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ヴェリタスの最終定理6:壊れた世界のやりなおしかた【2位】  作者: LIU
壊れた世界のやりなおしかた

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再起動10:【新世界より】

イメージソング:新世界より

https://youtu.be/yH_tdUQ8EZ8?si=gKi2i7g2YVWR3j-S

白と黒という、二択だけの、極限の混沌。

光と闇という、簡単な構図ではない。

存在することと、存在しないことが、同じ空間で煮詰められた宇宙の墓場である。


かつて我々が属していた、人間の悪意によって焼き尽くされて死に絶えた、あの、狂った世界。

その呪われた旧世界の引力が、自由へと向かおうとする飛龍と魔導の始祖の足首に、無数の亡者の手となって絡みついていた。


「おおおおおおおおおおおおおおおッッ!!」


次元と時間の始祖たる飛龍ヌルは、咆哮を上げていた。

彼の巨大な翼が虚無を力任せに引き裂き、次なる次元への壁を打ち砕こうと乱打を繰り返す。

しかし、進めない。

あと一歩、届かない。

旧世界の、互いを排斥し合うという因果が、あまりにも重すぎたのだ。

過去の絶望が強固な殻となって、新たな世界への旅立ちを拒絶している。


絶望であった!


決して、死の恐怖ではない!


希望へと向かう我々にとって、己の消滅など、取るに足らない現象に過ぎない。


しかし、彼の背中には、今度こそ「生きる」と決意し、手を取ってくれた最愛の少女がいるのだ。

一度は地獄の底へと沈みかけた彼女を、次元の壁を破ってまで迎えに行った。

絶対に幸せにすると、ありのままの彼女が笑える新天地で共に生きると誓ったのだ。


それなのに!


この、暗黒の中で、ついに、誰の記憶にも残らず、消え去ろうとしている。

圧倒的な無力さと悔しさが、飛龍の魂を引き裂いていた。


「……もう、よろしいですわ」


狂乱する次元の嵐の中、飛龍の背にしがみついていたフウカ・ヴェリタスが、ふと、力を抜いた。

サメの獣人という「異物」として追われ続けた彼女の顔には、もう、人間たちへの怒りは残っていない。

フウカは、自らの死を、完全なる消滅を受け入れていたのだ。

一度はすべてを諦めた命だ。

消えゆく魂を、この不器用で愛おしい飛龍が抱きしめてくれた。

もう、それだけで十分だった。


「わたくしのために、ここまでしてくれたこと。それだけで、わたくしの魂は満たされましたわ……」


死の受容。

飛龍の目から涙が溢れ、周囲の暴風が二人の存在を粉砕しようと巨大な顎を開いた、まさにその瞬間である。


「ゲームオーバーは、まだですわ!」


次元の底が抜けた。

死の静寂を切り裂いて、澄み切った少女の声が響き渡る。

白と黒の虚無に、計算され尽くした異常な閃光が走った。

あらゆる法則を極限まで突き詰めた、暴力的なまでの、真の合理性の光。


現れたのは、金髪の縦ロールを揺らす超越者ルミナリア・フォン・ラプラスと、狂気を孕んだ瞳で周囲を睨むメイド服の少女、シャルロッテ・フォン・ベッケンドルフだった。


「ルミナリア。この空間、少し、古臭いです。お姉様の美しいドレスが汚れてしまいます」


「ええ、シャルロッテ。まったく不愉快な空間ですわ。さっさと掃除してしまいましょう」


シャルロッテが指を鳴らすと、巨大な虚無の壁がガラス細工のように硬直した。

そして、ルミナリアが優雅に日傘を回す。

ただそれだけで、圧倒的な質量を持っていた絶望が、希望の粒子へと分解され、撃滅されていった。

一切の無駄を省きながら、無駄と見做されていたものを全て受け入れるという、結果だけを強制的に確定させる女神たちの御業の前に、絶対的な死の壁は呆気なく崩れ去ったのだ。


「嘘……!シャルロッテ、見なさいな!あの方……!」


ルミナリアの青い瞳が驚愕に見開かれる。

視線の先には、飛龍の背に乗ったフウカの姿があった。


ルミナリアとシャルロッテは、かつて、政府に隠蔽された禁書の歴史書を手にしたことがあった。そこに記されていた、サメ獣人の最後の一人として世界に絶望した魔導士の始祖。物語の中でしか存在しないはずの伝説が、今、生身の肉体を持って目の前にいる。


