再起動7:【負けてもなお相手をナメ続ける人の暗喩】
イメージソング:伝説巨人イデオン サウンドトラック
https://youtu.be/4w64jlqc-JU?si=aVqSw_MzJQGTVB-f
死と、沈黙。
静寂が、戻った。
だが、それは平和ではなく、世界が息をひそめて次なる絶望を待つ、前夜の静けさに過ぎなかった。
そんな折、フウカの元へひとつの「使節団」が訪れた。
フウカは高級ソファに深く腰掛け、脚を組んで彼らを見下ろした。
サメの牙を覗かせながら、フウカは眉をひそめる。
「……何ですの、その冴えない面々は」
使節団の先頭に立っていた青年は、ガタガタと、震える手で羊皮紙の文書を抱えていた。
「こ、国連……代表部より派、派遣された……使節団であります……っ!」
「……はあ?」
フウカはため息をついた。
だが。
フウカの退屈は、わずか数秒で綺麗に消え去った。
青年が読み上げた文書の内容を聞いたからである。
『──本宣言を以て、国際連合加盟193か国は、フウカ・ヴェリタスに対し、総力を結集した「人類全域における全面戦争」を公式に宣言する。交渉の余地はない。人類の生存を賭けた最終決戦である』
青年も、同行していた事務次官たちも、フウカが激怒して自分たちを惨殺するのを待った。
しかし、フウカの口から漏れたのは、殺意の咆哮ではなく、可憐で、そして心底嬉しそうな笑い声だった。
「ふふ……あははははははははっ!!」
フウカは心底おかしそうに腹を抱えて笑った。
なぜか?
フウカにとって、この「全面戦争の通告」は、最高の朗報だったからだ。
(ああ……!なんということでしょう!わたくしの蛮行が、すべて、この人類の手によって許されたのですわ!)
もし人類が「お願いですから赦してください、降伏します」と謝罪してきたら、フウカとしても殺戮の熱が冷めてしまい、興ざめするところだった。あるいは、コソコソと暗殺者を送り続けるだけなら、ただの不快な虫むしりで終わっていた。
しかし、彼らは「全面戦争」を宣言した。
つまり、これからはどれだけ人間を殺そうが、どれだけ都市を焼き尽くそうが、すべては「戦争における正当な行為」として肯定されるのだ。ルール無用の殺し合いを、ルールとして、慣例行事として認めてくれたのだ。
フウカの胸は、かつてない開放感と純粋な感謝で満たされた。
「素晴らしい……!素晴らしいですわ、人間ども!あなたたちにも、それほどの胆力があったのですのね!」
あまりの喜びに、フウカは珍しく上機嫌になった。
彼女は興奮冷めやらぬ様子でソファから立ち上がると、震える使節団の青年や事務次官たちの元へと歩み寄り、親切にも「戦争のイロハ」を語り始めた。
「いいですか、全面戦争と宣戦布告したからには手加減は無用ですわよ? まず、毒ガスを撒くべきですわ。わたくしには効きませんが、まあ、周辺の人間が苦しみもだえる様は一見の価値があります。それから、核兵器というものがあるのでしょう?あれを躊躇なくこのプリンスホテルに雨あられと落としなさいな。わたくしがそれをどうやって反転魔法で送り返すか、見せて差し上げますから!」
フウカは目を輝かせながら、国連代表たちに「壊れた世界のつくりかた」を、極めて正確かつ懇切丁寧に解説してあげた。
「戦略兵器の配置は、わたくしの視界の外から行うのが基本ですわ。それと、補給線を叩くのは基本中の基本ですが、わたくしの補給線は『あなたたちの肉』ですので、兵士をたくさん前線に送り込むこと自体がわたくしへの補給になりますの。覚えておきなさいね?」
それは、あまりにも「実践的」かつ「正しい」講義であった。
……しかし。
意味がわからなかった。
圧倒的な「敗者」である人類の側には、フウカのこの、圧倒的な「勝者」側の思考を理解できる脳構造など存在しなかったのだ。
国連代表と各国の首脳たちは、フウカのその「異常なほどに饒舌な弾丸トークを繰り出す姿」を、完全に誤認した。
(……待てよ?)
