が猛スピードでこちらに来てアイシスの両手を握った。
「会長、この度はご結婚本当におめでとうございます!!」
「会長殿、おめでとうございます!」
「おおおめでとうです」
「ああ、三人ともありがとう」
もうアイシスは生徒会長ではないのだが、今でもこの四人の関係は変わっていないようだな。変わっていないと言えば、シェーナ先輩は相変わらずのご様子だ。
「ああっ、それにしてもこの魔法学院で会長が結婚式を挙げるとはなんて素晴らしいんでしょう! 魔法学院の言い伝えにある通りお二人、いえ、皆様は末永く幸せになりますね! そして、いずれは会長とバーンズアークさんがあんなことやこんなことやそんなことを……! きゃあ~~~~~~~~~~!!」
「むっ、副会長殿が鼻血を出して倒れたぞ!」
「たた大変です!」
「これは別室に運んで休ませた方がいいですね。ボクも手伝いますよ」
「おや、ミハエル殿か、久しぶりだな! 協力感謝するぞ!」
そうやってみんながシェーナ先輩を別室に運んでいく途中で、アイシスがおれに話しかける。
「シェーナ君の様子が気になるから、すまないが私も一度外すよ」
「ああ、そういうことならおれも一緒に」
「駄目だ。君にはまだここで待つべき人がいるだろう」
「……それもそうですね」
こうして、おれは一人で控え室に残ることにした。