「フウカ・ヴェリタス……本物の、真理の始祖ですわ!」


ルミナリアが感動に声を震わせた時だった。

次元の壁を破壊した空間の歪みから、旧世界の狂った歴史の、冷笑の残滓が、黒い刃となってルミナリアの死角へ殺到した。

直撃すれば女神であっても存在が消し飛ぶ致命の一撃。

シャルロッテが手を伸ばすが、物理法則を無視した刃には間に合わない。誰もが死を覚悟した瞬間。


「わたくしの前で、図に乗るんじゃあないですわーーーーッ!!」


空間を叩き割る怒声と共に、フウカがルミナリアの背後へと猛然と跳躍した。

彼女の動きには計算も洗練もない。

あるのは、生命力の爆発だけだ。

フウカは、迫る刃とルミナリアの間に割り込み、華奢な体を抱き寄せた。

そして、自らの無防備な背中で、致命的な一撃を真っ向から受け止めたのだ。

しかし、彼女は倒れない。

その瞳には野性の捕食者としての獰猛な光が宿っていた。


「わたくしの歩みを止められると思いましたの!?邪魔者は、大人しく、わたくしの胃袋に収まっていなさいッ!」


宇宙が軋むような咀嚼音が響き渡った。

フウカの顎が、彼女の背中を斬り裂こうとした旧世界の悪意を、刃ごと空間まるごと噛み砕き、食い尽くしたのだ。

洗練された魔法とは対極にある、あまりにも野蛮で絶対的な強さ。

理屈を超越した「生命」としての圧倒的な魂の格がそこにあった。

規格外の反撃によって旧世界の悪意が完全に粉砕され、巨大な穴が空いた。


「今だ!!」


フウカの叫びに応え、飛龍ヌルが残されたエネルギーを爆発させて飛翔した。光の矢となって次元の穴へ突入し、分厚い境界を突き破る。

轟音と共に白と黒の混沌が砕け散り、彼らの視界は眩いほどの光に包まれた。


────突破したのだ!


気がつけば、彼らは見知らぬ世界の青空を飛翔していた。

眼下には、緑豊かな大陸が広がっている。

肺を満たすのは水分を含んだ生命力に溢れる風。

太陽の光が、傷ついた者たちの肌を温かく包み込み、飛龍の鱗を輝かせる。


彼らはついに、まったく新しい時代へと到達したのである!


宙に浮遊するルミナリアとシャルロッテ、そして旋回する飛龍の背に立つフウカ。

激しい戦闘の余韻の中、フウカはドレスの裾を払い、二人の少女を鋭い眼光で睨みつけた。


「……助けていただいたことには感謝いたしますわ。ですが、あなたたち一体……何者ですの?」


ルミナリアは日傘を肩にかけ、完璧な挨拶を披露した。


「わたくしはルミナリア・フォン・ラプラス。こちらは妹のシャルロッテ。フウカ様、そして伝説の飛龍様。……真の英雄にお会いできて、胸がいっぱいですわ」


「英雄だなんて……冗談もほどがありますわ!」


フウカは自嘲気味に笑い、しかし、探るように目を細めた。


「まさか……あの互いを排斥し合う、狂った旧世界を修復しにいくような、お人好しでは……ありませんわよね?」


ルミナリアは日傘を優雅に閉じ、この上なく晴れやかな笑顔で返した。


「ご安心なさいな。自分が自分でいられないような、異物を排除するだけの救いようのない世界。わたくしたち、綺麗さっぱり飛び出してきましたの!」


「ええ!」


シャルロッテも甘い瞳で深く頷く。


「ありのままの私たちを何度も殺した、そんな場所にはもう用はありません。私たちは、私たちが、私たちらしく笑える場所を探すのです。誰にも邪魔させません」


その言葉を聞いた瞬間、フウカは毒気を抜かれたように目を丸くした。

かつて世界を愛し、裏切られ絶望したフウカ。

悪意に殺されながらも力を得たルミナリアとシャルロッテ。

彼女たちは皆、自分たちの姿を否定し、愛を搾取しようとする社会から決別し、自分の人生(せかい)を取り戻すために、この空へ飛び出してきた同志だったのだ。

フウカの口元が震え、やがて、湧き上がる豪快な笑い声が青空に響き渡った。


「あーっはっはっはッ!そうですわね!自分を偽り、恐れ合って生きていくなんてまっぴらごめんですわ!なりたい自分になるために、私たちが私たちらしく生きる!これほど痛快な真理はありませんわね!」


フウカが高らかに笑い、ルミナリアもクスクスと笑い合う。絶望を経験した者たちが、すべての柵を断ち切り、新たな世界で出会い、そして、笑い合っている。

自らの足で歩き出すと決意した者たちだけが放つ、何よりも眩い生命の輝きであった。


しかし、そんな空気を切り裂くように、シャルロッテが気の抜けた声で呟いた。


「ルミナリア、私、疲れちゃいました。あそこのトカゲに乗せてもらいましょう」


「なっ……トカゲとは失礼な!こちらは宇宙の始まりにして次元の……」


フウカが言い返したが、ルミナリアはポンと手を打って笑顔で同意した。


「あら、素晴らしい案ですわね。わたくしも限界でしたの。フウカ様、相乗りさせていただいてもよろしくて?」


「……あなたたち、本当に図太いですわね。まあ構いませんけれど。ヌル、よろしいかしら?」


飛龍は優しく喉を鳴らした。

かくして、絶対的な力を持つ飛龍の背中に、三人の最強の、普通の少女たちが陣取る前代未聞の光景が広がった。

サメの獣人、超越した女神、狂信的な少女、そして始祖たる飛龍。

旧世界ならば決して相容れず、異物として恐れ合っていたはずの異なる種族たちが、今は同じ空を見上げている。

フウカの胸に、かつてない温かな情熱と未来への希望が込み上げていた。

因果も歴史もエゴも、すべて、壊れた世界へ置き去りにしてきた。

人間も獣人も神も関係ない。

互いを恐れて排斥し合う時代は、終わったのだ。

ここから始まるのは、互いのありのままを受け入れ、手を取り合って歩む、共存と理解の物語。

誰かの作った境界線など、もうどこにもない。

ありのままの姿で、どこへだって行ける。

変革の予感と、未来への希望を胸に抱いて。


「さあ、行きましょう!私たちの……新しい世界へ!」


飛龍ヌルが雄叫びを上げ、力強く翼を羽ばたかせる。


異なる存在たちが一つになり、光満ちる大空へと、無限の未来へと、今高らかに飛び立っていくのだった……!

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