使節団のリーダー格である事務次官は、青ざめた顔の中で、歪んだ思考を巡らせた。
(なぜ、この化け物はこんなに喋るのだ?なぜ、わざわざ攻略法や手の内をこちらに教えるような真似をする? 普通、真の化け物なら、宣言を聞いた瞬間に我々を殺すはずだ。なのに、殺さない……どころか、必死に説得しようとしている……?)
狂気的な錯覚が、彼らの脳内を支配した。
(そうか……!!屈したのだ!フウカ・ヴェリタスは、全人類が本気で結束し、全面戦争を仕掛けてきたという現実に、ついに恐怖したのだ!だから彼女は焦り、必死に『私は強いぞ、こんな兵器も効かないぞ』と、我々を牽制しようとしているのだ!!)
ひとたび思い込むと、すべての事実が都合よく歪められて見えた。
フウカが上機嫌で微笑んでいるのは「命乞い」に見え、親切な解説は「ブラフ」に見えた。
(人類は勝ったのだ!あの化け物は、全面戦争の脅しに屈した!!)
使節団の男たちの顔に、安堵と、そして急激な増長が浮かび上がった。
恐怖が去ったあとに訪れるのは、愚か者特有の傲慢である。
フウカは親切な解説をひと通り終え、息をついてソファに戻った。
「……というわけですわ。理解できました?それでは、さっそく戦争の準備に取りかかりなさいな。お茶でも飲んで、少し休憩してからお帰りになるといいわ」
フウカは、自分の上機嫌な気分を表現するために、使節団の職員にお茶を淹れさせるよう命じた。
ここで、その職員は、人類史上最大の、そして二度と取り返しのつかない「決定的な一歩」を踏み出した。
職員は、フウカに差し出すためのティーカップを用意する際、ワゴンに並べられた高級茶葉の缶から手を引き、その隣にあった安物の、粉末状のティーバッグをカップに放り込んだのだ。
職員の心の中に、暗い満足感が芽生えた。
そう、職員はフウカに提供する茶の質を、明確に一段階落としたのだ。
フウカを、露骨にナメたのである。
湯が注がれ、チープな合成香料の匂いが漂うカップが、フウカの前のテーブルに置かれた。
フウカは、そのカップを手に取り、優雅に口元へと運んだ。
そして、一口。
「……」
フウカの動きが、完全に止まった。
その口内に広がったのは、茶葉の芳醇な香りではなく、雑味と化学調味料の混ざった、安っぽい液体の味だった。
フウカの思考が、一瞬だけ停止した。
フウカはカップを見つめ、そして、ティーカップの横に添えられた安っぽいティーバッグのタグを目に留めた。
そして、使節団の男たちの顔を見た。
そこには、先ほどまでの死の恐怖はなく、どこかフウカを見下すような、せせら笑いを必死に噛み殺している愚か者たちのニヤけた顔があった。
冷笑!
圧倒的な、冷笑!
その瞬間!
フウカは、絶望を、理解した!
絶望!
それは、人類という種の「救いようのない浅ましさ」に対する、フウカ自身の絶望であった!
もう、対等な殺し合いは、成立しない!
彼らはただの、身の程を知らない、自尊心だけが無駄に肥大化した「ゴミくず」だったのだ!
もはや、和解などあり得ない!
許しなどあり得ない!
全面戦争という「楽しい遊び」すら、やる価値を失った!
