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ヴェリタスの最終定理6:壊れた世界のやりなおしかた【2位】  作者: LIU
エンドクレジット

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74/74

ミッドクレジット:【未見レビューの罪について】

イメージソング:まもるクンは呪われてしまった! サウンドトラック

https://youtu.be/mNeeUz9v_KA?si=9Kh32cWwB9cHrJE7

静岡県真島市。

海風とお茶の香りが混ざり合うこの地方都市は、ここ数日で劇的な変貌を遂げていた。


通学路で旗を振るおばさんの腰。

小学生のランドセル。

サラリーマンのベルト。

さらには散歩中の犬の服にまで。

すれ違う人々のあらゆる場所に、灰色の「サメの尻尾」が揺れている。街全体が狂乱のサメ・ブームに沸き立っていた。

その震源地は……他でもない、我が家である。


「ケンイチ!ぼんやりしてないで波形データを記録しなさい!アタシの計算通り、すっごいデータが取れてるんだから!」


白衣を翻す姉のミユが手作りの計測機器を二階の窓へ向けると、甲高く高飛車な声が降ってきた。


「わたくしの朝食はまだですの!?この魔導の始祖たる私を空腹のまま待たせるなど万死に値しますわよ!」


豪奢な毛皮を羽織り、ドレスの背中から生えた本物のサメの尻尾を窓枠に打ち付けているのは、異世界から降臨した魔導士、フウカ・ヴェリタスだ。数日前、空から巨大な飛龍とともに落下してきた彼女を家に連れ帰って以来、僕の日常は崩壊した。


ドタバタと台所に立ち、特製フレンチトーストを供する。

庭では、次元を統べる飛龍ヌルが特大のキャベツを抱いて寝息を立てていた。

常識という色眼鏡をかけた街の人々は「最近のコスプレはすごいねぇ」と圧倒的な見て見ぬふりを決め込み、いまや商店街はフウカに貢ぎ物を差し出し、彼女のサメ尻尾を喜々として模倣する始末だ。

食卓についたフウカは気取った仕草で一口食むと、ピタリと動きを止め、サメの尻尾をピンと直立させた。


「な、なんて甘美な味わいですの……!ケンイチ!……百点満点ですわ……!」


歓喜に尻尾をパタパタと揺らすフウカ。高圧的だが、美味しいものを前にすると感情が隠せない。そんな騒がしい朝の喧騒のなか、僕がふと「元の世界に未練はないんですか?」……と尋ねた瞬間だった。

居間を包んでいた空気が、静かに、澄み渡るように変わった。

フウカは、窓の外の青空を見つめた。

その瞳には、途方もない孤独と慈愛を抱えてきた者だけが持つ、深く重厚な影が落ちていた。


「ありませんわ。未練など。わたくしが、元の世界で為すべきことは、全て終わらせてきましたもの」


静かな声だった。


「わたくしが見守り、愛した人類。彼ら自身が、世界を食い荒らす悪意の集合体でした。これ以上の惨劇を許せば星そのものが崩壊する。だからわたくしはあの日、あの世界の全ての知的生命体を、この手で一人残らず殺戮するために戦ってきましたの」


心臓が跳ね上がった。

背筋を氷の刃で撫でられたような戦慄。

だが、怯える僕にフウカは、暖かな春の日差しのような笑みを向けた。


「怯えることはありませんわ、ケンイチ。……その直後、全く同じ数だけ、全員を生き返らせて差し上げましたもの」


呆然とする僕に、彼女はゆっくりと語りかける。


「言葉で説いても、力で抑えても、彼らの業は消えませんでした。だから一度、完全なる死と喪失という究極の恐怖を魂の奥底に直接刻み込んだのです。そして、わたくしは己の命を削り、彼らを新たな命として再誕させました」


あえて悪役を背負い、世界を壊してまで手を差し伸べる……圧倒的な愛。


「愚かで、弱くて、すぐに過ちを犯す。けれど、立ち上がる強さを持つ人間を、わたくしは心から愛しておりますの。これがわたくしの、海よりも深い愛の形ですわ」


誇り高く胸を張る彼女の真実を知り、僕の瞳から溢れ出た涙が頬を伝った。

この街の人々が彼女に惹きつけられた理由が、痛いほど理解できた。


ふと、真島市の上空、春の雲の上に腰掛けるふたつの影があった。

輝く金髪の女神ルミナリアと、そのドレスの裾に頬を寄せる忠実なメイドのシャルロッテ。

かつて激動をともにした超越者たちは、地上で人間たちと笑い合うフウカの姿を優しく見つめていた。


「相変わらずですわね、フウカは……」


あの子はあの子の場所で、新しい宝物を見つけて生きている。その健やかな営みを、ただ遠くから見守り、存在を尊重する。

それは、「視る」という愛の形だった。

ルミナリアの愛おしそうな呟きとともに、二人は静かに春の風へ溶けて消えていった。


同時刻。

別世界、かつて滅びを迎えた場所で。

一斉に息を吹き返した人々の中に、女魔導士エラーラ・ヴェリタスとその家族たちがいた。

彼女たちは知っていた。自分たちの傲慢と慢心が世界を踏みにじり、フウカの逆鱗に触れて滅ぼされたことを。そして、自分たちが今こうして息をしている理由を。

フウカは自分たちを罰し、そして自らの身を粉にして、全員をこの現実へ連れ戻してくれたのだ。

残された端末の記録から溢れ出る、命を削った自己犠牲の痕跡。

自分たちがどれほど深く、狂おしいほどの愛で守られていたかを知り、誰もが言葉を失い、涙を流した。涙を拭い、フウカが命を懸けて遺してくれたこの世界を、二度と無駄にはしないと全員が胸に強く誓った。


