↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ヴェリタスの最終定理6:壊れた世界のやりなおしかた【2位】  作者: LIU
壊れた世界のやりなおしかた

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

72/74

再起動9:【さらばヴェリタス】

イメージソング:エイリアン2 サウンドトラック

https://youtu.be/OBJoW8jcsjM?si=eN8Idd8_QyqAy54c

時空は「新暦108年」という一つの座標に定着した。

そこに、彼女と私は現れた。

百年前の、新暦1年の、あの透き通るようなサメ獣人の少女の姿で。


厳密に言えば、私という飛龍が、サメの少女の精神の深淵に憑依し、彼女の魂と寄り添う形で顕現したのだ。


私たちは共に歩き、空を見上げ、世界を楽しんだ。


だが。


ある日、サメの少女は突如として、圧倒的な静けさをもって「人間狩り」を開始した。


それは狂乱ではなく、極めて「理路整然とした混沌」の殺戮であった。


サメの少女は、百年前の世界において既に王都で最強格と謳われた魔導士である。

その魔法の破壊力に、神たる飛龍である私の無尽蔵のエネルギーが合わさっているのだ。

彼女は文字通り「無敵」と化していた。

防御結界は紙屑のように破り捨てられ、反撃の呪文は彼女の肌に触れる前に無に還る。

彼女はただ指先を振るうだけで、都市を更地に変え、人間たちを赤黒い染みへと変えていった。


なぜ、彼女がこれほどの激怒を爆発させたのか。私には完全に分かっていた。


歴史の闇に葬られていた真実。


サメ獣人は、百年前の狂った時代に、「フカヒレを摂取する」というただそれだけの、あまりにも下劣で悪趣味な目的のために人間たちによって狩り尽くされ、絶滅させられていたのだ。


少女は、その唯一の生き残りであった。


親を、兄弟を、一族郎党を、いや、種族という概念そのものを、丸ごと食い尽くされた。


それでも、彼女はあの日までは怒らなかった。

彼女は信じようとしていた。

いつか人間たちが過ちに気づき、他者の痛みを理解し、共に手を取り合える日が来ると。

そのために、彼女は、何百年もこの愚かな生命群を信じ続けてきた。

だが、あの日の出来事が、彼女の魂を、容赦なく踏みにじった。


王都の片隅で、ある刑事の男が、自身の失態によって引き起こされた魔導事故の連鎖を隠蔽するため、地球に巨大な隕石を向かわせてしまった。

そして、あるテロリストの女が、自らの私利私欲と名誉のためにその隕石を食い止めるという茶番を演じた。

そこまではいい。

人間などその程度の生き物だ。


しかし、その刑事、キット・クライフォルトは、責任逃れのために大衆の前でこう言い放った。


「すべては、サメ獣人の仕業だ!」と。


テロリストの女、ジル・クライフォルトもまた、己の英雄性を装飾するためにこう嘯いた。


「私は過去のサメ獣人から直接命令を受け、この危機を救ったのです!」と。


二人とも、サメ獣人など、一度も見たことすらなかった。


そして、二人とも、フウカの親友の末裔だった……。


だが、その二人の発言を皮切りに、大衆は口々に無責任な妄言を垂れ流し始めた。


ある者は「私もサメ獣人に会ったことがある、あいつらは馬鹿だ」と吹聴し、ある者は「サメ獣人の存在は、伝説かデマだ」と鼻で笑い、ある者は「フカヒレになって勝手に絶滅した劣等種だ」と唾を吐き、またある者は「我々人間があえて生態系のために絶滅させてやったのだ」と誇らしげに語った。


息をするように嘘を吐き、自らが殺した死骸を蹴り上げて、己の虚栄心を満たす。


【奴らは真実(ヴェリタス)を捨てて、嘘を根拠にして、破壊をし続けたのだ。】


サメ獣人の「最後の一人」である少女は、激怒した。


【ならば、真実(ヴェリタス)も、嘘も、全てを喰らい尽くして、全てを、破壊するまでだ……と。】


私は、人間の肩を持つつもりなど毛頭ない。


彼らの生態は滑稽な観察対象に過ぎなかった。

そして、サメ獣人の少女を好んでなどいないと、現象としての私は自らに言い聞かせていた。


だが……愛していた。


悲惨な目に遭い、一族を皆殺しにされ、絶望の淵に立たされてもなお人間を信じ続け、何度も世界がやり直され、そのたびに利用され、見捨てられてもなお、何百年も真理(ヴェリタス)を求めて立ち上がり続けたこの少女を、私は深く……ああ、愛していたさ!