次の瞬間。
破裂音すら聞こえない、完全なる同時性。
わずか1秒にも満たない時間の中ですべてが完了した。
国連代表、事務次官、使節団の職員、通信モニターの向こうにいた高官たち、そしてプリンスホテルの建屋内にいたすべての国連関係者。
彼らの胸腔を、突如として空間を突き破って現れた「それぞれの母国の国旗のポール」が、寸分の狂いもなく貫通した。
色鮮やかな巨大な旗竿が、男たちの心臓を穿ち、大理石の床や天井へと深々と刺さっていた。
使節団のリーダーであった事務次官は、自分の胸から生えた自国の国旗を見つめ、血を吐きながらフウカを見上げた。
見事に根こそぎ、建屋にいる者全員が、一瞬にして仲良く串刺しにされていた。
フウカは、冷たくなったティーカップを、床へと無造作に落とした。
「不愉快。」
フウカの声には、もはや感情の起伏すら存在しなかった。ただの絶対的な「処分」の意思だけがあった。
「人間に、戦う資格も、生きる価値も、認めません。全員、惨めに、死になさい。」
フウカが軽やかに、適当に指を鳴らした。
空間の法則が歪んだ。
フウカのデタラメな魔導が、世界全域の「座標」へと干渉を開始する。
フウカは、世界中の実験室やペットショップ、野山に存在していた「モルモット」を、地球上に存在する「すべての人間のふくらはぎの内部」へと直に転送し始めたのだ。
「ひっ……!?な、なんだこれぐあぁぁぁぁぁっ!?」
串刺しになった事務次官のふくらはぎが、一瞬で風船のように腫れ上がった。肉の内側に、突如として質量を持った生きた動物が叩き込まれたのだ。
内部から皮膚と筋肉が耐え切れずに破裂する。
ホテルの中だけでない。
この瞬間、世界中で、同時に悲鳴が巻き起こった。
路上を歩いていた歩行者、車を運転していたドライバー、家で寛いでいた家族。全人類のふくらはぎの中で、いきなり転送されたモルモットたちがいきなり暴れ出し、いきなり肉と骨を内側から破壊した。
しかし。
「あら……?計算が狂いましたわね。これは失礼でしたわね」
フウカは退屈そうに呟いた。
地球上の人間の数は約80億。それに対し、世界に存在するモルモットの数はせいぜい数百万匹に過ぎなかったのだ。ふくらはぎを破壊する弾丸となるモルモットが、途中で完全に底をついてしまった。
「まあ……何でもいいですわ」
モルモットの数が足りなくなったため、途中から「プレーリードッグ」と「ヒトデ」が代わりに使われた。
世界全域で、人類の脚が爆散していった。
モルモットに圧壊され、プレーリードッグの鋭い歯に噛み砕かれ、ヒトデの無数の管足と毒棘によって内側からズタズタに引き裂かれる。
数秒前まで「全面戦争」を宣言し、フウカをなめて安物のお茶を出していた人類の誇りは、文字通り「足元から」崩壊した。
世界中の街が、ふくらはぎを失って転がり回る何億もの人間の血の海と、肉を破って外へと這い出てきたモルモットやヒトデたちの鳴き声で埋め尽くされた。
フウカは、串刺しになって息絶えた国連代表たちの死体の間を、優雅に歩き抜けた。
「全面戦争?」
フウカは窓の外、絶叫と破裂音が響き渡る世界の終わりを見下ろし、冷酷な笑みを浮かべた。
「いいえ。これは戦争ではありませんわ。……ただの、駆除です」
人間どもの究極の愚行。
絶対的な圧倒者を前にして「ナメる」という最悪の選択肢を取った人類に、もはや、残された未来などどこにも存在しなかった。