まさに、その時だった。


甲高い断裂音が響いた。

雲がガラス細工のように砕け散り、漆黒の虚無から異様な重圧を放つ怪異が降臨する。

エラーラは反射的に地を蹴り、迫り来る脅威をすぐさま撃ち払おうと直感のままに手足を躍動させ……なかった。

彼女は、あえて、踏みとどまったのだ。


自分は今、またしてもかつてと同じ愚行を繰り返しかけていた。


自分たちの勝手な判断。

浅はかな思い込みによる暴走。

未知の脅威が現れたからといって、理由も正体も探らずに力でねじ伏せようとするその傲慢さ。それこそが世界を死へと追いやった元凶だったのだ。

ただ力を振るい、勝手な解釈で対象を断定して打ち倒すことが戦いではない。

勝手な判断を下すのをやめ、まずは相手を、その真実(ヴェリタス)を、ありのままに「視る」こと。


己の傲慢を排し、対象を深く観察して理解しようと試みること。

我々が日々の生活の中で忘れがちな、他者への気遣いや、優しさ。自分の物差しだけで世界を測らないという謙虚さ。


それこそが真の愛であり、本当の戦いなのだと、彼女は悟った。


エラーラは、静かに呼吸を整えた。

己の偏見や焦りをすべて削ぎ落とし、澄み切った瞳で、虚無から降り立とうとする怪異の姿を真っ直ぐに「視る」。


深く、深く、相手の本質をその瞳に収めた瞬間。


怪異を構成する理、魔力の流れ、脅威と弱点のすべてが、鮮明な構造図となって彼女の脳裏に浮かび上がった。勝手な推測を排除し、ただ正しく「視る」ことで本質を解き明かせば、もはや恐れるものなど何一つない。


慢心ではなく、観察と理解によって導き出された確信。

自分たちの力をもってすれば、この程度の怪異など余裕で対処できる。

エラーラの唇に、不敵な笑みが浮かんだ。

勝手に決めつけず、まず、ただ、ありのままを視て、理解すること。

それこそが、本当の戦いであり、この世界を守るための答え。

エラーラは砕け散る空の彼方を見据え、魂の底からその言葉を解き放った。


「これが、真理だ!」


言い終えると同時に、エラーラは爆音とともに地を蹴り崩し、音速の衝撃波をその場に置き去りにして、砕けた天空の怪異へとまっすぐに飛び立っていった。


・・・・・・・・・・


次元を隔てた、賑やかな商店街の軒先で、揚げたてのコロッケを頬張っていたフウカは、ふと足を止めた。

サメの尻尾が、まるで心地よい春風を受けた小舟のように、優しく揺れる。


「……フウカさん?どうしたんですか?」


隣を歩いていたケンイチが不思議そうに覗き込むと、フウカは空を見上げた。

雲ひとつない、澄み渡った青空。

その向こう側から、ほんのわずかな、けれど、何よりも温かく誇らしげな「真理(ヴェリタス)」の波紋が、彼女の胸の奥へと届いた気がした。

自分が命を削って遺した愛の種芽が、今、あの子たちの胸の中でしっかりと芽吹き、咲き誇ったのだと。

もう、己の勝手な判断で世界を傷つける者は誰もいない。正しく相手を視て、愛し、理解して歩み出す強さを、あの子たちは手に入れたのだ。


「……ふふっ」


フウカの唇から、小さな、けれどこの上なく爽やかな笑みがこぼれ落ちた。

かつて全人類の運命を背負い、孤独な決断を下した魔導の始祖の顔はそこにはなかった。ただ、旅立った子供たちの健やかな成長を遠くから確信した、誇り高き「始祖(ははおや)」の、満ち足りた表情があった。


「フウカさん……?」


「何でもありませんわ、ケンイチ!」


フウカはくるりと身を翻すと、豪奢な毛皮の裾を鮮やかにたなびかせ、快晴の坂道を軽快な足取りで駆け出していった。


「それよりケンイチ!このコロッケ、最高に美味ですわ!帰りにあと十個買い占めていきますわよ!」


「ええっ!?十個もですか!?僕のお小遣いがなくなっちゃいますよー!」


「黙りなさいな!わたくしの胃袋を満たせる幸福を噛み締めなさい!」


サメの尻尾を跳ねさせながら、高らかに笑う異世界のお嬢様。

後を追う少年の困惑した叫びと、遠くで響く人々の笑い声。

吹き抜ける春風は、爽やかに、愛に満ちた二つの世界の未来を優しく包み込んでいた。

エンディングテーマ:スターシップトゥルーパーズ レッドプラネット サウンドトラック

https://youtu.be/44Lx3BO9VnE?si=QGDDAxz9ZydDhmNr


p.s

雪国の文化と無理解な親族から追い詰められて、温暖な静岡へと引っ越しました

戦略的撤退です

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