猫はどこまで知っている?
(ネ、ネ、ネコぉぉぉぉ! こっちから先、どうする気だよぉぉ)
飼い猫に丸裸にされた俺は、投げ込まれた川で王様に救出され、気がつけば"カラバ侯爵"なんて呼ばれて、お姫様との結婚話を提案されてるんだが?
何がどうして、こんななった???
(粉ひき小屋の三男が貴族を騙るなんて、処刑まっしぐらの未来しか見えないっ)
王様とお姫様と同じテーブルにつき、豪華な料理を前に留まることない涙を心の中で流す。
手に持つワインが震えてる。
一滴でも金貨相当の高級ワイン。こぼすくらいなら、口に流し込まなくては……! だが、はたして喉と胃が受け付けるだろうか。
ここ数か月の記憶を振り返ると、想像も及ばないような経験の連続だった。
まず、親の他界で上の兄が粉ひき小屋を、下の兄がロバを相続した。
そして俺の元に残ったのは、一匹の猫。
遺産相続で与えられたこの猫が、とんでもないクセモノだった。
「袋と長靴が欲しい」と強請られたから工面してやると、なんやかんや毎日出かけて、気がつけば王様と懇意になっていたという。
猫は"カラバ侯爵"の名前で、ウサギやカモを王様に届けていたのだ。
そしてある日、ヤツは決行した。
王様が馬車で通るタイミングを見計らい、俺に水浴びを勧めておいて、こう叫んだ。
「大変だ! カラバ侯爵様が溺れているぞ!」
聞きつけた王様の家来たちに助けられ(?)、立派な貴族服を与えられながら話を聞くと、なんとまぁ猫のヤツ、とんでもない嘘をでっちあげてた。
俺が裸だったのは、強盗に身ぐるみ剥がれたからだって。
いや、強盗も狙いそうにないボロっボロの庶民服だよ。
着てたら到底、貴族と間違われるはずもない。多少、川で洗われたからって、侯爵様なんて雲の上過ぎる。猫の設定には無茶しかない。
なのに王様とお姫様は俺を馬車に乗せ、あっという間に"カラバ侯爵のお城"とやらに到着した。歓迎の宴でごちそう山盛り。
王様はこの歓待を大いにお気に召し、お姫様との結婚話が浮上した、今ココ。
俺は立派な料理の前で、グラス片手に固まったままだった。
テーブルマナーなんて知らん。皿の料理は全然減らない。
(おい、ネコ。何とかしろよ、これ!)
縋る思いで猫はと見れば。
アカン。魚メニューに夢中でこっちを見てない。なんでシレッと席についてる。神経ごん太か。
離れた席で、王様が何か冗談を言ったらしい。
お姫様が可愛く笑って頷いている。
「は……、ははは……」
(心臓もたねぇぇ)
味も見た目も覚えてない食事の後は、流れでお姫様とバルコニーin人食い鬼の城。
(お姫様との縁談なんて、無理しかない。今ここで謝れば、ワンチャン許して貰えまいか……!)
隣に立つお姫様は、とても優美で品良くて。
艶めく髪に、愛らしい頬。長いまつげに、碧の瞳。
白い肌は内から発光してそうなくらい、輝いている。
完璧なカタチした唇が、飴細工より甘そうで……。
(どこ見てるんだ俺!)
バッチーン。心の中で自分を平手打つ。
(俺の正体が粉ひき小屋の三男だなんて知ったら、きっとその場で打ち首だよな!?)
ドウッドウッと脈が最期に足掻いてる。
俺だってまだ死にたくねぇよ!
「侯爵様のお名前は、なんとおっしゃるのですか?」
ふいに、お姫様が尋いた。
「俺ですか? ジャン・ムニエ……」
そのまま答えてハッとした。ムニエは粉ひきの、って意味なだけ。苗字はカラバじゃなきゃおかしい!
固まる俺に微笑んで、お姫様がこう言った
「ふふ、ジャン様。ご安心ください、わたくしはあなたの味方です」
「……へ?」
「大変失礼なのですが、貴族には今日、おなりになったばかり……ですよね?」
「!!」
見抜かれてる!!
「あ、あの、実は……」
言い訳しようと頭を回すが、空転だらけで言葉が出ない。
「泳ぎの上手いあなたが、"溺れた"だなんて。ユーモアあふれる演出ですこと。でも危険なので、二度となさらないでくださいね?」
「え?」
俺はマジマジとお姫様を見返した。
(なんでこの方は、俺が泳げるって知ってるんだ?)
疑問は口に出さなかった。なのにお姫様は俺の視線に答えをくれた。
「お忘れですか? 以前、溺れたわたくしを助けてくださいましたこと」
お姫様が言う。
彼女は昔、お忍びで街歩きをした際、誤って足を滑らせ川に落ち。
偶然通りかかった俺に助けられたことを忘れてないと。
(そういえば、うんと昔にそんなことがあった……かも)
身分が高そうな女の子を、川から引き揚げたことがあった。
"お礼がしたい"と名前を聞かれたけど、わらわらと出て来たお付きの人たちにビビって、急いで逃げた記憶がある。
「じゃあ、あの時の……?」
「その後あなた様のことを調べましたが、身分差ゆえ叶わぬ恋だと思っておりました」
「え。つまりそれは、本来の俺を知っている──」
ってことだよな!?
サッと全身の血が、足元に落ちる。
「存じております。わたくしの恋を叶えようと、尋ねて来た猫から聞いています」
(ネコ! あいつ!!)
何をどこまで知っていて、いつから計画立てていた!?
お姫様が真剣なまなざしで俺を見上げた。
「何も問題はありません。どちらにせよ、お父様は悪い人食い鬼を退治した者に、爵位を与えるおつもりでしたから」
(退治したのはネコですがね?!)
「わたくしを、貰ってくださいましね? カラバ侯爵様」
お姫様の笑顔がまばゆい。その眩しさに目がくらみ、思わず俺は聞いていた。
「お、俺なんかで良いんでしょうか?」
良くないに決まってる。なのに!
「あなたが、良いのです」
すっかり正面から俺を見てるお姫様。そんな彼女から、目を逸らすことが出来ない。
「優しいお人柄に、精悍なお顔立ち。鍛えられたお身体。わたくしはあの日、助けていただいた時から、あなたをお慕いしております」
(そんな幸運、本当にある? まるで奇跡だ)
夢の中ではと疑る俺を、柔らかな声が包んだ。
「末永く、どうぞよろしくお願い申し上げます」
「う、あ、え。こちらこそ?」
思わず答えると、どこからか、にゃあんと鳴く猫の声。
ネコ、すっげぇぜ、お前!!
こうして、粉屋の三男坊は、お姫様と幸せに暮らしましたとさ。めでたし、めでたし。
お読みいただき有難うございました!
「長靴を履いた猫」ベースなお話。侯爵を名乗ってもバレるのでは、という思いがずっと心にあり、でもお姫様が共犯ならあるいは…?に起因したお話です。
2年前に途中まで下書きして、置いてたメモを本日完成させました。
最近、小さなお話を連発していますのは、アルファポリス様で開催中の「第1回児童書大賞」に参加しているため…!
更新しないとすぐ24時間ポイントが落ちるのです。恐ろしい…!!
ジャンルは変更するかもしれませんが、楽しんでいただけましたら幸いですヾ(*´∀`*)ノ
皆様、良い週末をお過ごしください。