和解の可能性は、完全に、永遠に、灰となって消え去ったのだった。
それから数日後。
大国ゼランティア。
王都から遥か数千キロの彼方、広大な森林地帯と豊かな自然資源を誇るその超大国は、たった一瞬で地図上から「緑」という色彩を永遠に失った。
フウカ・ヴェリタスの気まぐれな魔法によって、ゼランティア全土に生息していた樹木、太古の巨木から、街頭の街路樹、果樹園の小木、果ては植木鉢の観葉植物に至るまで、文字通り「すべての木」が同時に内部から爆破されたのだ。
大陸を揺るがす大爆発の連続。数億本もの樹木が一斉に弾け飛び、凄まじい木屑と火柱が空を覆い尽くした。ゼランティアの国土は一瞬にして灰色の荒野へと変わり、木造建築は全滅、何百万もの人々が吹き飛んだ木々の破片に穿たれて絶叫した。
だが、この惨劇の報せが王都へと届いたとき、王都の人間たちが示した反応は、絶望でも恐怖でもなかった。
「ゼランティアが滅びたぞ!」
「ざまあみろ!いい気になって王都を見下していた天罰だ!」
「フウカ様は素晴らしい!我らの宿敵を粉砕してくださったのだ!」
王都の街頭では、民衆が湧き立ち、酒を汲み交わし、歓喜の歌を歌い始めた。
昔から王都とゼランティアは激しい覇権争いを繰り広げてきた歴史があった。歴史的対立、経済的摩擦、国民感情のもつれ。それらの醜い恨みが、ゼランティアの悲劇を前にして一気に噴出したのだ。彼らは、フウカという絶対的な災害が自分たちの「敵」を打ち倒してくれたのだと都合よく解釈し、他国の惨状を酒の肴にして見下し、嘲笑った。
ホテルの最上階から、その狂乱を見下ろしていたフウカは、薄氷のように冷たい瞳で目を細めた。
フウカの胸に湧き上がったのは、憐れみすら含まない、純度100パーセントの「侮蔑」であった。
自分たちもまた、足の骨を爆砕され、明日の命すら保証されていない絶望の渦中にいるというのに、他者の不幸を見て優越感に浸り、歓喜の舞を踊る。人間の愚かさは、底を知らなかった。
だからこそ。
フウカの「優しさ」は、皮肉にも、この哀れで滑稽な王都の住人たちだけに集中して注がれ始めた。
極上の家畜には、殺す直前に特別な「餌」を与えるように。
「呼びなさい」
フウカの命により、王都の政界から二人の政治家がペントハウスへと引きずり出された。
一人は、長年政界の重鎮として君臨してきた老練な男性政治家。
もう一人は、若くして頭角を現した新進気鋭の女性政治家。
二人は、血の匂いが残り香として漂う豪華な応接室で、フウカの前に立ち尽くしていた。フウカは優雅に、不味すぎる紅茶を飲みながら、冷ややかな笑みを浮かべて問いかけた。
「さて、政治家の方々。わたくしに教えてくださいな。この王都の、今後の『経済のあり方』についてを」
これから殺す国に対して、夢を語らせる。
あまりにも理不尽で、あまりにも悪趣味な問いかけ。
男性政治家は、最初は汗を滝のように流し、ひたすら保身のことだけを考えていた。
どう発言すれば命が助かるか、どう言えばこの化け物の機嫌を損ねずに済むか。
しかし、フウカがじっと自分を見つめ、一切の攻撃をしてこない様子を見ると、彼の脳内で長年の「男としての傲慢さ」が急速に鎌首をもたげた。
(待て……この化け物は、我々プロに教えを乞うている……?つまり、結局は力を振るうだけの小娘ではないか!)
