第168話 魔道兵器プリスアルマ
アイシスがプリスアルマとの戦いに臨んでいるころ、王都では――
「一回だけでいいから頼む! これは、男の夢なんだ!」
「…………そこまで言うなら分かりました。サフィアさんさえ良ければ、わたしはいいですよ」
「…………まったく呆れるわね。仕方ないから、あたしも付き合ってあげるわよ」
「やった! 二人とも本当にありがとう!」
「でも、これだとデートというより友達と遊びに行くって感じがしますよね?」
「そうね。彼女二人と同時にデートがしたいなんて、あたしにはよく分からないわ」
王都では、レインが彼女二人と一緒のデートを決定していた。これも、ある意味でダブルデートと言えるかもしれない。
*****
「<絶零氷柱槍>!」
アイシスが魔法を放った直後、プリスアルマの正面に魔力障壁が展開され巨大な氷柱を叩き落とした。
「……! 私の<絶零氷柱槍>をこうもあっさりと……。しかも、これはまさか……」
続けて、アイシスは同時に四つの魔法陣を描き、<剛塊岩石砲>、<絶零氷柱槍>、<灼熱火炎弾>、<旋嵐疾風刃>の上級攻撃魔法四連撃を放つ。だが、それらは先ほどと同様、アイシスの魔法発動直後に展開された四つの魔力障壁に阻まれプリスアルマには届かない。
「やはりそうか……。こちらの魔法発動を感知すると、それを防ぐための魔力障壁が自動展開される仕組みだな」
「優先排除対象ヲ確認。即時殲滅ヲ実行。<灼熱火炎弾>」
「くっ……! なんて威力だ……!」
プリスアルマが放った巨大な火球を魔力障壁で防ぎながら、アイシスは冷や汗をかく。この短い戦いで、プリスアルマが持つ圧倒的な戦闘力をアイシスは強く実感していた。
「魔法が防がれるなら、体術はどうだ!」
身体強化を発動したアイシスは全速力でプリスアルマに突っ込み右拳を放つ。だが、プリスアルマはその拳を難なく左手で受け止め、右手でカウンターの拳を打ちこむ。
「ぐっ! ……なんという、重い一撃だ!」
アイシスはプリスアルマの拳を左腕でガードしたが、その威力で後ろへと弾き飛ばされた。左腕に負った傷を<治癒>で治しながら、アイシスは口を開く。
「こいつは身体強化も発動できるのか。しかも、恐ろしいほどの魔力を纏っているから、私のそれよりもはるかに堅い。だが、だからといって引くわけにはいかない!」
再び、アイシスはプリスアルマに体術戦を仕掛ける。アイシスの放つ攻撃の数発はプリスアルマの身体に届くが、傷をつけるまでには至らない。むしろ、攻撃を当てたアイシスの拳のほうがダメージを負ってしまっている。
「これならどうだ! <氷結領域>!」
体術戦を続けながら、アイシスは魔法を放つ。瞬間、プリスアルマの足元が青白く光り輝くが、それと同時に魔力障壁が地面に展開され氷の領域は封じ込まれてしまった。
「これも駄目か……。体術戦の最中のこの距離でも自動防御が間に合い、さらには本体のこの堅さ。言うなれば、絶対防御という奴か……」
アイシスは一度プリスアルマから距離を取ると、そうつぶやいた。
「ならば、どうする? ……結界魔法で私の能力を、……いや駄目だな。仮に結界魔法を使っても、すぐにそれを破壊されるだろう。それなら――」
「<旋嵐疾風刃>」
「くっ、考える時間もくれないか!」
プリスアルマの放った刃の嵐を、アイシスは魔力障壁を展開して防ぐ。だが、間髪いれずに今度は<剛塊岩石砲>の五連撃がアイシスを襲う。
「がはっ!」
再び魔力障壁を展開したアイシスだが、五発の巨石全てを防ぎきれず実験室の壁まで吹き飛ばされた。
「駄目だ……。魔法の威力も身体強化も私よりはるかに格上。これが、魔道具の始祖が作ったという魔道兵器か……。だが、せめて、住民が避難する時間は稼がなければ……」
彼我の戦力差を把握したアイシスはこの戦闘の目的を勝利から時間稼ぎへと切り替える。そして、粘り強く戦いを続けたアイシスだったが、とうとう魔力が枯渇した。最後に展開した五重の魔力障壁が砕かれていくのを見ながら、アイシスは言葉をこぼす。
「さすがに、周辺住民の避難は完了しただろう。後は、ここに駆けつけるであろう騎士団に期待するしかないか。だが、私はそれまで持たなそうだな……」
限界を迎えたアイシスは膝をつき、壊されていく魔力障壁を力なく見つめている。
「まさか、ここで終わるとはな……。………………ならば、せめて最期に君の顔が見たかったよ、レイン……」
最後の魔力障壁が砕かれ、アイシスは諦めたように目をつむる。そこへ、プリスアルマが無慈悲に<絶零氷柱槍>を放つ。もはや、その一撃は阻む物はなく、アイシスに命中する――はずだった。
「良かった、ギリギリ間に合いましたね。アイシス先輩」
その言葉に驚きアイシスは目を開く。その目に映るのは、最期に会いたいと願ったレインの顔だった。




