第186話 サフィア・ラステリ-ス
おれ以外の人達が出て行き、賑やかになっていた控え室に静寂が訪れる。だが、その静かな時間は新たなノックの音で破られた。
ドアから入って来たのは二人の女性。その中でおれの目を引くのは美しい純白のウエディングドレスを身に纏ったほうであり、その女性の名はサフィア・ラステリ-スだ。
「良く似合っていてとてもきれいだぞ、サフィア」
「ええ、ありがと」
「レイン君の言う通り~、本当にきれいですよ~」
おれの言葉に、ルミル先生も同意した。どうやら、サフィアがこの控え室に来る途中でばったり会って、そのまま一緒に来たみたいだな。
「二人とも~、ご結婚おめでとうございます~」
「「ありがとうございます」」
「それにしても~、自分の教え子同士が結婚するなんて~、と~っても感慨深いですね~」
ルミル先生は嬉しそうに笑いながらそう言った。おれとしても、学院時代にお世話になった先生にこう言ってもらえて嬉しい限りだ。だが、笑顔だったルミル先生がなにやらクスクスと笑い出す。
「どうかしましたか?」
「あ~、すいません~。ふと~、最初の授業のことを思い出しまして~」
「最初の授業ですか?」
「はい~。あのとき~、お二人は先生の授業そっちのけでゲームをしてましたよね~」
「……そ、そんなこともありましたね。改めて、あのときはすいませんでした」
「いえいえ~、いいですよ~。ただ~、今にして思えば~、お二人は最初から仲が良かったんですね~」
「それは……、どうでしょうね?」
あのときは出会って間もないから、まだ仲が良いと言うほどではなかった気がするが。ただ、最初の授業であんなことになったということは、そのときから相性は良かったのかもしれない。
「そういえば~、お二人の馴れ初めってどんな感じなんですか~?」
「な、馴れ初めですか……」
「そ、それはさすがに恥ずかしいと言うか……」
ルミル先生の興味津々な言葉に、おれとサフィアは物怖じしてしまう。もちろん、おれ達が恋人になった日のことやプロポーズをした日のことははっきりと覚えているが、それを誰かに話すのはサフィアの言う通り恥ずかしい。
「う~ん、そうですか~。そういうことなら~、無理強いは良くないですよね~。それじゃあ~、初めて相手のことが気になった日とかはどうですか~?」
「そ、それくらいなら……」
「……まあ」
恥ずかしさがないと言えば嘘になるだろうが、サフィアのほうも一応はオーケーのようだ。
「おれのほうは本当に最初ですね。初めてサフィアの姿を見た瞬間、『ビビーン!!』と来ました」
「わ~、レイン君のほうは一目惚れだったんですね~」
「まあ、今にして思えばそうだったかもしれません。ただ、サフィアに運命を感じたのは間違いないですね」
「いいですね~、素敵ですね~。それじゃあ~、サフィアさんのほうは~?」
ウキウキ顔のルミル先生に視線を向けられると、頬を赤く染めたサフィアが照れくさそうに話し始める。
「……気になったってことなら、あたしは魔法学院の入学試験のときですね。レインを好きになったのは別のときですけど」
「そうなんですね~。入学試験で~、どんなことがあったんですか~?」
「あたし、あのとき機嫌が悪くてレインにひどい態度を取っちゃったんです。だけど、レインはそんなことを気にせず優しくしてくれたから、この人ってとても良い人なんだなって思って……」
「わ~、こちらも素敵ですね~」
そういえば、そんなこともあったなあ。まったく、今となっては懐かしい話だ。その後しばしの雑談を交わした後で、ルミル先生が口を開く。
「それじゃあ~、先生は他に挨拶しないといけない人達がいるので~、そろそろ失礼しますね~」
「あっ、あたしもお母さん達がそろそろ着くはずだからちょっと会ってくるわ」
サフィアとルミル先生が控え室を出て行き、再びおれはこの部屋の中で一人になった。