愚かさの極みである。
この期に及んで、彼は胸を張り、フウカに向かって上から目線での説教を始めたのだ。
「まあ、フウカ君、言わせてもらうがね!経済というものは暴力だけで動くものではないのだよ!それは、市場の自由、通貨の信用、そして我々指導層の巧みな舵取りがあって、初めて成り立つ!君がいくら街を壊そうとも、我々政治家の経済手腕がなければ、君自身も明日食べるものに困ることになるのだぞ?とりあえず何かを反省して、我々の指示に従いたまえ!」
威風堂々と説教を垂れる男性政治家。
一方、女性政治家は違っていた。彼女は最初、同性でありながら絶対的な力とカリスマを持ち、世界を意のままに操るフウカの存在に強烈な「女としての嫉妬」を抱いていた。なぜ自分ではなく、あのような小娘が世界の中心にいるのかと。
しかし、フウカの発する圧倒的な存在感を前にして、勝ち目など爪の先ほどもないと察するや否や、彼女はプライドをあっさりと捨て、露骨な媚びを売り始めた。
「素晴らしいお考えですわ、フウカ様!おっしゃる通り、旧態依然としたこの国の経済など一度解体すべきですわ!私をお側に置いていただければ、フウカ様のためだけの新たな体制を完璧に構築して差し上げます!私こそが、フウカ様の唯一無二の忠実な僕ですわ!」
男は、上から目線の説教。
女は、他責のための無様な擦り寄り。
ふたりの「人間様」の醜態を交互に見つめ、フウカは心底失望した。
「……期待したわたくしが愚かでしたわ」
フウカが小さく溜息をついた、その瞬間。
何の前触れもなく、王都中のすべての「病院」と「診療所」が爆発した。
フウカの意思ひとつで、王都に存在する全ての医者が一瞬にして爆殺されたのだ。医療という概念そのものが、王都から物理的に消滅した。
その凄まじい爆発音と血の匂いが街中に充満したとき、王都の「犬たち」の精神が崩壊した。
人間の狂気と理不尽な暴力の連続に耐えきれなくなった街中の犬たちが、たまらずに涙を流し、悲痛な声で泣き叫びながら、路上に転がっていた生野菜をガツガツと貪り食べ始めたのだ。肉食の習性を捨て、悲しみを紛らわせるようにキャベツや人参を貪り食う犬たち。
すると、どこからともなく無数の「猿」たちが集まってきた。
猿たちは、泣き叫びながら野菜を食べる犬たちの背後にそっと寄り添うと、狂気の世界に怯える犬たちを慰めるかのように、その毛を優しく、丁寧にむしり始めた。毛を抜かれた犬は皮が剥き出しになり、痛みに追い打ちをかけられながらも、ただただ泣きながら野菜を食い続ける。カオスと不条理が完璧に融合した地獄絵図。
だが。
ペントハウスにいた男性政治家と女性政治家は、窓の外の地獄や爆発音を見ても、まったく動じなかった。
なぜなら、彼らは「自分自身に危害が加えられていない」と知るやいなや、たちまちフウカを馬鹿にし始めたからだ。
「ははっ、医者を爆殺した?愚かだねえ。自分が怪我をしたときに治療も受けられなくなるぞ!」
「本当におバカな小娘ですわね!政治も医療も分からないなんて、ただの力バカじゃありませんこと?」
二人はクスクスと笑い合い、フウカをあざ笑った。
だが。
この時点において、この二人の政治家たちは、知る由もなかったのだ。
自分自身が、すでに死んでいるということを。
そう。政治家たちが見ていたこの光景、フウカに説教をし、媚びを売り、彼女を馬鹿にして笑っていたこの一連の時間は、すべて彼らが死ぬ直前に見ていた走馬灯に過ぎなかった。
これより、フウカ・ヴェリタスの真の「平等」が炸裂する。
私にとって、この世界に存在するあらゆる存在に価値の差などなかった。
命の重さも、物質の価値も、人間の階級も、私の前ではすべて等しく「無」であり「処分対象」であった。
フウカは口を大きく開いた。
そこに転がっていた、建設現場から吹き飛んできた重い「鉄筋」。
逃げ遅れて泣き叫んでいた「少年」。
山から降りてきて暴れていた「イノシシ」。
腰を抜かして動けない「老婆」。
フウカは、差別を一切しなかった。
鉄筋の硬さも、少年の柔らかさも、イノシシの獣臭さも、老婆のしわがれた肉も。フウカはすべてを等しく、ただの「物質」として口の中に放り込み、噛み砕いて平らげた。
そこに違いは存在しない。
鳥かごで鳴いていた「キュウカンチョウ」。
おびえて震える「少女」。
床に転がっていた一本の「えんぴつ」。
キュウカンチョウの羽も、少女の生き血も、えんぴつの黒鉛と木くずも。
フウカの絶対的な破壊の前では、何の違いもなかった。
等しく、平等に、残さず喰べられた。
人間の愚かさが極限まで光り輝いた世界で、ただ一人存在する絶対者フウカ・ヴェリタス。
彼女の「平等」とは、すべてを等しく愛することではなく、すべてを等しく破壊すること。
ただ、それだけであった。