愛せずにいられるだろうか!


これほどまでに純粋で、これほどまでに強靭な魂を、神たる私が愛さずにいられるはずがない。だからこそ、私は、この飛龍の力のすべてを、サメ獣人の少女──『フウカ・ヴェリタス』──に託したのだ。


そう、彼女の本当の名はフウカ・ヴェリタス。


あの褐色肌の魔導士も、力を盗み出した竜人の少女も、世界を自分たちの性欲とエゴでかき回し、グルーミングのために歴史をやり直したすべての変質者(へんしつしゃ)たちは、皆、このフウカ・ヴェリタスの魔導体系を受け継ぐ「末裔」たちであった。

フウカは、自らの血肉と魔術が、未来においてどれほど醜悪な狂気を生み出したかを知った。


だからこそ、彼女は一切の容赦をしなかった。


フウカは末裔たちを次々と惨殺していった。


世界を弄んできた元凶たちは、「始祖・ヴェリタス」たるサメの少女の前に立ち塞がったが、圧倒的な力の差の前に食い殺されていった。


一切の差別はなかった。


悪人であろうと、正義を騙る者であろうと。


彼女の前では等しく「罪」であった。

当たり前である。

他者の痛みを娯楽として消費した彼らに、慈悲を与えられる理由など、ないのだから。

しかし、この世界は、彼女の殺戮すらも「正しく恐れる」ことができなかった。


【人間たちは血反吐を吐きながら、命懸けで、何の得もないのに、ひたすらに自腹──自らのその命──を切ってでも、彼女を愚弄し、嘲笑し、ナメ続けたのだ!】


「たかが魚の分際で!」


「即死すれば、痛くも痒くもないね!」


「じゃあ食えよ!私の腸はフカヒレより美味いぞ!」


狂気は限界を突破し、死すらもただのお遊びに成り果てていた。


【誰も、罪(かこ)を省みず、誰も、命(みらい)の重さを理解していない。】


彼らは死の瞬間まで、自らのエゴを喚き散らしながら、フウカの刃をヘラヘラと笑いながら受け入れていた。


そして、その日が来た。


瓦礫の山と化し、血と臓物の臭いが充満する王都の中心。フウカ・ヴェリタスは、両手から滴る血を見つめながら、ぽつりと呟いた。


「……そうねえ」


その呟きは、あまりにも静かだった。


何百年もの間、踏みにじられても、裏切られても、なお世界を信じようとしたサメ獣人の少女フウカ・ヴェリタス。


彼女の胸の中で最後の『希望』という名の灯火が消えた音だった。


次の瞬間、彼女の指先から放たれた魔導砲撃が、彼女自身の首から上を打ち消した。

赤黒い血煙が宙に舞い、頭部を失った華奢な身体が、まるで糸の切れた人形のようにドサリと泥の中に倒れ伏す。

その光景を目撃した瞬間、私は彼女の身体から弾き出されるように脱落した。

依り代を失い、再び概念上の大気として漂い出た私の目に飛び込んできたのは、しかし、救世主の自死を前にした人間たちの、あまりにも浅ましく狂った叫びだった。


「おいてめえ、神様!何やってん?早くこの世界を作り直せや!」


「世界は作り直すな!俺はこのままが一番得するんだよ!なあ!王都国内での俺の権力を強化しろ!」


「……ラモル山脈のケテロンを三倍の取引価格にしろ!今すぐだ!ケテロンの先物取引を制覇したいんだよ!私は儲けたいのではない!ゼランティア人の経済を締め上げたいだけだ!あとリルク人も劣等民族だから、リルクに対してのカシアムの輸出を全面停止してほしい!反対派の議員は処刑してくれたら助かる!」


