第184話 ご報告と難題
おれがアイシスと一夜をともにした後の朝。
閉め切ったカーテンの隙間からわずかに日の光が差し込み、窓の外からはスズメがチュンチュンと鳴いている声が聞こえてくる。こんなに清々しくて幸せに満ちた朝を経験するのは三回目だなあ。
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とある日の休日、例の件のご報告をするためにおれは師匠の家を訪れていた。
「――というわけで、この度おれは三人の女性と結婚することになりました」
おれがそう報告すると、なぜか師匠は口をあんぐりと開いて固まっていた。
「師匠、どうかしたんですか?」
「………………え、あ、ああ。いやなに、アンタが誰かと結婚するってだけでも驚きなのに、まさか相手が三人もいるとはねえ……」
「いやだなあ、師匠ったら。おれみたいにカッコイイ漢の中の漢なら、三人の美少女と結婚するなんて当然でしょう。むしろ、三人とか少なすぎるのでは」
「ホント、どうしてこんな適当な男がそんなことになったんだか? もしや、この世界が滅亡する前兆だろうか……」
なんか、師匠がとんでもなく失礼なことを言っている気がする。というか、適当な男という発言について、おれは師匠に言いたいことがあるな。
「そういえば、聞きましたよ。おれのレインって名前はだいぶ雑な理由で決めたそうですね」
「おや、そうだったかねえ? どうも、最近は年のせいか物忘れが激しくて忘れちまったよ」
「まったく、なに言ってるんですか。師匠が年なのは最近じゃなくてもっと前から――」
おれの言葉に対して唐突に放たれた<旋嵐疾風刃>を、おれは<絶魔吸襲壁>を発動して吸収することで防いだ。なんか、こういうやりとりは懐かしいな。
「ったく、アンタって奴は女性に年齢の話はするなって言いつけをいつになったら守るんだか……」
師匠は怒り半分、呆れ半分というような表情でおれを見た。そんな話をするなら、師匠も自分が年寄りみたいな発言をしないように気を付けるべきだと思います、はい。
「じゃあ、報告は以上です。ただ、実際に結婚するにはおれが魔法学院を卒業してからなので二年くらい先ですね。もちろん、結婚式には呼びますのでちゃんと来てくださいね」
「そうだねえ、行けたら行くよ」
「ちょっと、それ来ないやつじゃないですか!」
「アハハ、冗談だよ。さすがのこのアタシでも結婚式には参加するさ。なんたって、自分の子どもの晴れ舞台だからね」
そう言って、師匠はニカッと笑った。もちろん、おれと師匠の血は繋がっていないのだが、そう言ってもらえると心にくるものがあるな。おれの心に温かい感情が広がるのを感じていると師匠、いや、この世界でのおれの母親が笑顔で口を開く。
「レイン、結婚おめでとう。幸せになりなよ」
「…………はい、ありがとうございます」
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せっかく帰ってきたので師匠の家で一晩を過ごし、翌日の朝。
「じゃあ、おれはそろそろ帰りますね」
「……ああ、そうだ。その前にひとついいかい?」
「はい、なんですか?」
「三人の女性と結婚するのはいいけど、結婚式は誰から挙げるんだい? 複数の相手と結婚したって話は何度か聞いたことがあるけど、結婚式は当然一人ずつが常識だよ」
「………………え?」
これは、思わぬ難題が突き付けられたな。普通に考えると恋人になった順番が正しいのか? それとも、相手の中に貴族がいれば身分の高い相手から優先するのがこの世界の常識なのだろうか?
おれがどうすべきか悩んでいると、師匠は呆れ顔でこちらを見ていた。
「まったく、アンタは相変わらず常識知らずだねえ。まあ、結婚式までは二年あるんだし、それまでによく考えときなよ」
「そうします……」
こうして、おれは言うなれば嬉しい悩みとでもいうべき難題を抱えることになってしまった。