「てめーよお!旦那ん顔を美形にしろ!クラブ・ザ・ファーストのシェリム様のような顔がいい!マンダム・ホワイトは1,000,000クレストだからそんなの入れられないからアタシは会うことすらできねーんだよ!だから旦那を改造すればいいんだよな!あったまい!」


「おめえ!娘の胸をさあ、今すぐ大きくしろや!俺は帰宅しても全然楽しみ、ないんだよ!ミミちゃんみたいなオッパイッッッが家にあれば幸せになれるんだヨンッッッッ!!!!」


「ペロ・リロの今日発売のサンダー・ドーナツいっぱいちょうだい!ぼく、おりこうさんにしてたから!さ!はーやーくー!おーしーもの食べたいの!……食べたいの!さ!はやく!はーやーく!」


「いや、なんつか、あたし……まー、別に好き……ってわけじゃないけど、ユッキーが、なんかいいかなーって思うから、まあ、良かったらつーか、いや、今すぐユッキーと結婚させて!!!!早くしろ!コッすぞ!!!!」


「まーまーっ!ぼくに買ってーっ!魔導車の模型買って!ねーえ!買って買って買って買って買って!ぼく今日40歳の誕生日だよ?だーかーらーっ!はやくはやくはやくはやく!……あ!?おそら、見て!スーパーバトルドラゴンだ!スーパーバトルドラゴンだッッ!!!!見て!ねえ見ーて!!!!お、かーさん!!!!スーパーバトルドラゴンだよッ!!!!ぶぎゅぎゅぎゅぎゅーーーーん!でゅぐでゅくでゅぐでゅく!ぶがーーーーーーん!!!!……じゃ、ギニアス2000X型の後期型のミニカー買ってッ!もちろんニキタじゃなくてハザマ模型の方な!あと塗料!」


??????


????


??


えっ?


えと……血の海の中で、一人の少女が絶望の果てに命を絶ったというのに?


そう。


彼らは足元に転がる彼女の遺体など見向きもせず、やり直しというシステムに甘え、私に……奇怪な注文を大声でぶつけ合っていたのだ!


私は、世界中の全人類、数百万の魂を1秒もの膨大な時間をかけて一人残らず精査した。


誰一人として、フウカの死に涙を流す者はいなかった。


誰一人として、自らの愚かさを恥じる者はいなかった。


飽きた。


もう、飽きた!


私の中で、何かが音を立てて冷え切り、そして次の瞬間、灼熱のマグマとなって突き破った!


感情はない、意志はない、ただの宇宙の現象だ……そう自分を偽り続けてきた数千年の虚飾が、一瞬で吹き飛んだ!


ふざけるな!


フウカのいない世界など、一秒たりとも存在させる価値がない!


「この、愚か者どもがぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっ!!!!」


私は人間たちの願いなど一考だにせず、ただ羽ばたきもせずにその場から消滅した。


目指すのは、ただ一つ。


自ら首を吹き飛ばし、今まさに虚無の泥、永遠の地獄へと墜落していくフウカ・ヴェリタスの、あの小さく哀しい魂だ。


私は次元の壁を力任せにぶち破った!


暗黒の深淵へ、全エネルギーを推進力に変えて急降下する!


速く、もっと速く!


彼女が完全な無に溶けてしまう前に!


「フウカッ!!」


深淵の底で、重力に引かれて静かに堕ちていく光の粒、フウカの魂を見つけた。

私は叫び、爪を伸ばし、己の存在のすべてを投げ打って、その華奢な魂を抱きしめた。


その瞬間だった!


抱きしめたフウカの魂から、あたたかな熱が流れ込んできた!


漆黒の地獄の闇の中に、セピア色の光がぽつり、ぽつりと灯り始める!


それは、私とフウカが過ごした、愛おしくも切ない『思い出』だった!


雨上がりの、街角!


フウカは泥水跳ねも気にせず、水たまりの上で無邪気に跳ねていた!


「見てくださいまし!水の中に、こんなに綺麗なガラス玉が沈んでおりましたわ!」


びしょ濡れになりながら、満面の笑みで差し出してくれたのは、ただの緑色の瓶の破片だった!


「これ。……あげますわ!」


そう言って私の手に破片を握らせてくれた時の、彼女の小さく温かい手の感触!


またある日は、人間に「悪魔のサメめ」と石を投げられ、冷たい路地裏で膝を抱えていたフウカ!


彼女は泣かなかった!


泣けば、人間を恨んでしまうからと、必死に唇を噛みしめて耐えていた!


私がそっとその背中に羽を沿わせた時、彼女は小さく「……寒いですね」と呟き、私の体に深くおでこを押し当ててきた!


その背中の小さな震えと、こぼれ落ちた一滴の冷たい涙!


またある日の、世界の果てにある、極彩色のオーロラが揺らめく静寂の氷原!


人間たちの争いから遠く離れたその場所で、フウカは息を白く弾ませながら空を見上げていた!


「世界は……こんなにも美しいのに。どうして皆様は、争ってしまうのでしょうね」


そう言って振り向いた彼女の瞳には、夜空の星々よりも清らかな光が宿っていた!


そして、まだ世界が素朴で無垢だった時代の記憶!


巨大な鯨の骨が打ち上げられた誰もいない夜の砂浜で、私たちは篝火を焚いて過ごした!


「見てください、上手く踊れましたわ!」


不器用な足取りで舞ってみせるフウカ!


波の音と火の粉が舞い散る中で、彼女のサメの尾が嬉しそうにパタパタと揺れていた!


あの時代、私たちは確かに、ただそこに存在するだけで幸せだったのだ!


焦げた魚を二人で苦笑いしながら分け合った朝!


足を挫いたフウカを背負って、夕焼けの丘を黙々と歩いた帰り道!


「ありがとう」と微笑む彼女の、透き通るような青い瞳!


現象であるはずの私から、温かい……光の涙が溢れ出して止まらない!


こんなにも!


こんなにも彼女は、この世界を、生を、そして私との時間を愛してくれていたのだ!


何度も世界をやり直させられても、彼女の心の本質は、あの一族を殺された悲劇の夜から何一つ変わっていなかった!


変わっていなかったさ!


ただ純粋に、美しくありたかっただけなのだ!


旋律が高らかに盛り上がり、最後の思い出の光が、今の冷たいフウカの魂へと収束していく!


「フウカ……!」


私は抱きしめる腕に、命の限り力を込めた!


かつて、彼女は言った。


『本当に、この世界の人々が絶望し、世界が白紙になり、完全なる終わりを迎えたならば!その時だけ!この世界を助けてくださいまし!』と。


「嘘つきめ……!嘘つきだぞ!フウカ!!」


私は涙を拭い、地獄の底から天を見上げて、ありったけの声で叫んだ。


「人間どもは絶望なんかしなかった!世界も白紙になんかならなかった!絶望して、傷ついて、そうして完全に終わりを迎えたのは、君じゃないか!!」


フウカの魂が、ビクリと跳ねた。


「君が絶望したんだ!君の視ている世界が限界を迎えたんだ!ならば、君の言った条件は完璧に満たされた!世界とは、君自身だったんだ!だから私は、今この瞬間、私の全存在をかけて君を助けるッッ!!」


私の叫びに応えるように、両腕の中のフウカの魂が、爆発的な輝きを取り戻し始めた!


首から上を失っていた存在の輪郭が、神たる私のエネルギーと、千年の思い出の熱によって、神々しい竜とサメの威容を纏って再構築されていく!


「……助ける……?」


虚無の底から、懐かしい、あの愛おしい声が聴こえた!


「そうだ!もう、世界などどうでもいい!もう、人間など知ったことか!私は君を愛している!君と共に生きるために、自ら、意思を持ったんだ!!」


フウカの瞳に、いま、再び、光が宿る!


それはもう絶望の影ではない!


溢れんばかりの涙と、深い、信頼の光だ!


「……飛龍……!私を……私と行く、というの……!?」


「当たり前だっ!!」


背中の巨大な翼が展開した!


空間を、次元を、地獄の重力を、まとめて叩き斬る一閃の翼!


「行くんだよ!過去も、業も、あの狂った人間どもも、すべて置き去りにして!!」


「ええ……!飛龍、ヌル(null)!!」


私はフウカの手を固く握り締め、地獄の天井を突き破った!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。